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孤高の天才  作者: 深水晶
第三部 波瀾の幕開け
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第六十七話 不安

 前回、ジェレミーと待ち合わせたバーのあるビルへと向かった。尾行を警戒し直接向かわず、幾度も道を折れて遠回りした。

「表通りから遠いんだな」

「ああ」

 あのビルはジェレミーの実家に近い場所にあった。そこはスラムではないが、あまり富裕ではない中級層が住むアパルトメントが密集した地域である。ジェレミーの父は教師、母は主婦である。

 私の生家だった場所は売り払った後の住人が大きな改築を行ったため、面影は何一つ残っていない。そのことについては、少々後悔している。

 思い出は記憶の中にあれば良いと考えていたが、なくなってみれば淋しいものだと後になって気付いた。ジェレミーに止められた時に、家だけでも手元に残して、借家にでもすれば良かったかもしれない。しかし、なくなってしまったものは仕方ない。後悔しても手遅れだ。

「この辺は詳しいのか?」

 尋ねられて、はてと首を傾げた。子供の頃はともかく、現在はアスト社や寮近辺ほど詳しいというわけではないだろう。

 良く行く場所の周辺については知っているが、それ以外に新しくできた道や建物についてはサッパリだ。だが、この辺りはほとんど行政の手が入れられていないため、大きな変化はそれほどない。

 さすがに住人や商店あるいはビル内のテナントの入れ替わりはあるだろうが、ずっと残っている店もある。

「子供の頃は近所に住んでいたが、熟知しているとまでは言えない」

「へぇ、あんたも子供の頃は外で遊んでたのか」

「どういう意味だ?」

「いや、なんとなくあんたは外で遊び回るより、家で読書や勉強しているイメージだった」

 確かに読書や勉強は嫌いではない。が、毎日のようにジェレミーが家にやって来て連れ回されたので、引きこもる暇などなかった。

 ジェレミーと一緒にいると、知らないことや自分一人では気付かないことに多々触れる時があり、その新鮮さを私は心地よく感じていた。読みたい本が手元にある時は、面倒に感じなかったこともなくはないが、日暮れ前には家に帰るのだから、その後に読めば良い話である。そのために、時に明け方近くまで読みふけってしまい、翌日はちょっとつらい思いをしたこともあるが、自業自得である。

「ラダー、お前はどうだった?」

「え、俺か? この外見だと信じて貰えないことが多いが、セントラルへ行くまでは家から外に出たことはないな。もっぱら読書と勉強してた」

 そう言えばそうだった。ラダーは古代文明遺産のロボットだ。学習が足りていない、中身が幼い子供の状態で、人目に触れさせるわけにいかなかったのだろう。

 おそらく初期は存在を秘匿する予定だったのだろう。ラダーが、彼がこれほどまでにリアルじゃなければ、誰もがそうするべきだと判断するはずだ。

 正しいこと、正しいように見えるものが、本当に正しいのか、全知全能ではない不完全な人間には判断できない。

 私だって、これからどうすべきか、彼をどう扱うべきか、悩み続けている。理論的に考えた場合の判断と、(こころ)で考えてしまう希望が、一致しないのだ。正直、自分でも戸惑っている。

 彼のようなロボットや人工知能を作ってしまえる古代文明の技術に、素晴らしいと称賛・感嘆したくなる気持ちと、そら恐ろしいと恐れる気持ちと、羨ましいと焦がれる気持ちが、複雑に絡まり合いながら混在している。

 だが、私はラダー人工物(ロボット)だと知る前まで、アイクにそこまでの精巧さを求めたことは皆無だった。人の友人たり得る人工知能を目指すと銘打ちながら、せいぜい犬猫あるいは幼児程度の疑似知能を、再現できれば良いと考えていた。

 理想形(ラダー)が現れなければ、私はそこで満足していた、否、満足出来ていたのだ。

 だが今、完全な理想形が目の前に、手で触れられるところにいる。私は自分がこんなに欲深い人間だとは知らなかった。人の欲求は際限がないものだとは知っているつもりだったが、それは知識として知っていただけなのだ。

 ラダーはこんな私に、半ば呆れ愚痴を言いながらも、いくばくかの敬愛・親愛のような感情を向けてくれている。それが例え、見せかけだけの疑似的に表現されたものだったとしても、抑止力になる。

 ほの暗く薄汚れた欲望、身勝手な欲求に走らずに済むのは、彼の真っ直ぐで善良な瞳のおかげだ。理性というものは案外強い欲求に対して脆いものだと、学習した。

 彼を知れば知るほど、解剖もとい解体して隅々まで調べてみたい、なんて思うなんて──つい数日前まではあり得なかった。

 危険だな、と思う。今は大丈夫だ。我慢できる。だが明日、または明後日、あるいは来年は? 見えない未来のことまで、しっかり保証できるだろうか。

 残念なことに自分では絶対に大丈夫だと断言できなかった。

次かその次くらいでクライマックス書けたら良いなと思ってますが、

またもや独白で埋まりそうな予感もチラホラ。

無口&寡黙キャラの一人称は独白多くなるのが欠点です。

次話あたりからちょっと暗い展開になります。すみません。


以下修正

×人口

○人工

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