断末魔短編『学園』
想像を絶する様な大きな学園が存在する。
大きな学園と言っても本当に大きな校舎が一つだけ存在している訳ではない。大きな土地に、たくさんの学び舎が建っている事からそう呼ばれるのだ。
この世界の住民は生まれ時から1人前の魔法使いを目指し、定められた年齢になると、ただ一つしかないその大きな学園に通うのだ。これは権利ではない。義務付けられている。
そして、1人前の魔法使いとして認められた時、初めて卒業を許される。
もう一度言うが、卒業できるのはあくまでも魔法使いとしての力が認められたらだ。逆に言うと力を認めて貰えないと卒業する事は決して許されない。
それはこの世界には学齢と言う物は存在しない、と言う事を表していた。
そんな学園に断末魔は通っていた。
学園での成績が悪いと言う訳ではない。何か大きな問題を起こしたと言う訳でもない。むしろ成績は良く、不良達が招く問題を片付ける立場で『誰もが憧れる優等生』なぐらいだ。
そんな断末魔が学園に通っている理由……
それはこの世界の住民全員にも言える事なのだが、学園の卒業条件があまりにも厳しいのだ。その条件の厳しさのあまり、『卒業できた者は数えるほどしか居ない』位だ。
そして学園を卒業できた者は個人個人に合った称号を与えられ、『卒業者』と呼ばれる。
『卒業者』と呼ばれるには学園を卒業するしかないが、称号を得る為には別に学園を卒業しなくても良い。
だからと言って称号を得るのは簡単な事ではない。
称号を得る為の条件の一つにまず『誰もが憧れる優等生』程の実力は持っていなくてはならない。そして、世界の治安維持を目的とした組織に所属し、功績を残さなければならない。
そうして、やっと名誉ある称号を得られるのだが、断末魔は違った。
前にも言った様に、断末魔が『断末魔』と言う称号を得たのには様々な説がある。しかし有説な物は特に無く、その実態は謎に包まれている。にも関わらずこの称号は世間に浸透している。
まぁ、断末魔はたくさんの功績を上げて来ているので今さら不思議ではないのだが。
だが、こんなケースは本当に稀なのだ。
そして、そんな断末魔を呼ぶ女の子の声が聞こえる。
「断末魔様~」
情けない声でそう呼ぶのは以前、断末魔に殺害宣言をされた童顔の少女だ。
校舎の数だけ存在する屋上に、一つだけ置いてあるベンチに横たわっている断末魔を見つけると、どうやら暑がりの様で春にも関わらず、夏の暑さに負けたような声を上げ、ひょこひょこと断末魔に近づいて行く。
それに対して断末魔は、横向きの状態から起き上がりベンチに思い切り腰掛けるとうんざりした様な声で返答する。
「あんのんなァ。様も無いくせに、いちいち呼んでェんじゃねェよ。何か恨みでもあんのかァ?」
「ここで聞き捨てならぬ耳寄り情報があります。
男女問わず誰にでもフレンドリーな私ですが、残念ながら私の憧れは非禁禁忌だけです」
「聞いてねェよ。そしてそれを俺に言ってどォする?
まさか、恋のキューピット役でも演じろとでも言うんじゃねェよな?」
「ふふふふふふ……断末魔様のキューピットのコスプレ……ふふふふふふ……」
「殺す」
殺害宣言こそするが実際はそんな気など無く、その証拠に魔法名を唱えたりなどしない。
女の子の方もそれが冗談だと通じているのか、ニタニタと言う感じの笑みを浮かべては追い掛けて来る断末魔から、楽しそうに逃げている。
しかしその時、楽しそうに逃げている女の子が唐突にも倒れてしまう。わざとでは無いらしく、顔面を強打した痛々しくも生々しい音が、コンクリートから空気へと伝わり周囲に鳴り響く。
そして屋上にも関わらず、さらに上から、空から男の野太い声が聞こえる。
「な~に、少しの間、気を失って貰っただけだよ。俺の魔法によってな。それにしても、あの断末魔が屋上で幼い少女と追いかけっことはな。笑わせるぜ」
それに対して断末魔は上を見ずに無気味な笑みを浮かべると、女の子と話していた時とは別のトーンで、半ば男の話を無視するように呟く。
「……俺の癇に障ってんじゃねェよ。ゴミクズが」
断末魔様の事について、今回から少しづつ明かして行きたいと思います。