魔女魔人編「正体不明」
薄暗い旧校舎の中を3人はその薄暗さに無気味さを覚えながらも淡々と歩いていた。
3人と言うのは、断末魔と那由他と葉乃愛の事だ。
旧校舎は窓以外の物ほとんどが木で出来ていて、かなり腐食しているせいか、ものすごくカビ臭い。その上、足場は安定していなく、時々足が床に沈んだりする。
何と言うか、辺境の地に立つ古臭い無人の館に置き去りにされた気分になる。
今も木で出来た床からはキシッキシッと乾いたような湿った音が鳴り、その音が3人を余計緊張させる。
「んで、結局何でお前がここにいんだよォ? あんだけの事があったんだァ、大人しく保健室にでも言ってろよォ」
「う、うるさいわね! あれくらいの事、平気よ! 私の魔法は主に水系だから虫の汚れもすぐ落とせるし問題無いわよ!」
そんなかんだも話をしながらも3人は例の大図書室へと到達する。
ただでさえこの状況に緊張しているのに、3人に更なる緊張が走る。なぜなら、例の大図書館の両開き引戸の隙間から光が漏れているからだ。
旧校舎は特別、電気が止められては無いが、大図書室だけ明りが付いている事自体が不自然だ。そして、葉乃愛は切羽詰まった様な声で2人に話しかける。
「だ、誰かいる……それにほんとにナンバー持ちだと、危ないわよ……」
「な、なぜです!?」
「七不思議の続きに『もし中に入ったら襲われる』って……」
「だ、だいじょぶですよ~。もしそれが本当でもこっちには断末魔様がいるもん」
「オイオイ。人任せかよォ、お前ら」
そして意を決した那由他と葉乃愛は、大図書室に断末魔を蹴り入れる事にする。
まず、断末魔を引戸前まで連れて行くと、那由他がいきなり引戸開け、後ろで待ち構えていた葉乃愛が断末魔の背中を蹴る。
すると断末魔は「グェッ」と、らしくない声を上げながら大図書館へ転がり入り、その後、那由他が引戸を勢い良く閉めると僅かに隙間を開けそこから中の様子をうかがう。
その早技に反応が遅れた断末魔は綺麗に閉まった引戸に向かって抗議する。
「お、お前ら俺を囮に使うなんて、いい度胸じゃねェか、ゴラァ!」
しかし、断末魔はそこまで言うと口を閉じてしまう。ただならぬ視線を背中の方から感じたからだ。
そして恐る恐る、後ろを振り向くとテーブルの上でなぜか下着とタンクトップしか着ていない少女が、小さな手の平の先に魔法陣を何重にも浮かべながら断末魔を睨んでいた。
そして少女は高らかに宣言する、魔法名を。
「χ『en:Mirror matter』」
少女の手の平の先の魔法陣が一瞬で波の様に端から黒ずんで行き、そして、黒ずんだ魔法陣から何かが断末魔に向かって猛スピードで溢れ出る。
それに対して断末魔は勘で宙に浮かび上がり、何かか解らないそれを回避する。
幸いな事に大図書室は天井が高く、4階ほどもある。そして、壁には隙間なく大量の本が並べられた棚が存在し、それと並行するようにとても大きな本棚が列をなしていた。
そして断末魔はその本棚の上へと綺麗に着地し、その衝撃で収納されている本が地震があったかのように揺らめぐ。
本棚の高さは各々に違い、3階ほどの高さの本棚もあれば、腰辺りまでしか無い本棚も存在する。断末魔が乗ったのは丁度2階ほどの高さの本棚で、良い感じに少女を見下ろせる。
「オイオイ……オリジナル魔法って事はマジでナンバー持ちかよ……」
上位の魔法使いとなれば自分で創造したオリジナルの魔法を使いこなす。
理由としてはまず、学園で教わる魔法は基本的に威力が弱い。そして、敵がその魔法を知っていると、どんな攻撃なのかを見切られるからだ。
これだと魔法を使う意味が無い。簡潔に言うと、じゃんけんで何を出すかがばれている状態なのだから。
となると、ほとんど魔法使いがオリジナル魔法を使うのでは? と考えるが、そもそもオリジナル魔法を創造する事自体が難しいかったりする。
と言う事を踏まえてオリジナル魔法を使えるのは、もちろん例外もあるが、『卒業者』か上位の『ナンバー持ち』くらいなのだ。
これだけで少女がどれほどの実力の持ち主かが窺える。
そんな様子を引戸の隙間から覗く少女2人がひそひそ話を始める。
「あいつ……かなり強いわね……その証拠にあの攻撃、私の最高魔法を使っても防げるかどうか……断末魔様を蹴り飛ばして正解だったわ」
「だ、断末魔様はだいじょぶかな……」
「何言ってんの。断末魔様は私達の先輩であり、上司なのよ。負けるはず無いじゃない!」
あとがき
3人は中に入って行きましたね。
そして謎の少女……
それにしても謎の少女多いですね……