2・ヤクザ
二・ヤクザ
「何としても捜し出せ。期日までになんとかしねぇと、お前等全員命はないぞ!」
……クソッ! ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ……、どうする……三千万。
「組長。奴の身分証は全てガセです。名前も偽名でしょう」
「クッ。手掛かりはないのか?」
「残念ながら、全くです。奴はプロです。それに単独犯とは考えられません。組織的にウチが狙われた可能性があります」
「何故、ウチの組なんだ。ヤクザの金に手を出しといてただで済むと思うなよ」
組長と呼ばれる男は、デスクに座り怒りを露に頭を抱え込んだ。
それもそうだ。金庫に入れておいた現金三千万。それが、つい先日、組に入って一年も満たない若い組員と共に消え去っていたのだ。
警察には、勿論届け出られるわけがない。そもそも、その金は脱税、薬の横流し等で掻き集めた、表に出すことが出来ない金なのだ。そのうち、一千万は帝劉会への上納金。
取り敢えず、この一千万を何とかしないことには組長は愚か、組の存続自体が危ぶまれる。だが、この取り敢えず一千万がどうしようもない。一千万という大金を期日までの数日で要せようものなら、誰も死にものぐるいで働かない。
その男は何者なのだろうか。金庫のセキュリティが甘い訳ではない。金庫の鍵は組長が肌身離さず持ち、その上、暗証番号は二十六桁もの数字を合せなければならない。この、一年足らずの間で、組長の持つ鍵のスペアを悟られずに作り、暗証番号を探り当て、その上、誰にも気付かれずに、夜のうちに一晩で三千万円という大金を持ち、姿を暗ませたのだ。
「それについてですが、奴等もどこかの組の輩ではないかと」
「何?」
「憶測に過ぎませんが。ヤクザ相手に、これだけの事を出来る芸当は、同じヤクザと考えるのが妥当かと」
……クソッ! クソッ! 何でだ? 何でうちが狙われた。
考えてる暇はない! 一千万。期日までに一千万を何とかしないと。
「犯人捜しは後回しだ。一千万を何とかして掻き集めろ!」
「ですが、急にそんな大金どうやって」
「このままじゃテメェ等、命がないぞ。ウチから借金してる奴等から何としてでも掻き集めるんだ。
おい。佐伯。柚木んとこは今、五百万近く借金があったな?」
「はい。しかし、そんな金、すぐに奴に用意出来ようがありません。それに五百万じゃ」
「須藤」
組長が細身の男を呼びつけた。
「はい」
「お前、死んだことにしろ。そうすれば、柚木んとこから慰謝料たんまりふんだくれる。
後はどうやって、払わせるかだが、前原建設に一人娘がいただろ。そいつを拉致って来い。佐伯」
「オヤジ、それはいくらなんでも」
……馬鹿げてる。組長はテンパってて冷静な判断が下せていない。ガキを拉致ってどうこう出来る問題じゃない。
佐伯は、組長の追い込まれた言動に頭を抱えた。確かに、急を要さないと自分等の命も危ぶまれるのは確かだが、金の調達の仕方が余りにも幼稚なのだ。
「言われた通りにしろ。死にたいのか。佐伯」
「分かりました」
立場上、これ以上の意見を述べられるわけもなく、組長の命令に佐伯は従う他なかった。
……もう終わりだ、この組は。ガキ拉致って前原建設に一千万を脅迫するつもりだろうが、これはもうただの誘拐だ。警察が出りゃそれで終いだ。誘拐事件で検挙されなかった話など、聞いたことがない。
金をどうこう出来ないガキを拉致るより、前原建設の社長を拉致って、直接弱みにぎって金を回収した方がよっぽど効率的だ。
今の組長は頭がイカレちまってる。この仕事終わらせたら、高飛びも考えないとな……。
「人手がいる。須藤以外、誰か二人程一緒に来てくれ」