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孤高の天才  作者: 深水晶
第三部 波瀾の幕開け
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第六十二話 追及とその対応

 席に戻ると、ラダーは手持ち無沙汰を紛らわすためか、各テーブルに備え付けてあるモニターをせわしなく操作していた。モニターは本日のニュース、現在上映中の映画情報、今月リリースの新曲情報、占いなどをめまぐるしく表示しては消えている。

「ラダー」

 声をかけると、ラダーは私の方をちらりと見上げ、またモニターへと目を落とす。

「ちっともニュースにはなってないみたいだぜ」

 ぼそり、とラダーは呟いた。不機嫌そうにも見えるし、考え込んでいるようにも見えるし、何か企んでいるようにも見える。

「いったい何なんだ?」

 硬い口調でラダーは呟いた。

「……さあな」

 結局のところ、ルグランが何を隠しているのかは不明なままだ。証拠は何もない。ルグランに何か秘密があるのは間違いないが、現在時点では予想・空想の域を出ない。

「ふざけてんのか?」

 ラダーはようやくモニターをもてあそぶのをやめて言った。そのとがった口調に、私はまじまじとラダーの顔を見つめた。ラダーは私の視線に気付くと、真顔で真っ直ぐに見返してくる。

「俺は、当てにならないか?」

 その言葉に首を振る。

「いいや。そんなことはない。お前がいなかったら、私は確実に死んでいたと思う。とても感謝している」

「だったら、どうして俺を頼らないんだ? 何故谷崎なんかを頼るんだよ。あいつには話せても、俺には話せないっていうのか?」

「……ラダー」

「俺は今、あんたの目の前にいるんだぜ? それでも、ここにはいない谷崎の方が信頼できるのかよ。だったら、俺は何だ? あんたにとっての俺は何なんだよ。職場での部下とかいう答え方はするなよ、リック。プライベートの時のあんたが、俺のことをどう思ってるのか、それを聞いているんだ。俺はそんなに頼りないのかよ」

「ラダー、私は……」

「俺がバカみたいだろ。あんたに振り回されてばっかりで」

「私は別にそんなつもりは……」

「わかってるよ。俺が勝手に振り回されてるだけだ。あんたがそんなに器用な男じゃないのは学習してる。ただ、俺は悔しいんだ。俺は谷崎に負けるのか? それって俺が信用できないからか、それとも俺がガキだからか? 俺には頼ってくれないのかよ。いい加減腹をくくって話してやろうという気にはならないのかよ」

「…………」

 信用とか信頼の問題じゃない。

「私は、お前を守りたかったんだ」

 私はうつむく。

「だから、巻き込みたくなかった」

 そう言うと、ラダーは苦笑を漏らす。

「遅いよ。もう十分過ぎるほど巻き込まれてる。だから諦めろよ」

 ラダーは子供をなだめるような口調で言い、私の頭をそっと撫でた。私はびくりと背を震わし、顔を上げた。困ったような顔で、優しく、けれどどこか不敵に笑うラダーの目と合った。

「諦めて、俺に全部話せよ」

 穏やかだが、有無を言わせぬ口調で、ラダーは言った。

「じゃないと襟首掴んで、締め上げるぞ」

「……恐いな」

 私が言うと、ラダーは困ったように顔をしかめる。

「ちっともそういうふうには聞こえねぇよ。脅されてる時は、もうちょっとそれらしく振る舞ってくれよ」

「脅されていたのか?」

 聞き返すと、ラダーは顔をしかめる。

「本気モードで脅されたいなら、そうしてやってもいいぜ。ただしチビるなよ」

 私は返事の代わりに苦笑した。

「悪役は不向きのようだな、ラダー」

「うるせぇよ。とっとと吐け」

「一応言うが、お前が責任感じる必要はないぞ。悪いのはルグランだ。もっともそんな男を一人でこっそり尾行しようとした私に非があるんだが」

「何を見たんだ?」

「何をと言われても、決定的なものは何も見ていない。後をつけたら、いきなり囲まれて、後はお前が知る通りだ」

「もしかして、あんた、トラブルメーカーか? それともトラブルを引き寄せる凶運の持ち主か?」

「どちらも似たような意味じゃないか」

「普通に生きてる人間は、その手の類のトラブルには巻き込まれねぇんだよ」

「しかし、まさかあんな目に遭うとは普通思わないだろう」

「俺は、ルグランのオッサンより、あんたの方が非常識なんだと思うぜ。ただし、あのオッサンは大嫌いで虫酸が走るけどな」

「非常識の方が良いのか?」

「ストーカーや変質者に比べたらな」

「…………」

 それは気の毒に、と思った。ラダーに対してではなく、ルグランに。なんとしてでも手にいれようと、なりふり構わず奔走している相手に、こんなことを言われていると知ったら、どういう顔になるだろう。見てみたいと、ちょっと思ったが、悪趣味過ぎる。

「おい、リック?」

「……ルグランが聞いたら、嘆くぞ」

「は? そんなの知ったことか。そういう台詞は、あのオッサンにさんざん追い回されてから言ってくれよ。俺はホモでもマゾでもないから、ちっとも嬉しくないぜ。相手がナイスバディの美女だったとしても、あんなに追い回されたら、興ざめだ。物には限度があるし、人間の許容力や忍耐力にも限度があるんだ。そういうことを学ばないやつは、男でも女でも嫌われるのは当然だろ? バカの一つ覚えみたいにしつこく追い回すのは最悪だ」

「心得ておこう」

「あんたはどこまで本気で、どこから冗談なのか、ちっとも判らないな。いつも真顔でほとんど無表情だし」

「私はいつも本気で真面目だ」

「……恐過ぎるよ、それ」

 ラダーはぼやいた。

「ところで、あんたが俺に隠してることって、一体何だ? 養父のこと以外に何かあるんだろ? いい加減諦めて俺に話せよ。俺に無関係な話じゃないんだろ?」

「しつこく追い回すのは最悪なのだろう? とするなら、しつこく問い詰めるのはどうなんだ?」

 私の言葉にラダーの顔は真っ赤に染まった。

「なっ、きたねぇ! そ、そういう聞き方……っ!」

「すまんな、ラダー。諦めてくれ」

「ひでぇよ、リック!! どうしてそういう言い方するんだよ! しかもそこで謝るな! 全然謝られてるように見えねーし!!」

「誠意を込めて謝れば良いのだな?」

「そういう問題じゃねぇ! あんた、実はわざと言ってるだろう!」

「悪いが全く説明する気はない」

「ちくしょう、開き直るな!! あんた本当最悪だ! 始末に終えねぇ!! クソ、勘弁してくれ!」

「本当にすまないとは思っているよ、ラダー」

「……あんた、本気でタチ悪ぃよ」

 ラダーはうめいた。

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