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機械天使~魔法と科学と学園と~  作者: 紅きtuki
機械天使~魔法と科学と学園と~Ⅲ
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選ばれし者編「心中。奇跡」

「あ、断末魔様!」


 病院の廊下で鉢合わせになるように葉乃愛と那由多に遭遇する。

 笑顔の那由他に対して、断末魔は目を逸らしながら聞いた。


「てめェ……。俺が怖くねェのか……?」


「はい、だってあれは断末魔様の本心じゃないって分かってますもの」


 笑顔でそう言う那由多の横で、葉乃愛は少し暗い顔をしている。


「私は、少し怖いよ」


「だろうなァ。それでどうすんだァ? グループ抜けても良いんだぜェ」


 静かな病室に軽い音が響き渡る。葉乃愛による断末魔への平手打ちに那由多が慌てふためく。

 葉乃愛は奥歯を噛みしめ断末魔を睨んでいた。


「そんな話より私達に謝るのが先だと思いますけど……!」


「……あァ? 生意気な事を抜かすようになったもんだなァ。気に入らねェならさっさと消えろ」


 断末魔が二人に背を向け、出口に向かって歩き出す。

 そんな中、葉乃愛は叫ぶように言った。


「散々悩んだけど、私はやっぱりあなたを許せない! 仲間を手にかけて謝罪することも出来ないあなたを許さない!!!」


 那由多がおろおろしながらなだめる。


「葉乃愛ちゃん……?! 断末魔様を許そうって話しかけてきてくれたのは葉乃愛ちゃんだよね?! どしたの?!」


 断末魔は歩みを止め、振り向き言った。


「それでェどうすんだァ? 俺とやろうってのかァ? あァ!?」


「あなた……っお前なんて弱い者相手だけにしか偉そうに出来ない小心者よ! なっさけない!!」


「情けねェか……。俺も自分の事をそう思っていたがァ、弱いお前はもっと情けねぇんだよ! 雑魚がっ!」


 断末魔が地面を蹴る。

 それだけで地が揺れ、周囲の窓ガラスが全て割れた。


「そんなこけおどしに(ひる)むと思わないで。もう私もやられてるだけじゃない……!! 轟々豪雨『ウォーターマニピュレイト』」


 突き出す葉乃愛の手のひらから一筋の水が放たれる。

 それは断末魔の腹部に直撃すると、壁を突き破り病院外まで吹き飛ばした。


「は、葉乃愛ちゃん!?」


 うろたえる那由多に、葉乃愛は強く言った。


「あいつの心配なんかもう要らないよ」


「病院に居る人達もいるよ!?」


「こうなるかもしれないって予めに避難させておいた」


 そう言って葉乃愛は駆け出す。

 そして病院の庭に仰向けに倒れる断末魔の前に立った。


「いてェなァ」


「那由多ちゃんはもっと痛かった」


 断末魔は立ち上がると首を鳴らしながら言う。


「だったらァ次はてめェの番だな」


「私は傷の治りが早いだけで、十分なくらい、いたぶられたわよ……! だから次こそお前の番だ!!」


 断末魔はそこで腹を腹を抱えて笑う。


「ナンバー二桁のお前が、俺に勝てると思ってんのかァ?!」


「心中してあげるわよ」


「破れかぶれになっても状況は変わんねェぞォ?」


「黙れ!」


 葉乃愛が駆け出す。

 すると同時に大雨が降り出した。

 それは一瞬で断末魔と葉乃愛の衣服を乾いた所も無いほど濡らすと、その水量をまだまだ増やしていく。

 断末魔は思わず空へ視線を向けた。


「なんだァ……? あれは」


 そこには大量の水が1つの玉となりて空中に漂っていた。

 そこから雨となって今も降り注いでいる。

 葉乃愛はよそ見をする断末魔に、水で構成された剣で切りかかりながら言った。


「あれが私の残り寿命よ。それまでに沈めてやる!」


  断末魔はそれを下がって回避すると、魔法唱え、


「Re:Union『再結合』」


 大鎌を取り出して躊躇いもなく切りかかった。

 そしてそれは葉乃愛の腹部を綺麗に貫通する。


「あァ?」


 断末魔が怪訝そうに見つめる葉乃愛の腹部は水を切ったように飛沫を上げるだけで、既に元に戻っていた。

 葉乃愛に苦痛の表情は無い。


「お前の攻撃なんて効かない!」


 葉乃愛が切りかかる。

 断末魔はそれをまたも回避するが次の瞬間、葉乃愛は断末魔の背後から断末魔を蹴りあげていた。

 宙に浮かされる断末魔は周囲を確認しながら言う。


「水から水に移動してやがるのかァ?」


 そして次の瞬間には葉乃愛は断末魔を、蹴り落としていた。

 地面にひれ伏す断末魔。

 今度は地面に溜まる水がうねりを上げて断末魔もろとも巻き上げると、その水流に乗って葉乃愛が現れ、断末魔の心臓を剣で突き刺しそうとする。が、断末魔は間一髪に体をくねらせ、その剣は肩を貫いた。

 赤い鮮血と共に地面に落ちていく断末魔を葉乃愛は追い討ちを掛けるようにまた蹴り落とした。


「いい気になってんじゃねェぞ! くそアマがァ!」


 かろうじて地面に着地し宙に浮く葉乃愛を睨み付ける断末魔。

 対して葉乃愛は断末魔のすぐ前まで来ると、断末魔の鮮血を取り囲んだ水泡を手に言った。


「この魔法で血液を流すってのは死を意味するのよ」


「あァ!?」


「だって血液も立派な水を含むもの。これであなたの血液は私の支配下にある。証拠を見せてあげるわ」


 葉乃愛は断末魔の鮮血を取り囲んだ水泡を握りつぶすと、断末魔が思わず吐血する。


「内臓を潰した。次は腕を飛ばそうか? それとも目?」


 断末魔の顔が青ざめていく。


「まァ……。ここで死ぬのも悪くねェな」


 倒れ込む断末魔。

 そこに割って入ったのは那由多だった。


「どうしたの葉乃愛ちゃん!」


「当然の報いよ。そいつを殺して、そして私も死ぬ」


「何言ってるの!?」


「あー。上司に恵まれなかったなぁ。だから尻拭いしてあげようって思って。これが私に出来る最後の事」


 葉乃愛は間に居る那由多を水を使って滑るように退かせる。

 その背後では既に断末魔が立ち上がっていた。


「くたばるんじゃ無かったんですか?」


「気が変わったんだよォ……。俺を殺して死ぬってのが尻拭いだって言うなら絶対に阻止してやろうってなァ……! てめェに拭われるものなんて一つもねェんだよ」


 断末魔が一歩目を踏み出したと同時に断末魔の右目が弾け飛んだ。

 周囲に血を散らばせ、思わず後ろに反り返ってしまった断末魔だが、すぐに残った目で葉乃愛を睨み付けると次の一歩を進んだ。

 すると今度は大きく仰け反る断末魔の左腕が跡形も無く大量の血と共に弾け飛んだ。

 断末魔は残された右腕で左肩を押さえると、また一歩進む。


「しつこいな!」


 葉乃愛がそう言って次に弾け飛ん飛んだのは断末魔の右足だった。

 断末魔はとっさに右手に持つ大鎌を地に突き刺し支えにする事で倒れずに踏み止まる。


「あァ……。これで一歩も歩けねェわ。だがなァ死にはしねェ」


 葉乃愛は冷たく返す。


「この大雨で血も絶えず流れ続けているあなたの命なんてもう風前の灯火よ」


 断末魔は空を見る。


「てめェの言う命とやらも、もう少なェがなァ」


「一人で死ぬのは寂しいでしょ。だから一緒に死んであげるわよ」


 お互いに睨み合う中、再び割って入るように那由多が間に立った。


「二人共! 何恐い事言ってるんですかぁ! 私には分かってますよ! 断末魔様はきちんと罪悪感を感じていらっしゃいます、えぇ。けど謝るタイミングを逃してしまっただけ。葉乃愛さんはただ一言、その言葉が聞きたかっただけ。そうですよね?」


「那由多ちゃん……。敬語はやめようって言ったでしょ。それにね、もう私は後戻りできない」


 葉乃愛は那由多を見つめて言う。そしてその先、那由多の背後で断末魔が静かに前に倒れ込む。


「クソがァ……。俺が先にくたばっちまうだろうなァ」


 地に溜まる雨水を飲み込みながらそう言う断末魔に、那由多は慌てて駆け寄る。


「断末魔様! しっかりしてくださいませ!」


 そして残った右手で仰向けになる断末魔は叫ぶように言った。


「こいつの言ってる事に異論は無い! だがァ、死にゆく奴に下げる頭もここにはねェ!」


「強情な奴……」


 葉乃愛がそう言ってすぐに、雨が止んだ。

 突如、足をぐらつかせる葉乃愛は辛うじて二人に歩み寄ると、那由多のすぐ前に倒れ込む。


「葉乃愛……さん?!」


「だから敬語は嫌だってば……。ふふ、それにしても一桁の奴と相討ち出来たら上等でしょ……?」


「何悲しい事言ってるの!?」


 叫ぶ那由多をよそに、次に断末魔と葉乃愛は最後の力を振り絞って同時に言った。


「葉乃愛ェ……すま……ねェ。那由多ァ後はァ頼む……」

「二人共、ごめんなさい。那由多ちゃん、後よろしくね……」


「あああああああああああああああっっっ!!!!!!」


 絶叫する那由多。


「嫌あああああああああっっ!!!」


 病院に駆け寄り叫ぶ。


「誰かっ!! 誰か助けて!!! こんなの嫌ああっっ!」


 当然、そこには誰も居なかった。

 それをすぐに察した那由多は二人の元に走って戻り座り込む。


「駄目……。こんなの駄目……」


 うずくまってそこから黙り込む那由多。

 そうして少しその状態でいると、ゆっくりと体を震わせて、


「ふふふふふふ」


 突如笑い出す。


「完成させた。二人共死なせない」


 そして立ち上がると、


「Septem Culpa Principium『セブンデットリーシンス』」


 静かに魔法名を唱えた。

 それにより断末魔と葉乃愛の体が淡く光を放った。それだけだった。


「来る……!」


 そして不意に那由多がそう言った時には、非禁禁忌が目前に立っていた。


「……今の魔法。俺の魔法に良く似ている」


「憧れの非禁禁忌様。お会い出来て光栄です。今の魔法はあなた様の魔法を参考に生み出した魔法でございます」


「……なるほど。本来なら考慮する必要も無いほどの奇跡が起きた訳か」


「そのようです……。二人の罪を不問にしたのですよ」


「……その罪はお――」


 非禁禁忌と同時に何者かが被せて話し出した。


「――素晴らしい魔法を感じて来るべくして来ましたわ」


 ノベレットだった。

 ノベレットはそのまま非禁禁忌を無視するように那由多に駆け寄る。


「その身に背負いきれぬ魔法、あなたには重すぎる魔法。私が背負えるようにしてあげましょうか?」


「え……?」


 那由多がノベレットの顔を見つめる。


「……おい、よせ」


 非禁禁忌がそう言うのも聞かず、ノベレットは那由多共々姿を消した。

 残された非禁禁忌は、ぽつりと溢して姿を消した。


「……ノベレット。その魔法はお前にも背負えない」

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