非禁禁忌プロローグ『非禁禁忌』
魔法の力によりステンドグラスだけで出来た神秘的なビル状の建物が存在する。
しかしビル状と言っても、それは外見だけで中身は上か下まで筒抜けていて床と天井以外何も無い。この世界の住人は今も遥か過去から存在し破壊されなかったこの建物を研究し続け、貴重な文化遺産として一部の上級貴族しか足を踏み入れる事を許さなかった。
しかし、決して上級貴族ではない1人の青年がこの地に訪れる。
「『非禁禁忌』と称される者がこんな所に何用かな?」
青年はその問いには答えず、ステンドグラスの建物の入り口からその中心に立つ黒いローブを着た老人に近づく。
老人はその青年の様子に舌打ちをすると、ローブから手を出し、魔法名を唱える。
「古代魔法『ライトレイディエーション』」
老人の手から腕にかけて川の様な文字の流れが出来上がり、手の先に魔法陣が浮かび上がる。
そしてそれらは徐々に光を強め、手の先の魔法陣が一層明るく光る。しかし、
「……Cide『ジェノサイド』」
青年が魔法名を唱えると、瞬時にたくさんの魔方陣が青年の周囲に現れ、青年は老人に向かって指を差す。すると青年の周囲に浮遊していた魔法陣は老人の周りに瞬間移動し、その姿を半透明の武器へと変化させる。
それと同時に青年が指を鳴らすと、無数の半透明の武器は色を得、その実態を明らかにする。
その結果、老人は無数の武器に囲まれ、身動きができなくなり、発動しかけていた魔法を中断しざるをえなくなる。
「『非禁禁忌』、お前の目的は? いくつもの神殿を次々に物色している様だが」
青年はその問いにも答えない。老人がその事にまたもや舌打ちをすると、唐突に不快な笑みを浮かべる。
すると次の瞬間、老人の背の方向からガラスの扉が開く音がこの空間に鳴り響き、そこから次々に武装した集団が現れ、数十人の集団が狭い空間になだれ込む。
そして、遅れて来る様に1人の小柄な少女が武装集団の前に何の前触れも無く、唐突に現れる。
どこかの制服だろうか、胸元にピンク色の大きなリボンに制服ならではの大きな赤い襟、それの縁には白いラインが入っている。そして裾にも2本の白いラインが入った赤いスカートと、この状況には相応しくない服装をしている少女が、武装集団の前に現れた時同様に、老人と無数の武器のわずかな隙間に瞬間移動する。
それを見た青年がその老人と少女に無数の武器を一斉に振りかざす。が、すでに2人はそこに居なく、無数の武器がお互いぶつかり合って不協和音を奏でる中、少女のみが武装集団の前で肩に着いた埃を落としながら魔法名を唱えていた。
そしてそれに合わせる様に青年も魔法名を唱える。
「新・近代魔法『イマジナリー・マジックソード』」
「……Fortuna『エターナルライフ』」
少女の左肩に大きな魔法陣が現れる、と同時に青年の右肩に一際大きな魔法陣が現れる。少女は前を向いたままの姿勢で魔法陣に右手を触れると、右手に光が満ち溢れる。
それ同様、同じ動作をする青年の左手にも光が満ち溢れ、同時に腕を真横に振り払らい、魔方陣が破壊される。
そしてその手に少女は白いスッキリとしたデザインの剣を、青年は黒き雷纏う、漆黒の剣を握っていた。
少女は剣を出現させる際に使用する魔法陣の大きさと剣その物の質の違いに嫌な汗を流しながら、青年に突進する。その時、地に落ちていた無数の武器が浮かび上がり、少女に雨の如く襲いかかる。
少女はそれを科学の靴により生み出された超人的な跳力で遥か彼方上空に飛び上がると、ステンドグラスの壁に科学の力を駆使し張り付く。
少女が急いで自分の元居た場所を見ると、その光景に少女は驚きを隠せなかった。
攻撃を上へ回避している僅かな時間に武装集団が無数の武器で全滅させられ、無残にも地に倒れていたからだ。
青年は邪魔な雑魚を片付けると、上の方で壁に張り付いている少女を睨む。そして、科学も魔法の力も使わずに、それこそ超人的な脚力でそれも一瞬に少女のすぐ横まで飛び上がる。
少女が遅れてその様子を捕らえると、とっさに対向側の壁へ飛び跳ねる。
そして改めて青年をその目に捕らえると、青年は壁と垂直になりながら壁を歩いていた。
「……瞬間移動は出来ないのか? 出来るのならそれを使い早くここから離れろ。それを拒む事はしないし、深追いはしない。……だが、それを拒絶するのなら終りにさせて貰う」
「し、瞬間移動する為にはこの靴にしばらく力をチャージする必要があるの……」
「……勝手にしろ」
2人は地上に降り立ち、少女は身を屈めて靴に魔力を注ぐ。青年はガラスを鏡の代わりに使い自分の髪を整える。
今回は青年の呼び名と、新たなキャラ、少女との戦い。を書かせて頂きました。
そしてネタバレ防止のため、今は多くは語りません。