非禁禁忌プロローグ『謎の少女』
「あ、あなたは一体、何者なの? ここに入れたって事は『上級参隊』なの?」
少女は屈みながら靴に魔力を注ぎつつ、震える声で恐る恐る青年の階級について問う。
階級と言うのは身分を表す物で当然だが階級が高い人は裕福な暮らしをしている。そして少女が言う上級参隊と言うのは3段階に分けられる階級の最高位の事だ。
このステンドグラスだけで出来た神殿に入る為の条件がまず、上級参隊でならなければならない。そして、多額の献金をしてやっと、この神殿へ立ち入る事が許される。
しかし見るからに青年は上級貴族と言う身形をしていないし、何よりも不法侵入をするような人が上級貴族とは言い難い。だからこそ、少女は青年の階級について質問をしたのだ。そこから思わぬヒントを得る為に。
そもそも少女は不法侵入をしたこの青年を捕まるためにわざわざここに来たのだ。それも自分の意思ではない、少女が所属する組織の命令でだ。だから少女もおちおちと、青年に従いこの場を離れる訳に行かない。それは仕事を放棄する事になるからだ。それに組織からの教訓に『捕まえる事が出来なければ、最低その手引きになるヒントを得て帰れ』と言う物もある。
しかし青年はその問いには答えず、ただ黙って自分の髪型を整えている。
そして髪を整え終え、髪を固める薬品をポケットにしまい、少女を睨む。
その紅く鋭い眼光に睨まれた少女はビクッと身を震えさせる。そんな少女に対して青年は階級について逆に質問する。
「……お前はどうなんだ?」
それに対して少女は左袖をまくりあげると、露出された細い腕に魔法の力で刻まれた赤紫に光る紋章を青年に見せる。
階級はその紋章で証明され、何か資格を得たりすれば、さらにそこに情報が埋め込まれる。つまりこの紋章は絶対に身から外す事の出来ない身分証明みたいなものだ。
青年は少女に近づきその紋章を見つめる。2人の距離は青年の目に赤紫色の光が反射している事が少女に確認できる位だ。そして、その紋章から少女の身分を読み取った青年はありのままを呟く。
「……筋金入りのお嬢様じゃないか。階級の最高位に立つ成績優秀なお嬢様、そんなお前がなぜ、俺を追う。こんな危険な仕事、お前の様な奴に任させるはずが無い」
「そ、それは……」
少女はそこまで言うと、何か言いたくない事情があるのか口を閉じてしまった。その様子を見た青年もそれを察して、それ以上を聞こうとはしなかった。その結果、この空間に沈黙が生まれ、無情にも時だけが過ぎて行く。
どれほどの時間が立ったのだろうか、数秒にも数分にも感じられるあやふやな時が流れる。その時、少女の靴に瞬間移動に必要な魔力が溜まったのか、ほのかに淡い光を浴び始める。それを機に少女は最後に青年に対して苦い笑顔を浮かべると、可能になったばかりの瞬間移動を使い、この場を離れる。
取り残された様にそこに佇む青年は自分以外誰もいない空間で独り言を呟く。
「……人と話したのは……久しぶりだな」
今回はこの世界の階級について書かせて頂きました。
いまだに世界観は明かしていませんが、これで少しはわかる? と思います。
そして少女の動機。
なぜ、お嬢さまが危険な任務についたのでしょうか。
今は明かされませんが
後々、明かして行きたいと思います。