選ばれし者編side story「選ばれぬ者」
――ナンバー4――
その言葉が、頭の中で何度も何度も、痛いほどに響き渡る。
「あァ……?」
あまりにの煩さに、徐々にはっきりとしてくる意識。断末魔は、目を覚ました途端、体中を支配するような痛みを覚える。
「やっと、目を覚ましやがったか」
断末魔の目の前には、ナンバー1が居た。覗き込むように、こちらを見ている。断末魔は、たった今自分が、仰向けに倒れている事に気付いた。そして、倒れながらも周囲を見渡すと、大雨により荒らされたの瞬時に分かるほどに悲惨な状態だった。
「ここはァ……俺は何をォ……?」
「情けない話だが、お前は一人の少女に守られたんだ。俺がここに来たときは、お前の上にアンノウンとか言う女が、転がっていたぜ?」
それを聞いた途端に、断末魔の目に涙が浮かび上がる。
「くそッたれがァァァ! おォい! 今、そいつはどこに居やがる?!」
地を叩く。それに対してナンバー1は、断末魔の横に座り込むと、ため息をつき、質問に答える。
「病院に決まってんだろぉ?! てめぇ、なに逆切れしてんだぁ? 良い加減しろよ? 仲間を何だと思ってやがる? お前の勝手で、傷つけて! その癖、大切にされてよぉ?」
断末魔は、何も答える事ができなかった。ただ、仰向けに倒れながら、腕で目を隠しているだけで、立ち上がろうともしない。
ナンバー1が、言い過ぎたと反省し、慰めの言葉でもかけようとしたその時、不意にとてつもなく巨大な魔力を感知した。
「ちっ、例の魔人さんか……」
あまりにも急激で、あまりにも巨大な魔力は、すぐそこまで迫っていた。
「ふ~ん……ここが学園と言うところなのねぇ」
そう、声までもが、聞こえるほどに。
「ナンバー4! 立ち上がれ!!」
ナンバー1が、断末魔に注意を呼びかけながらも、背後を確認すると、そこには褐色肌で胸を強調した服装を着る女性が、辺りをきょろきょろしながら、こちらへ近づいてきていた。
ナンバー1に、戦慄が走る。女性が、こちらに気付いたのだ。
「あらら? 先客がいたのね。まぁ、そろそろ人間を味見しようと思っていたところよん」
ナンバー1は、断末魔の胸倉を掴み、大きく飛び跳ね女性と距離を取る。いつでも、時空の歪みへ姿を隠せば良いのだ。だから、もう少し様子を見よう。そう考えたのか、ナンバー1はすぐには姿を時空の歪みへ隠さなかった。
一方、胸倉を掴まれ、無理やり立たされた断末魔は、まだ落ち込んでいるのか、落胆としていて構えすら取っていない。
「ちくしょう。いい加減にしろよ。木偶の坊が」
ナンバー1のすぐ近くに、時空の歪みが現れる。ナンバー1は、足手まといの断末魔を時空の歪みへと蹴り飛ばす。
「あらあら、今から私と戦うのに、仲間が役に立たないなんて……可哀想ね。それと、今の魔法、多様されると厄介だから、出来ない様にしてあげるわね」
そう言って、女性は魔力を周囲に発散させる。女性の体から、紅く淡い衝撃波が現れ、それが圧力となって、ナンバー1を精神的に追い詰めていく。
「この世界は、何者かの魔力が薄く流れている。それが時空に歪みを発生させる原理になっているみたいだけど、魔力の流れを絶ってやれば……後はわかるわよね?」
ナンバー1は、何も答えない。いや、答える余裕すらなかったのだ。と言うのも、邪魔な断末魔を排除する為に開いた時空の歪みから、原理が解析され、さらにその技を封じられてしまったのだ。
本当に、時空が歪められないか、試したわけではないが、いつもとは、何かが違う。ナンバー1はその感覚が、時空を歪められなくなった為のものだと、誰よりも強く感知した。
「おいおい、冗談きついぜ……」
女性の顔には、不敵の笑みが浮かんでいる。既に、勝利を確証されているのだ。それに対して、ナンバー1は、神経を研ぎ澄まして、相手の行動に逸早く反応できるように、心がけていた。
「雲内放電『Mjollnir』」
女性が、天に片手を掲げる。
「クラウディオス『Almagest』」
ナンバー1の魔法名が、静かに響く。