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  作者: 中邑あつし
第二章
30/36

3・繋がり

 三・繋がり



 気になる事。彼等には必ず繋がりがある。ZEROがあれだけの人数を誰にも気付かれずに集めているという事実は、流石としか言いようがなかった。犯行手順がまるで素人だというのにである。

 そもそも暴力団を相手取って、彼等の武器は包丁、ナイフ、鉛筆、シャープペン、ボールペンなのである。……ふざけている――。

 銃火器なんて一つもないのだ。碇は、デスクの資料を眺めて舌打ちをした。まぁ、日本で銃火器なんてそう手に入るもんでもないが――。

 暴力団にしたってそうである。持っていないこともないが、暴力団も銃の取り扱いには相当気を使っていた。危険だからではなく、使えば証拠が残りやすいという理由からだった。

 銃から放たれた弾丸は、銃身の内径が銃弾の外径よりも狭いため、ライフリングと呼ばれる溝によって施条痕(せんじょうこん)という跡が刻み込まれる。銃身のライフリングは、銃の製作過程で一つ一つ微妙な違いが出るらしい。つまり、銃の指紋とも言える。そのため、銃を一回使ってしまえば、弾丸が発見された場合、次に同じ銃を使うのは難しくなるのである。

 例外はある。硬い人口ダイヤのヤスリを使い、ライフリングを削る等。それでも彼等は、銃の取り扱いには細心の注意を払う。所持しているだけでも、一年以上、十年以下の懲役になるのだ。

 だが、ここ最近の暴力団襲撃事件で暴力団も相当気が立っているのも確かだった。彼等も黙って殺られるわけにもいかない、けん銃を所持する暴力団は日増しに増えていた。

 いつ自分の組が襲われるか分からず、しかも自分等の命を狙って襲い来るZEROの暴徒等は、彼等と直接関わりのない者達なのだ。訳も分からず殺される立場の暴力団が一番参っているだろう。暴力団がそれなりの準備をして、ZEROを迎え撃つ覚悟をしていて当前だった。

 ただその銃が、彼等にとって逆に命取りになることもあった。暴力団襲撃の際、ZEROは最低限の武器しか持ち合わせないのである。後は現場調達、暴力団の持つ銃や刀を奪い取った。そんなこと現実にそう有り得るものではない。だが暴力団の生き残りの証言、現場の状況証拠はそれをことごとく証明していた。碇は自分の目を疑った。とても信じられなかったのだ。銃相手に、しかも一般人がである……。

 彼等にとって、死を恐れていないというのは最大の強みらしかった。肉を切らせて骨を立つ。とはよく言ったものだ。彼等は腕を切られようが、目ん玉を潰されようが、その痛みを、耳がつんざくほどの奇声に変え、お構いなしに突っ込んで来るのだそうだ。怖いに決まっている。とても人間とは思えなかった。戦時中の特攻隊を思わせる彼等の襲撃に、暴力団といえども恐怖があったのは言うまでもない。

 碇が生き残った暴力団の一人に事情聴取した時だった。大の大人がまるで子供の様に脅えていた。ガタガタと身体を震わせ、縮こまるように萎縮していた。彼は自分等に襲い来る者等のことを、一言でこう例えた。「バケモノだ……」

 かつて、道で風を切って歩き、人を畏怖させ貶めていたヤクザからは、その威風は微塵も感じられなかった。碇は言い知れない胸苦しさを感じた。本当に、大した一般人だ――。

 彼の脅える様を見ながら、碇は襲撃直後の凄惨な現場を思い浮かべていた。頭を抱え子供のように脅えるヤクザに対し彼は、「奴等は暴力団しか狙わない。これを機会にお前も暴力団から足を洗うんだ。カタギの生活もそう悪いもんではないぞ」と優しく肩を叩いた。

 碇の手が肩に触れた瞬間、彼の身体はビクンと電気が走ったように跳ねた。彼の恐怖の対象はZEROというより、人間そのもののようだった。ただ、碇の真摯な言葉に、彼はまた子供のように嗚咽した。

 皮肉なもんだな、と碇は思った。警察と暴力団、お互い忌み嫌い嫌煙する立場だった。ところが、そのヤクザは刑事である碇に嗚咽をもらし縋りつき、碇はその彼に同情すら覚えていたのだ。ヤクザをこれほどまでに追い詰めるZEROに対し、碇も少なからず恐怖を感じ取っていた。

 彼等の繋がり、組織への繋がりがどこかにあるはずだ。首謀者、リーダー格がどこかで指揮をとっているはずなのだ。ZEROの驚異を、日本から一刻も早く拭わなければ――。

 碇は頭を掻きむしった。この驚異の根源をどうにかしてつきとめなければと思った。彼等の身元が始めに割れた時、碇はこれですぐに繋がりが見付かり、後は芋づる式に事件も解決するなんて喜んだものだった。だが、彼等の所持品、携帯は紛失。パソコンも調べたが何の手掛かりも出て来なかったのである。

 ログの消去等の詳細は碇には理解し難かった。詳しいことはサイバーポリスに依頼した。だが、事件に繋がる情報は何一つとして見付からなかった。

 犯人の行動を知りたければ、自分が犯人の立場だったらどうするかを考えるのが得策である。碇は自分をZEROの首謀者に置き換えた。まず、俺が組織の首謀者だとしたら、どうやって人を集める?

 友人。仕事仲間。違う。彼等は皆がバラバラだった。住んでいる地域も、職業も。彼等には統一性がない。やはりネットか……、インターネットで仲間を募る。でもどうやって――?

 碇は椅子の背もたれに背中をあずけると天井を見上げた。ネットで人を集めているのは間違いないと思われた。しかし彼等の痕跡は、押収したパソコンからは何一つとして出てこなかったのだ。

「煙草、煙草……」彼はデスクの隅にある煙草のケースを呟きながら開けた。「ちっ、空か」

「参ってるみたいですねぇ。碇さん」

「ああ。頭パンクしそうだ。すまん仲川、煙草持ってるか?」

 仲川和樹(なかがわかずき)、二十七歳、彼は相良と違って、生真面目で頭が良かった。たまにこいつが相棒だったら、と碇は思うことがあった。

「メンソールでいいですか? あれ? 碇さんタバコ辞め…」

「辞めてない」碇は仲川が喋りきる前に言葉を挟んだ。

 このやり取りは相良で飽きていた。仲川が差し出した煙草はメンソールだった。メンソールか、仕方ない――。

 碇はメンソールが余り好きではなかった。煙草は肺にガツンと来る感じがしないと煙草として認めない、男は黙ってチャコールだ。などと言い、相良の煙草の銘柄まで変えさせていた。

 碇は仲川から煙草を受け取り、それに火を付けた。

「ところで碇さん、デスクにいるんだから内勤職務ちゃんとして下さいよ。溜まってるんでしょ?」

 余計なことを、と碇は思った。刑事というのは、外勤捜査より内勤職務の方が遥かに多かった。そのため、外で事件の捜査に当てる時間は必然と削られてしまうのだ。碇はこめかみを掻いた。こんなんで次から次に起こる事件に対処出来るかってんだ。労働基準のヘッタクレもねぇ――。

 碇は労働時間に不満があるわけではなかった。時間があれば休みの日でも捜査に打ち込んでいた。ただ、書類やら始末書の提示、日報など、ことあるごとに段階を踏まなければならないシステムには不満を覚えていた。実質、テレビドラマの刑事のように外で捜査ばかりしていられないのだ。

 碇は、そぉっと係長の席を見た。……ほぅら、仲川が余計なこと言うから、係長か睨んでやがる――。

 碇は係長と目が合って狼狽した。彼は苦笑いを浮かべ、ちゃんと内勤職務もやりますから――と二度の頷きで係長に意思表示した。その意思が伝わったのか、係長の視線は碇から外された。

「仲川、ちょっと手伝え」碇は言った。

「ええ? 自分でやって下さいよぉ」

「違う。こっちだ。ZEROに関して意見を聞かせてくれ」碇は仲川にZEROの資料をヒラヒラとさせてみせた。

「ああ、ZEROですね。やっかいですねぇ、このヤマも。俺も別件で忙しいんですけど」頬を掻きながら仲川は言った。「ていうか、いいんですか? そんなにどうどうとZEROについて捜査して。一係は捜査から外されてるんですよ? 組織的犯行と断定されて以来、この捜査は四係のヤマですし、警視庁公安部も躍起になってるって聞きましたが」

 仲川の言うことはもっともだった。碇は主に殺人、強盗など凶悪事件を取り扱う捜査一係の所属だった。ZEROの捜査には主に暴力団等、組織犯罪を取り扱う捜査四係に捜査権があった。それにも関わらず、所轄で捜査一係の刑事である碇が、執拗にZEROに執着するのには理由があった。

 発端は二年半ほど前のことだった。当時、碇はある行方不明者の捜査の以来を個人的に受けていた。個人的、というのは、その行方不明者が遠い親戚にあたる高校三年生の子供だったからだ。

 面識は数えるほどしかなかったが、当時小学生だった彼は、はきはきとしていて、心地の良い笑顔を絶やさない少年だったのを覚えている。

 ある日、碇が暴力団襲撃事件の現場に赴いたときだった。床や壁に血が散布し、死屍累々が無残に横たわる中に、彼はまだ息がある少年を確認した。少年を見て彼は絶句した。その少年は紛れもない、親戚の子供であったのだ。ただ、死にゆく彼は小学生だった当時の笑顔を連想するには、あまりにも掛け離れていた。その表情は絶望に満ちていたのだ。

 少年は碇の存在を見て、誰であるか理解していたにも関わらず、何も言葉を発さず、そのまま彼の腕の中で息を引き取った。碇は苦渋に顔を歪めた。歯を食いしばり、少年を抱きかかえた。コートが少年の血で赤く染まった。娘から誕生日プレゼントに貰ったものだった。それでも碇は、まだ温もりがある少年を手放さず抱いていた。

 当時、彼は碇に頭を撫でられると、照れたように笑っていた。碇は、その時と同じように少年の頭を優しく撫でた。近くにいた刑事にハンカチを差し出されたときだった。彼は初めて自分が泣いていたことに気付いた。

 碇はこの時、笑顔が印象的だった少年が、ZEROに入らなければならなかった経緯、彼が絶望を身に纏った理由を突き止めようと心に誓ったのだ。

 そして、その数日後だった。相良が捜査一係に配属されて来たのだ。彼の行動こそ異様と言えた。彼は碇のことを慕い、その下で勉強したいのだと捜査一係に自分から志願したのだ。当時、碇と相良の間には、数回の会話を交わした程度の面識しかなかったのにである。その結果、一係は捜査から外されているのにも関わらず、二人がZEROの捜査に乗り出すのは自然の流れと思われた。

 だが、明らかに不自然なのである。相良は元々捜査四係の刑事だったのだ。碇は相良に「ZEROの捜査をするならそのまま四係にいたほうがよかったんじゃないのか?」と尋ねたことがあった。その言葉に彼は、「言ったじゃないですか、俺は碇さんの下で働きたいからここに来たんですよ。碇さんがZEROに執着してるなんて知らなかったですし、まさか自分も一係に配属されてまでこの捜査に関わるなんて思ってもいませんでしたよ」と言った。

 相良がそう言ったことで、碇は彼の行動の奇怪さが少し拭えた。碇が捜査から外されているのにも関わらず、ZEROを追っていることが異様だったのだ。彼がそれを知らなくて当然であった。

 それでも碇にはもうひとつ、どうも納得いかないことがあった。

「俺の下で働きたいと言うが、お前は俺とそんなに面識がなかったはずだが」

「碇さんが気付いていないだけですよ。あるいは覚えてないか。俺は、碇さんにはものすごく感謝してるんです。俺だけじゃありませんよ、碇さんに憧れてるのは。俺の周りの若いやつらも、碇さんのこと慕っているやつはたくさんいます」当時まだメンソールの煙草を吸っていた相良は、煙を吐き出しながらそう言った。

 確かに、碇は若い者から慕われている実感はあった。ただそれは親しみやすいというだけで、憧れとは別のものではないかと感じていた。

「四十にもなって、現場走り回ってる俺がか?」碇は言った。

「だからですよ」

 分からんなぁ、と碇は思った。幾人かの若い者にとって、自分が憧れの対象であるあることに、彼は理解を示し難かった。ただ自分に対する印象を人から聞かされるのは気恥ずかしいものがあり、碇はこれ以上相良に問い質すのを辞めた。

 思えば、この頃の相良は素直でまだ可愛げがあった。彼が自分に憎まれ口をたたくようになったのはいつからだろう、と碇は不意に思った。

 どちらにしろ、捜査四係にパイプを持つ相良の存在は碇にとって好都合といえた。ここから碇と相良の暗黙のコンビが結成されたのだ。暗黙、というのは、通常コンビを組みする相手は、上からの命令がくだるもので、自分で相手を選べることはそうはない。それに、碇等が捜査しているのは捜査権外の事件なのである。

 ZEROの捜査は碇と相良によって暗黙に行われていた。といっても、署内の誰もが彼等の行動には気付いていたのだが、碇はちゃんと別件の与えられた捜査も熟す、ということで、係長を無理矢理に説得していた。係長も完全に了承しているわけではなかった。ただ若い彼には、縦社会の厳しい警察であっても、ベテランの碇に頭が上がらなかったのである。あくまで暗黙ですよ、と彼は碇に言い残し、自分の預り知らないとこで碇等が勝手にやっている、ということを碇に強調したのだった――。

「すぐにそう言ってられなくなる。そうなったら、捜査一係も捜査二係も関係ねぇ」

 本当にどうなるんだかな、と碇は思った。彼は首の後ろを掻きながら煙草を灰皿に押し付けた。ぎゅうぎゅうに詰め込まれた灰皿の端から、吸殻が数本こぼれ落ちた。

「分かりました、聞きますよ」仲川は溜め息をついた。「事件が事件ですからね。ただ本庁や公安部ともめないようにしてくださいね」

「ああ。助かる。少しでも情報が欲しい」碇は引出しから袋を取り出して言った。

 彼はそれに吸殻を入れた。さらに数本のこぼれ落ちた吸殻も入れた。袋からは灰が舞い、窓から差し込む日差しに照らされた。仲川はそれを見て口を抑えていた。

 仲川は碇が袋の口を結ぶのを見届けながら言った。「本当、悔しいですねぇ。犯人逮捕出来ても後手、後手に回ってばかりですもんねぇ。何とか犯行前に取り押さえたいもんですね」

「まぁな。警察の面目丸潰れだ。暴力団事務所に張り付いて、犯行前に抑えた例はあるが、ごく稀だ。奴等が次にいつ、どこを襲撃するかは判らんからな」

「奴等はグループ犯の襲撃だけじゃないって聞きましたけど、どうなんですか?」

「ああ。稀に大物の暴力団幹部や組長なんかは、狙って襲われてる。その時は単独犯のようだ。多くても二人位だろう」

「なんで奴等は暴力団に執着するんですかねぇ」そう言って仲川は顎をつまんだ。「あ、すいません。聞きたい事あったんですよね?」 

 仲川は話の本題からズレてしまったことを謝り、碇に本題を尋ねた。

「ああ。悪いな。実は……」

 碇はZEROに関して解っている事を事細かに話した。といっても、同じ所轄の刑事なのだ。ZEROに関する事は、仲川もある程度は知っているため話しやすかった。

「仲間を募る方法ねぇ。それは俺も、いや、誰もが疑問に持ってるんですよねぇ。やっぱり全員が年齢も職業もバラバラであることからして、ネット以外有り得ないでしょう」

 仲川も碇の出した結論と同じ考えだった。

「そのパソコンのログってのは、消去してもどこかに残ってるものなのか?」

「俺も専門家じゃないんで良く分からないんですが、どのサイトをアクセスした等は、大概は消去しても復旧出来ます。ただそれでも許容量にも限界があるらしいですから、一ヶ月以上前のログは、ほぼ復旧出来ないんじゃないですかね。一ヶ月前からパソコンを弄ってなかったら別ですけど。一度ログを全部消して、一ヶ月間ログを百MB以上のログを書き込んだら、ほぼ不可能と思います。

 あと、パソコンが破壊されていた場合も、その個人のIPが分かるなら、プロバイダにログは残されていますから、それでデータ復旧は出来ると思われます。ただそのログの保存期間なんですが、プロバイダによりますが、一ヶ月位の所もあるそうです。長いところは五年位ですかね」

 良く解らないと言いながら、これだけ知ってりゃ凄いもんだと碇は感心した。やっぱ、相棒間違えたか――。

 仲川は始めから捜査一係の配属である。碇と彼が、こうして情報交換するのは珍しいことではなかった。その変わりと、仲川の抱えるヤマを碇が手助けすることも度々とあった。勿論、ZEROの件自体が暗黙であるから、本来ならば、碇と仲川が抱える事件が同じヤマなんてこともある。仲川は、機転のきく推理や刑事の勘といったものに乏しかったが、頭が良く、こと知的な情報量には目を見張るものがあった。

「解った。良く理解出来なかったが、つまり、プロバイダっての次第じゃ、ログは最長五年は残るって事だな」

 碇には結論さえ理解出来れば、その段階は必要なかった。この間まで相良に説教していた自分を忘れていた。

「そうですね。でもやっぱ、詳しいことはサイバーポリスとかハイテク犯罪に詳しい人に聞いた方が解るかと」

「逆だ。奴等の使う言葉は、難しすぎて解りゃしねぇ。まるで外国人と話してるみたいだ」そう言って碇はこめかみを掻いた。

「碇さんらしいですね。あ、煙草いいですか?」仲川は煙草に火を付けた。

「ああ。俺ももう一本くれ」碇は手を伸ばした。「てことはだ。サイバーポリスが調べたパソコンは、一ヶ月以上経ってて、プロバイダーがそんくらいしか保存期間がなかった、って事だよな?」碇は確信を急いだ。

「まぁ、そうですね。でも、一ヶ月以上経ってなかったとしても、犯人がその手掛かりとなるサイトを一度だけしかアクセスしなかった場合。そして、逆にそのサイト以外を大量にアクセスしていた場合。プロバイダーの保存期間が長ければ長い程、莫大な量になりますからね。まぁ大体、犯罪に関与したサイトは何度もアクセスしている形跡があるから、それで解るんじゃないですか。まぁ、これは俺の見解なんで、最終的には何とも言えないですね」

 これだけ解れば上出来だ、と碇は思った。

 必ず尻尾を捕まえてやる――。

 碇は、相良に貰った煙草に火を付けた。吸い込むと、肺に冷やりとした感覚があった。そのクリアな味に、メンソールも悪くないな、と碇は自分の考えを改め直した。

「いや、助かった。ありがとう、仲川」

「いえ、こっちも何かあったら助け舟、お願いしますよ」

「ああ分かった。その時は、相良をやる」

「勘弁して下さいよ」そう言って仲川は、灰皿に煙草を押し付けた。

「それは相良に失礼だぞ。仲川」

「碇さんの方が、相良君に失礼だと思いますが」

「まぁ、相良は俺にとことん失礼だがな」

 仲川は軽く笑った。「やっぱ、二人は名コンビですわ。それじゃあ俺、行きますね」

 ああ、と碇は片手を上げて答えた。軽い冗談を交わした後、仲川は部署を後にした。碇は腕を組んで俯き、目を閉じた。眉間に力が入った。

 ZEROに関してだいぶ掴めてきた。彼等が、最終的にどうやって連絡を共有しているかはまだ不明だった。だがインターネットを利用しているのなら、ログはどこかに残っているはずだと碇は考えた。それに、いくら莫大な量のログでも、サイトの的を絞れば話は変わってくるのだ。彼等は死にたがっている……。


 ……キーワードは、自殺だ――。



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