第六十六話 信頼
谷崎が敵だとは思ってない。が、確かにこのまま迎えを待って合流できるかどうかは、かなり怪しい。しかし、どうしたものか。モノレールは動いていないだろう。全く知らないわけではないが、土地勘があるとも言い難い。アルストンまで徒歩で行けない事もないが、襲撃されるかもしれない事を考えれば、妥当とは思えない。
正直なところ、あまり巻き込みたくなかったのだが、仕方ないだろうか。
「リック、どうしたんだ?」
「近くに友人の住むアパートがある。自家用車も持っているから、そちらへ向かおう」
あの店の公衆電話から掛けて、こうなった事を考えると、同じ事を繰り返したくない。盗聴されている危険性も考慮して、店の名前を口頭で告げなかったのだが、もしかしたら尾けられている可能性も皆無ではない。
仮に尾行されていたり、居場所のわかる発信器のようなものを付けられていたとしたら、素人の私に対処できるだろうか。やはり、頼るべきではないのではないか。
「その友人って、どんなやつ?」
「刑事だ。見た目は軽薄だが、職務には真面目で真摯で熱心すぎるのがネックだな。良いやつではあるのだが」
「なるほど、リックの同類か」
失礼な。あそこまで酷くはない。少なくとも恋人とのデート中でもフォローなしに仕事に駆け付けるような──いや、私に恋人がいた事は生まれてこの方一度もないが。
「……あんたはその友人を信頼してるんだな」
信頼? はて、どういう意味だろう。勿論、ジェレミーのことは信頼している。だが、何か含むものがありそうな言い方だ。
「確かに彼、ジェレミーは子供の頃からの親友で信頼している。できれば厄介事には巻き込みたくないが、私よりは荒事や面倒な事態に向いているのも確かだ。何より、自家用車を持っている友人は彼しかいない」
ラダーを除けば唯一の友人だ。彼を友人と呼んで良いのか、あまり自信はないが。
「あんたさ、いつもそれか?」
「どういう意味だ」
「信頼している親友相手にも、巻き込みたくないとか言ってるのかって事だよ。あんたは少し、人を頼ることを覚えた方が良い。養父が昔、言っていた。『頼るべき者を頼れないと、人はいずれ潰れるか壊れる』ってな。人間には知恵や知識があるが、一人で何もかもやるのはキツイだろ。
信頼に足らない相手なら、頼りにするべきじゃない。だけど、そうでなく、更に支えてくれる能力がある相手を頼らないなんて、相手が知ったら悲しむだろう?」
「悲しむ?」
理解できなかった。言葉の意味は理解できるのだが、何故そうなるのか理解できない。
「あんた、本当、酷いやつだな。まぁ以前、あんたから聞いた話からすれば、きっと人に頼った事がほとんどないんだろうが、そんな調子じゃ周囲もあんた自身も気の毒だ。少しは人の好意に甘えた方が良い。できない事はないだろう?」
真面目に語るラダーには悪いが、理解はできなかった。だから、話題を変える事にした。
「ラダー。もしかすると尾行されているかもしれないから、直接目的地には向かわない。ちょっと回り道するが、かまわないか?」
私がそう尋ねると、ラダーは頷いた。
「わかった。俺も周囲には気を付ける。何かある時は肩か腕を叩いてくれ。俺も何か気付いたりした時は、そうするから」
「了解した」
そして私達は、通りから一本入った裏道へと足を踏み入れた。
超絶久々更新です。七年ぶりってどんだけやねん!てツッコまれそうですが。
すみません。
キカプロコンテストに応募する事にしました。
週1更新できれば良いな、と考えています。短いくせに、とか言われそうですが。メイン更新は「オネエ剣士」の方になります。本当すみません。