魔女魔人編「エアブレイカー」
保健室の引き込み扉を勢い良く開け、断末魔が入ってくる。
しかし態度が普通では無く、少し苛立っているようだ。そしてそれを裏付けるように、言動が人に恐怖を与える様に冷たい。
「あの女は目ェ覚ましたかァ?」
気迫あるその態度にアンノウンと共に居た葉乃愛が体を強張らせる。
やはり力の差が葉乃愛を本能的に緊張させたのだろう。
葉乃愛は道を譲る様に部屋の端へと寄ると葉乃愛の影に隠れていたアンノウンが姿を表す。
「何だァ? すっかり元気そうじゃねェか?」
冷たい視線を送られ、今度はアンノウンが硬直する。
そして見せ付けられた力の差と罪がアンノウンを束縛し何の抵抗も出来なくする。その結果、アンノウンはベットの隅でカタカタと体を揺らす事しかできなかった。
「なにビビってンだァ? 自分のした事くらい分かってンだろォ?」
「あ……う……」
冷たい仕草に冷たい言動。
これらがアンノウンと葉乃愛だけでなく、断末魔の後ろについて来た那由他や保健室の空間までも凍り付ける。
さすがにこの空気はヤバイ、と感じ取った葉乃愛や那由他が断末魔を落ち着かせようとこの冷たい場に入ろうとするのだが、断末魔から放たれる威圧で上手に思考が回らず、体の前で両手をふらふらと揺らしながら、おろろおろろと、動揺するしかなかった。
しかしそんな中、その断末魔から意外な言葉が溢れ出る。
「お前はお前に任された任務を遂行しただけだろォ? なにビビってんだあァ? して当たり前の事をしただけだろォ? もっと堂々と胸を張ったらどうだァ? 俺は別に怒ってねェよ。だから、ビビンなっつってんだよ」
目に大粒の涙を浮かべるアンノウン。
当然この涙は恐怖からでは無く、勘違いで無実の人間を傷付けた自分を、あっさりと許してくれた断末魔の優しさに対してだろう。
その様子から察するとアンノウンは勘違いとは言え、断末魔を攻撃した事をよほど悔やんでいたようだ。
「なに、泣いてんだァ? 人が快く許してるって言ってんだからもっと喜んだらどうだァ?」
「あ~うぅ~、けど何であんな苛立っていたの? てっきり私の事をすごく怒っていると思ったの……」
「あァ? その事かァ……あァ~……」
断末魔はそこまで言って口を閉じてしまう。そして断末魔は言えなかった。
迷子になった自分を那由他に目撃された、などと言う事を。そんな状態の断末魔を良い事に那由他が調子乗り始める。
「断末魔様……あぁ~断末魔様。私は……那由他は、今すごく感動しています! その断末魔様の男気溢れるツンデレに! 任務と言う理由でさりげなく許す。あぁ~……いい!! 私はあなたのおそばに生まれる事が出来て、本当に幸せだと思います。……ふふふふふ……あぁ、いい! ふふふふふ……」
無気味な笑みを浮かべる那由他。
これのせいで保健室の空気がさらに冷たくなったと言う事は言うまでも無い。
あとがき
断末魔様……最初はこんなキャラじゃ無かったのに……
そしてこうなる予定も無かったのに……
悪逆非道となるはずだった断末魔様は何処に……
でもそれがいい! ふふふふふ……