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孤高の天才  作者: 深水晶
第二部 孤高の天才
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第三十八話 ゴードン兄弟

「ところで、ルグランがどこの金融業者から金を借りたのか、まだ聞いていないのだが?」

 ジェレミーが言った。

「ああ、そうですね。つい、話がそれてしまいました。どうしても気になったので」

「この中で一番情報を持っていないのは俺だからな。正直なところ、その次期社長がルグランを支援しているかもしれないという話は興味深い。だが、俺はあんたを信用してないんでね、谷崎さん」

「では、何故私から話を聞こうとするのですか?」

「あんたの話の裏を取るためにだ。あんたが本当の事を話しているのか、それが事実であるかどうかを確認して、真相を知るためにだ。あんたが嘘を言っているのか、事実を話しているのかは、後でいくらでも確認できる。だが、俺は超能力者ではないんでね。あんたの言動が一切ない状態で、何かを知ったり気付いたりする事はできないんだ。だから、嘘でも事実でも関係ない。あんたの話が聞きたいんだ。そうすれば、今は理解できずとも、少なくともあんたが何を感じているか、何を考えているかくらいは、理解できるようになる。理解しがたくても、理解しようと努力するさ。それが俺の領分だからな」

 谷崎は苦笑した。

「本当に、おかしな人達だ。とても、興味深い。正面切って『信用してない』と言われて、こんなに嬉しいと感じたことはまったく初めてです。本当にあなたを味方にできたなら、非常に心強いだろうという事も判ります。あなたは信頼に値する人だ、クォートさん」

「褒められても何も出ないぜ。御託を並べて、煙に巻かれるのはもうたくさんだ。あんたの舌の滑りようには、正直うんざりしそうだぜ、谷崎さん」

「私のような口下手の言葉に、それほどまでに楽しんでいただけているとは、実に光栄ですよ、クォートさん」

「あんたは今度は俺をからかって弄ぶ気か!? 勘弁してくれ、谷崎さん。俺は、そうそう気が長い方じゃないんだ。そこの、ぽやーっとした天然系の眼鏡の金髪と違ってな」

「……それは私のことか? ジェレミー」

「他に金髪がどこにいる。俺の髪は茶色で、谷崎は黒だ。眼鏡と言ったら、お前と谷崎の二人だが」

「…………」

「それはともかく、谷崎さん。あんたは、一体俺たちをいじめて一体何を企んでいるんだ?」

「企むだなんて人聞きが悪いですね。単に口下手なだけですよ」

「……あんたな、それ以上言うと、本気で留置所叩っ込むぞ?」

「どういう罪状でですか?」

「公務執行妨害だ」

 真顔で言うジェレミーの言葉に、谷崎は苦笑した。

「……よく言いますね」

「それが嫌なら、さっさと答えろ。あんたの背後に檻付きの部屋が見えるぜ?」

「それが事実であるなら、幻覚でしょう。知り合いの精神科医を紹介しますよ」

「……谷崎」

 ジェレミーは谷崎を呼び捨てにして、低く唸った。谷崎は苦笑しながら、肩をすくめた。

「そうですね、本当に公務執行妨害で逮捕されないうちに、白状しておきましょうか。……ゴードンという男をご存じですか?」

「ゴードン? まさか、フランシス・ゴードンあるいはマックス・ゴードンなんて名前が出て来るわけじゃないだろうな?」

「事情通の方がいらっしゃると、本当に話が早くて楽ですね。余計な説明をしなくて済みます」

「まさか!! 嘘だろ!? あの『血みどろマックス』が背後にいるってのか!? 冗談だろ!! それこそ、なんで警察に届けないんだ!! あんたも弁護士なら知ってるだろう!? あいつは複数の重犯罪容疑で世界的に指名手配されている男だぞ!?」

「……私が知っているのは、兄のマックスではなく、弟のフランシスの方の動向なのですけどね」

「ちょっと待て! なんでそれを隠匿してる!! 冗談じゃないぞ!? あんたや俺だけの問題じゃないんだぜ!? 『冷血フランシス』がここにいるって言うのか!? やめてくれよ!! 俺一人じゃ荷がかちすぎるぜ!!」

 ジェレミーは大仰な悲鳴を上げて、頭を抱えて突っ伏した。

「……そ、そんなにすごい大物なのか?」

 私がジェレミーに尋ねると、谷崎が苦笑しながら先を続けた。

「そうですね。巨大犯罪地下組織のリーダーと、サブリーダーの名前です。ゴードン兄弟と言えば、名前も顔も業界では有名ですよ。ただ、しょっちゅう潜伏場所や犯罪を行う場所・種類・やり口を変えるので、有名な割にはその犯罪も居所もなかなか掴めないことでも有名です」

「…………」

 ジェレミーはまだ呻いている。

「が、ルグランが金を借りたのはその末端組織でね。本来ならば、そのゴードン兄弟のいずれにも関わることなく終わる話──おそらくは、取り立てが不可能となれば、殺される程度で済む話──だったはずです」

「……恐ろしいことを平然とおっしゃいますね、谷崎さん」

 私は額にじっとり冷たい汗が浮かぶのを感じた。

「たぶん、推測するに、ルグランはカーティスの持っていた何らかの情報を命乞いのために売ったのです。それが何らかの方法によって、フランシス・ゴードンという男の耳に入ったのでしょう。さすがにフランシス本人は動いていないようですが、彼の片腕とも呼ばれる人物がこの地区──カルディックに、潜伏しているのです」

 がばっとジェレミーが顔を上げる。

「何だと!? アルトゥーロか? あいつがここに!?」

「ちなみに、解説すると、アルトゥーロ・ロッセリは名前は有名ですが、誰も顔を見たことがないので有名です。フランシスが非常に重用している男だと噂されていますが、誰も彼に会ったという人物が出ないことで、謎に包まれた人物で、性別・年齢も不詳です。名前からすれば男性と見るのが普通ですが、偽名という可能性も考えられます。なにしろ、正体不明・詳細不明の犯罪者ですから」

「それで……アルトゥーロ・ロッセリは一体どこに隠れてるんだ?」

「そんなことが素人の私に判るはずがありません。慎重に探りは入れていますが、なかなか判明しません。下手すれば殺されてしまうので、こちらも危ないことはできません」

「……だったらその素人がそんな事に手を出すなよ」

 ジェレミーは呻いた。

「とにかく、詳しいことが判り次第、他のいくつかの件と共にご連絡いたしますから、本日はこれでお引き取り願えますか? 実は、そろそろ来客との約束の時間がありますので」

「……ああ、これは、本当に長い間お邪魔いたしました」

 私は頭を下げたが、ジェレミーは谷崎を恨めしげに睨み付ける。

「……本当に連絡してくる気があるんだろうな?」

「当たり前です。……本当に、一人では心許なく思っていたのですから」

 ジェレミーは声にならない悲鳴を上げ、罵声を洩らした。

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