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孤高の天才  作者: 深水晶
第一部 嵐の予兆
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第十七話 部下との会話(二)

 予想通りだ。私は頷いた。

「うむ」

「リカルドのプログラム……俺も……良かったと思います。……ですが」

 と、言う流れだと、もしや……。

「できるかどうか、わかりませんけど、あれに更にもう二過程を追加するのは、まずいでしょうか?」

 なるほど、リカルドの前では言いづらいわけだ。

「一体どういうことかね?」

 私は穏やかな口調で、優しく尋ねた。

「もう少し早くに言えば良かったんですが……」

「別に構わないよ。是非、聞かせてくれ」

「リカルドの案では、質問を受け付ける際に、類似表現や類義語を検索して、同一内容だと判断したら、チェックして、そのチェックの回数と照合しつつ、あらかじめ登録した反応の一つを返すというものでしたよね」

「ああ、その通りだ」

「しかし、実際の人間の反応は、判で押したように同一だとは限りません。TPOやその時の感情によって変化します。そこで……」

 カップを指で持てあそぶよう撫でながら、ユージンは唇を湿す。

「新しい珈琲を入れようか?」

「あ、いえ、結構です!」

 慌ててユージンが言う。思うのだが、そんなに嫌いなら、カフェオレなんて飲まなければ良いのにとか、砂糖をあんなに入れたりしなければ良かったのに、などと思う。余計なお世話だろうとは思うが。

「『感情値』というか、例えばですね、怒り、喜び、愛、悲しみ、退屈などといった、いくつかの感情のバロメータを表す変数を設定してやって、こちらが入力する質問によって、その数値を増減させてやるわけです。で、その反応を返す時に、各々の『感情値』をチェックして、その結果に応じて、反応を返すというものです」

「ふむ。興味深い案だな。しかし、それでは過程は二つでも、長く複雑なプログラムが必要だな」

「ええ。しかも、それに伴う登録された全ての情報の修正も、大変な量になってしまいます」

「しかし、君の言う通り、時間がたてばたつほど、その修正案を実行するのは難しくなってくるな。どうせ、全ての情報に修正を加えなくてはならないわけだ。できれば一度に済んだ方が、効率が良い」

「しかし、大幅で大規模な変更です。しかも、思いついただけで、何のプランも立っていません。こんな状態で、提案などできる筈がありません。最低でも、企画書がなければ、話になりません」

「それで、渋面だったわけだ。それで、その企画書を作成するとしたら、どのくらいかかりそうかね?」

「最低でも三日、最悪で五日かかります」

「では五日で頼んでも良いかね?」

「五日でよろしいんですか?」

「リカルドはあの企画書を作るのに、五日はかけていたよ。しかし、君はそれ以上に複雑で難易度の高い企画書を作成するわけだ。同じ期間が最低必要だと思うが、君はどう思う?」

「……判りました。五日で企画書を書き上げ、提出します。可能な限り、皆が納得できる書類を作成します」

「そう言ってくれると有り難い。期待しているよ。リカルドには、私から言っておこう」

「あの、室長」

「うん、何かね?」

「この案、ついさっき思いついたんです。リカルドのプログラムのことがなければ、到底思いつきませんでした。あれを見て初めて、こういうことも、やろうと思えばできるんじゃないかなって、思ったんです。だから、半分以上はリカルドのおかげなんです」

「なるほど。では、それもリカルドに伝えておくよ」

「はい、有難うございます」

 そこで、部屋へと戻り、もう一度、リカルドに声をかけた。

「……リカルド、すまない。ちょっと良いかな?」

「あ、はい? 室長、なんですか?」

「すまないが、会議室の方で話したいんだが、平気かね?」

「構いませんけど。どうしたんです?」

「少々、相談したいことがあるんだ」

 と、呼び出し、会議室で、慎重にユージンのアイディアについて、話した。

「……あ、ぁあ、そうか。そんなことを……バカだな、ユージン。俺に直接言ってくれても……あぁ、でも、それ……俺もまぁ、良いんじゃないかと思います。えぇ、そんなに難しくもないと思いますよ。全データの修正前に、やった方が、良いと思います」

 心なしか、少しがっかりした口調で、リカルドは言う。しかも顔の方には『しょんぼり』と大書きされている。うなだれ、耳を垂らした犬みたいな表情だ。

 私は穏やかな口調で優しく言う。

「あのプログラムは本当に良い出来だった。アイクがより人間らしく、魅力的に感じられたよ。ユージンも、あれを見たからこそ、この案を思いついたのだと言っていた。また、半分以上は君のおかげだとも言っていたな」

「……え?」

「ユージンは五日で企画書を仕上げると言っていた。だから暫くこの件は保留にして、皆にも伏せておく。ただ、君は発案者なので、君の耳に入れておく事にした」

「……そうですか。ユージンがそんなことを……」

「そういうわけで、ユージンの企画書が出来上がるまでは、口外しないで欲しい。修正作業もこの件に決着がつくまでは保留とする」

「……あの、室長」

「何かね?」

「あの、俺、ユージンの企画書を手伝っても良いですか? そうしたら、きっともっと早く仕上がると思いますし、出来上がりも良くなると思います」

「ユージンさえ良いと言えばね。私はどちらでも構わない。勿論、なるべく早く正確で、出来の良いものの方が、上司としては有り難い」

「本当ですか? じゃあ、俺、ユージンに声かけてみます。俺も興味ありますし、面白いと思いますから」

「ユージンは一人でやりたがるかもしれないよ?」

「大丈夫、説得します。別に企画書さえ出来上がれば、一人だろうと、二人だろうと、全然構わないんですよね?」

「その通りだ」

「じゃあ、そんな面白そうなこと、一人で独占するなと言ってやります。どうしても嫌だって言われたら、仕様がないけど、そうじゃなかったら、俺、やりたいです。早速、ちょっと行って、ユージン口説いてきます! 結果はあとで報告しますので」

「そうか。では、待っているよ」

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