プロローグ『魔法と科学』
右手首から手の甲周辺を包帯で隠している青年は、大きな鏡の前で自分の髪型を整えていた。手に薬品を付けては、自分の気に入らない個所を紅い瞳で睨みつけ、自分好みの髪型と修正していく。
やがて自分の髪を整え終えた青年は満足したのか、鏡から離れると、その鏡とは反対の方向にある、これまた、大きな木製の両開き扉に近づき、緩やかにそれも大袈裟に開放する。周囲に木と地面が擦れる古びた摩擦音が響き渡る。
その扉の前には階段があり、階段の下では待ち伏せていた武装集団が、青年を確認するとすぐに、青年に向かって一斉に銃器を構えた。
映画の世界ではカチャカチャと言った擬音語が鳴るのだろうが、実際はそんな音はしない。良く聞くこの擬音語は映画などの演出で、銃器を構えた、と言う事を分かりやすくする為の物だ。
もし、実際にそんな音が鳴ったとすれば、どこかのパーツが外れていたりと危険極まりない。
しかし、青年はそんな現実的だが非現実的な現実に対して一切恐れを見せず、それどころか、今から通いなれた仕事場へと向かうような余裕まで見せ、扉を開ける為に一度中断された歩みを再開する。
青年が第1歩を踏み出すと同時に、一斉に発砲が開始された。
何の指令も無かった、恐らく青年が一歩目を踏み出すと同時に発砲するように事前に命令されていたのだろう。
遠慮が一切感じられない発砲は徐々に火力を高め、何千の弾幕となりて青年に襲いかかる。
無造作に放たれる銃弾は階段を割り、奥の大きな鏡を割り、周りにある女の人が彫られた白い像を破壊する。が、不思議な事に青年には傷一つ無かった。と言うのも、次々に放たれる銃弾は青年に当たる瞬間に白き光を放ちながら角度を変え、そして進路を変えこの場を通り過ぎていったのだ。
しかし、白き光を良く見ると、それは様々な何重もの曲線や文字に彩られた1つの模様に見える。そう、魔法陣だ。
その光景は青年に銃弾が当たる瞬間に魔法陣が現れては青年を守っているように見える、がそれは間違いだった。と言うのも、それは青年に銃弾が当たる度に出現しているのでは無く、青年に銃弾が当たる度にその姿が見えるのだった。
その証拠に連続で銃弾が命中している魔法陣を良く見ると、青年の周囲を徘徊している事が分かる。それも無数に。
徘徊する速度は魔法陣それぞれ違い、外側で高速で回っている魔法陣もあれば、内側で低速で回っている魔法陣も存在する。
「……もう、終りにしよう」
青年が徐に終りを告げると、周囲の魔法陣に変化が現れる。と言うのも、丸い曲線は刺々しく鋭くなり、徘徊する速度を上げ、規則正しく綺麗に並んでいったのだ。やがて、魔法陣は半透明の剣や槍、弓や銃と様々な武器へと姿を変え、さっきまでは無かった風を切る音を鳴らし青年の周囲を徘徊する。
青年は自分の周辺を飛び回る内の1つの剣を握ると、その剣は色を得、その実態を明らかにする。
「……Cide『ジェノサイド』」
青年は魔法名を呟いた瞬間、未だ止まぬ銃弾の雨の放出元へと数mも飛翔し、武装集団の1人を手に持っている剣で突き刺す。
次に青年は人から剣を抜かず、自分の周辺を浮いている槍を右手に銃を左手に取った。手に取られた二つの武器は色を得、その実態を明らかにする。
そのまま青年は槍をアスファルトで出来た地面に突き刺すと、鉄棒に片手でぶら下がった様な姿勢で地面と平行になりながら回転する。
そして余った片方の手で銃を乱射しながら槍の上の方へと少しずつ移動して行き、一番上まで来ると槍から手を離し回転の勢いを利用し、そのまま高く宙に浮上した。そして、そのまま重力に従い放物線を描きながら落ちて来ると綺麗に槍の上へと着地する。
槍は全て地に埋まり、その埋まった槍を中心として、アスファルトが蜘蛛の巣の様に割れる。そして今度は青年が地面に着地すると、周りの地面が盛り上がり青年を中心としたクレーターが出来上がった。
その衝撃で膨大な埃と武装集団が宙へ浮き上がる。
埃が薄れて来ると、そこには無数の武装者が無残にも横たわって居た。
そして青年がそれを確認したからか、青年の周辺からたくさんの半透明の武器が消えて行く。
「……Fortuna『エターナルライフ』」
青年が突如そう言うと右肩辺りに、一際大きな魔法陣が出現した。そのまま青年が前を向いたままの姿勢で魔法陣に左手を突っ込むと、手に光が満ち、そのまま左手を大きく横になぎ払う。
それと同時に魔法陣がガラスの様に破壊され、左手には黒い雷を纏う闇を表した漆黒の剣が握られていた。
そしてなぎ払われた先には銃を青年に向ける武装者が漆黒の剣に首を跳ねられていた。
あとがき
この作品は魔法学園に最強の主人公とかなりベタです。