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孤高の天才  作者: 深水晶
第二部 孤高の天才
29/70

第二十八話 強盗殺人

「第二部 孤高の天才」開始です。

「心して聞いてくれ」

 デザートが終わった後、出された珈琲を間に挟みながら、ジェレミーは言った。

「ああ」

「正直言うとな、お前に今回の話を聞いた時は、まさかと思った」

「知ってるよ」

「今でもバカな、と思ってる。半信半疑だ。……まどろっこしいのは性分じゃないから、はっきり単刀直入に言う。リッキー、お前は手を引け」

 それはひどい。

「ジェレミー」

「言いたいことは判ってる。でも、俺はお前を信用してないんだ。したくても、できない。お前がどういう性格か知っているからな」

「ひどいぞ、ジェレミー」

「俺はな、お前が俺と約束したからって本当に一人で先走らないでくれると思えない。お前が約束を破ると思っている訳じゃない。約束したことを忘れてしまうんじゃないかと案じてるんだ」

「……ジェレミー」

「けど、お前に何も教えずに暴走されるのは、もっと恐いからな。だから、一応話す。……ラダーの話の裏付けは全て確認取れた。本当は、たった一つの疑問と問題がなければ、俺はこんなに急いだりはしなかった。お前の杞憂だと思っていたし、そう信じたかったからだ」

「……何を言い渋っているんだ? ジェレミー」

 私が問うと、おもむろに珈琲カップを掴み、一息であおるように飲み干した。それから真っ直ぐに、私の目を見て言った。

「……彼の養父、ジョーゼフ・ラダーは亡くなっている」

「なんだと!?」

 一気に血の気が引いた。

「仮釈放後、強盗事件に巻き込まれ、刺殺された。犯人は捕まっていない。それから、その事件で、他に殺傷された者はなく、金や物も奪われていない。それと一つ、彼は友人や顧問弁護士に身の危険を感じていると、こぼしていたらしい。が、実際何か事があったかどうかは確認が取れていない。また、彼はティボットの彼の邸宅に不審人物がうろついているようだから、帰りたいと監察管に訴えたが、仮釈放中であるために、監視することが難しいティボットへ帰ることは許可されなかった。そのため、彼は脱走を図り、独力でヒッチハイクで、ティボットに向かう途中、事件に巻き込まれたそうだ」

 私は蒼白になっていた。

「ジョーゼフ・ラダーが殺された?」

 強盗と殺人という言葉は私の脳裏に、嫌な記憶を蘇らせた。

「……そうだ、リッキー。お前の親父さんと同じ死に方だ。状況は少し違うがな。けど、絶対早まるなよ? 相手はお前の父親じゃない。職場の部下の、顔も知らない義理の父親だ。お前にとっては赤の他人で見知らぬ人間だ。死んだのは、二年半以上前で、お前が全く預かり知らぬ場所で、お前とは全く無関係に死んだんだ。彼の死に、お前が責任を感じる必要はないし、お前が何かしてやらなくちゃならない義理はない。彼を殺した犯人と、その経緯や理由は、ちゃんと警察が、俺の同僚が血眼になって捜査している。このまま犯人を逃したりしたら、沽券に関わるからな。誰だって必死になる。例え殺されたのが、仮釈放中に逃亡した男であっても、人が一人殺されているんだ。見逃すような奴は、俺の同僚にはいない。上司が腐ってたとしてもな。人間の命に重いも軽いもない。皆平等だ。殺されたのは、一般人だった可能性もあるんだ」

「……判らないぞ。私の父のように、表向きはそうとして、何者かに故意に殺害されたのかもしれない」

「バカな。ジョーゼフ・ラダーを殺して、一体誰に、どんなメリットがある?」

「……ルグランが――私の同期の男が――彼の屋敷にある何かを狙い、ラダーに――私の部下に――接触していた。ラダーはルグランをストーカーと呼んだ。実家に強盗が入ったことや、その一週間前に彼が帰宅した際に、近所に住む婦人に、怪しい男が彼の家の様子を探っていたようだと聞かされたことも聞いた。彼の家や財産は、ジョーゼフ・ラダー氏の顧問弁護士タニザキ・セイイチロウという人物が、ジョーゼフ氏の逮捕直後から現在に至るまで、ラダーに生活費を送金する以外は誰にも触れさせぬよう凍結・管理しているらしい」

「……そうなのか?」

 慎重な口調で、ジェレミーは言った。

「あと、ジョーゼフ・ラダー氏は、トレジャー・ハンターで、遺跡発掘家で『崩壊』前文明研究者だそうだ」

「なんだ? それ」

「独学で自称らしいがな。ティボットには、遺跡を発掘しに来て、そのまま家を建てて定住したそうだ。私は彼にタニザキ氏の連絡先を聞いた。早速、明日、彼に会おうと思っている。既に連絡済みで決定事項だ」

「待てよ、リッキー」

「止めても無駄だ。彼の弁護士に会うことは、暴走でも先走りでもない。それにラダーとも約束した。何か判ったら話して欲しいとも頼まれたのだ」

「……判った、リッキー。俺も一緒に行こう」

 その言葉にとても驚いた。

「なんだって?」

「俺もタニザキ氏には会いたいと思っていた。刑事の俺と一緒なら、聞き出せることもあるかもしれない。一緒に行こう」

「ジェレミー、お前仕事は大丈夫なのか?」

「心配すんな。午前中は非番だ。今日の内に休みを手配した。やりたい事があったからな」

「……私が頼んだからか?」

「俺も興味を持ったからさ。ジョーゼフ・ラダーが殺されていなかったら、こんなに乗り気にならなかっただろう。確かに俺も彼の死に疑問を感じてるのさ。あまりにできすぎてる気がしてな。タイミングが良すぎるんだ。だからといって、偶然ではないと信じてる訳じゃないぞ? ただ、俺の野性の勘がクサいと言ってるのさ。無論外れる事も良くある。だから信じてる訳じゃない。確認したいだけだ」

「今、『信じてる訳じゃない』を二回言ったぞ?」

「だから何だ? そういう事もある」

「本当はお前もそう疑っているのだろう?」

「俺はこの目で見て、聞いて、足を使って確認して、憶測ではなく、直接肌に感じて、間違いのない確実な証拠を得ない限りは、誰も何も信じない」

「判った。それで良い。一緒に行こう」

 私は言った。

「本当か?」

「ああ、嘘は言わない。それにお前がいると、頼もしい」

「そうか」

「どうする? 迎えに行くか?」

「いや、待ち合わせをしよう」

「ではアルストン駅で」

「構内か、駅前か?」

「駅前だ」

「了解。ではまた明日だ」

「ああ、ジェレミー。待ってる」

「そう言って深酒しすぎて遅刻するなよ?」

「そういうお前こそ、美人にみとれて遅刻するなよ。約束に間に合わないとなったら、置いていくからな」

「言ったな。それで時間は?」

「九時にしよう。約束は十時だから、遅くとも二十七分のモノレールに乗らないと絶対に間に合わない。私の希望は余裕を持った十二分発だ」

「了解した」

 私とジェレミーは握手しあった。

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