選ばれし者編side story「大魔法使い候補」
「雲内放電『Mjollnir』」
女性が、天に片手を掲げる。すると、空の雲が、渦を巻くようになり、辺りを暗く覆い隠す。そして、雷の音が、響き渡る。
「クラウディオス『Almagest』」
ナンバー1の魔法名が、静かに響く。しかし魔神が手を振り下ろすと、ナンバー1目掛けて、大きな雷が、空の雷雲から放たれた。
辺りの木々を燃やし、大地を切り裂く。それと同時に発生した衝撃波が、建築物や焼かれた木々を根こそぎ、吹き飛ばす。
雲を操り、雷を落とすだけの魔法が、これだけの威力を誇るのだ。さすがは、魔神の魔法と言うだけはある。
しかし、吹き飛ばせていないものが、ひとつだけ存在した。
「今だけは俺を中心に世界が回ってくれている。頼むから、退いてくれないか?」
雷はナンバー1に当たらなかった。
まるで、雷がナンバー1を避けるように、軌道を変更したのだ。おかげ様で、無傷。とは言えないものの、かなりの余裕を残してナンバー1は、そこに立っている事が出来た。それに対して女性は、驚きの表情など一切無く、笑って答える。
「あはは、まさか今の挨拶程度の魔法を防いだだけで、得意になっちゃってんの?」
ナンバー1は、驚愕と絶望が隠せなかった。当然だろう。自分の最高の魔法を駆使して、やっと防げた攻撃が、相手にとっては、ほんの挨拶程度だったのだ。攻撃は、愚か、防ぐ事しか出来なかったナンバー1に打つ手などなかった。さらに、次に来る攻撃は、先ほどより強力な攻撃なのだろう。
圧倒的な力の差。ナンバー1は、戦意を失いつつあった。そして、断末魔の気持ちを理解しつつもあった。
「それじゃあ、そろそろ次いいかしら?」
ナンバー1は、駄目で元々で空間を歪める事を試みる。しかし、やはり何の変化も無かった。いつもなら感じる空間が歪んでいく感覚が、微塵も感じない。
女性は、両手を頭の上に掲げ、魔力を蓄積しながらも、ナンバー1が空間を歪ますのを試みた事に気付いたのか、くすくすと笑っていた。
「ったく、万事休すか……やれやれ、つまらん人生だったな」
ナンバー1は、棒立ちをして、とうとう諦めてしまった。女性は、そんな様子のナンバー1に話しかける。
「遺言なら聞いてあげるわよ。って言っても、誰にも伝えないけどね」
「やれよ」
「じゃあねー。火山雷『Eruption』」
女性は、両手をナンバー1へと向ける。そして、噴火した。比喩でも何でもない。手から灼熱の業火が放出され、同時に真っ黒な煙も発生させたのだ。そして、摩擦によりそこから雷が生まれ、火と雷の2重の攻撃がナンバー1を襲う。もちろん、その攻撃が簡単に避けられるような攻撃範囲では無かった。
ナンバー1が死を覚悟したそのとき、どこからともなく声が聞こえる。
「諦めるな。大魔法使い候補よ」
それは、遠い記憶を探ると僅かに聞き覚えのある声だった。