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蒼穹のフロンティア第0話 〜プロローグ〜  作者: Rin


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喪失の宙域

はじめまして。

本作『蒼穹のフロンティア』は、宇宙を舞台にした戦争と覚醒の物語です。

人類と未知の敵『虚無種ヴォイド』との戦いの中で、一人のパイロットが何を見て、何を選ぶのか――。

拙い部分もあるかと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

挿絵(By みてみん)



それは、静かな任務のはずだった。

地球圏外縁――

コロニー群リフター宙域のさらに外側。

航路からわずかに外れたその空域。

そこに「未確認機影」の目撃報告が上がったのは、ほんの数時間前のことだ。

地球連邦軍にとって、それは珍しい話ではない。

センサーの誤作動、デブリの反射、あるいは民間機の誤認。

だからこそ、この任務は“日常”の一部として処理された。

小規模偵察任務。

小型輸送船エルシオンは、いつもと変わらぬ速度で、その宙域へと向かっていた。

挿絵(By みてみん)

艦内は、奇妙なほど静かだった。

ブリーフィングルームでは、簡易的な説明が行われた。

「未確認機影の座標はここだ。反応は断続的で、持続性は低い」

ホログラムに浮かぶのは、ほぼノイズに近いデータ。

「脅威レベルは低。だが確認は必要だ。以上」

あまりにも簡潔な説明。

誰もが“問題は起きない”と無意識に思っていた。

その中で、ただ一人――

アリシア・ヴァレンタイン中尉だけが、静かに画面を見つめていた。

挿絵(By みてみん)

(……ノイズにしては、規則性がある)

わずかな違和感。

だが、それを言葉にするほどの根拠はない。

「中尉?」

声をかけてきたのは、カイル・エルドリッジ。

まだ士官学校を卒業したばかりの、新米パイロットだ。

「……何でもないわ」

アリシアは短く答えた。

(考えすぎね……)

そう、自分に言い聞かせる。


格納庫では、三機のアーマードユニットが整備を受けていた。

地球連邦軍主力量産型アーマードユニット――

AU-07Mファランクス

無骨で、だが信頼性の高い機体。

「中尉、今日が初小隊ですよね?」

カイルが無邪気に話しかけてくる。

「ええ」

「任せてください! 俺、ちゃんとやりますから!」

挿絵(By みてみん)

その隣で、小さく肩をすくめる少女。

ミーナ・カーティス。

「……あんまり無茶しないでよ、カイル」

挿絵(By みてみん)

「大丈夫だって!」

対照的な二人。

その様子を見て、アリシアはわずかに息を吐いた。

(この二人を、私が預かる)

それが現実だ。

「いい? 二人とも」

声を少しだけ強くする。

「これは訓練じゃない。だけど戦闘でもない」

「はい!」

「……はい」

「私の指示が最優先。勝手な行動は禁止」

「了解!」

「了解です……!」

その返事に、アリシアは小さく頷いた。

(大丈夫。私がいる)

それが、彼女の最初の誓いだった。


発艦のカウントダウンが始まる。

カタパルトに並ぶ三機のファランクス。

「カイル、ミーナ。フォーメーション維持」

『了解!』

『は、はい……!』

緊張と興奮が混じる声。

「……行くわよ」

光が弾ける。

次の瞬間、三機は宇宙へと射出された。

挿絵(By みてみん)

静寂。

宇宙は、あまりにも何もなかった。

「センサー反応……なし?」

カイルが呟く。

「油断しないで」

アリシアは周囲を見渡す。

(やっぱり……おかしい)

完全な“無”は、逆に不自然だ。

その時――

「……待って」

センサーに微細な揺らぎ。

ノイズ。

だが、それは“規則的”だった。

(いる)

確信に変わる。

「全機、警戒――」

言い終わる前だった。


――閃光。

空間が“裂けた”。

そこから現れたのは、黒い機影。

有機的な歪なシルエット。

地球連邦軍の記録に存在しない機体。

挿絵(By みてみん)

「未確認機体……!」

『え……!?』

カイルの声が震える。

「散開!!」

だが――遅い。

敵はすでに攻撃していた。


高密度エネルギー弾。

一直線にミーナへ。

『きゃあっ!?』

「回避しなさい!」

間に合わない。

その瞬間――

『ミーナ!!』

カイルが割り込む。

衝撃。

閃光。

「やめて……!」

祈りは届かない。

機体は貫かれた。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

爆発。

「カイル……!」

声が、空虚に響く。


「ミーナ、下がりなさい!」

『動かない……!』

恐怖。

操作不能。

黒い機影が迫る。

『……すみません』

挿絵(By みてみん)

「やめて――!!」

切断。

沈黙。

挿絵(By みてみん)


何も残っていない。

「……私が」

視界が揺れる。

(守るって……言ったのに)

その言葉が、頭の中で何度も反響する。

(私が……殺した)


「――許さない」

低く、押し殺した声だった。

その瞬間、世界から音が消えた。

警告音も、通信も、すべてが遠ざかる。

代わりに――“見える”。

敵機の動きが。

黒い機影――ドレアス。

その加速の癖、推力の偏り、次に踏み込む角度。

すべてが、手に取るように理解できた。

(速い……でも、読める)

ドレアスが再び突進してくる。

異常な加速。ファランクスの限界を軽く上回る機動。

「来なさい……」

アリシアは機体を構えた。

迎え撃つしかない。

次の瞬間――

ドレアスが視界から“消えた”。

(左――!)

反射的にシールドを展開する。

だが、遅い。

閃光。

衝撃。

挿絵(By みてみん)

「――っ!!」

凄まじい衝撃とともに、左側の視界が弾け飛ぶ。

警告表示が赤く染まる。

《左腕ユニット損失》

シールドごと、腕が斬り落とされていた。

「……速すぎる……!」

息が乱れる。

体勢を立て直す間もなく、敵はすでに次の攻撃軌道へ入っていた。

(このままじゃ……追いつけない)

フォトンライフルを構える。

挿絵(By みてみん)

照準。

発射。

だが――

ビームは空を切る。

ドレアスは、まるで未来を読んでいるかのように、すでにそこにはいない。

「……当たらない」

冷静な結論だった。

(遠距離じゃ無理……)

この速度差。

この反応速度。

射撃戦では、確実に押し切られる。

「なら――」

迷いはなかった。

フォトンライフルを手放す。

代わりに右手が掴むのは――

高出力白兵武装。

プラズマソード。

黄緑色の刃が、唸りを上げて展開される。

挿絵(By みてみん)

「近づくしかない……!」

再び敵が突っ込んでくる。

一直線。

圧倒的な速度。

普通なら回避一択。

だがアリシアは動かない。

(もっと……引きつける)

警告音が鳴り響く。

距離、縮小。

まだ。

まだだ。

(今じゃない……)

敵の鉤爪が振り上げられる。

その瞬間――

「――今だ!!」

スラスター全開。

ファランクスが横滑りするように加速する。

紙一重。

敵の斬撃が機体をかすめる。

だが、その内側へ――

滑り込む。

死角。

完全なゼロ距離。

「そこだぁぁぁぁぁ!!」

挿絵(By みてみん)

プラズマソードを振り抜く。

黄緑色の閃光。

一閃。

挿絵(By みてみん)

時間が止まったような静寂。

次の瞬間――

ドレアスの機体が、内部から弾けた。

閃光。

爆発。

黒い残骸が、宇宙へと散っていく。

「……はぁ……はぁ……」

荒い呼吸だけが残る。

左腕を失ったファランクスが、ゆっくりと姿勢を保つ。

戦闘は――終わった。

だが、その勝利は。

あまりにも、重かった。


戦闘は終わった。

だが――

「……カイル」

「……ミーナ」

返事はない。

分かっている。

それでも。

「なんで……!」

涙が零れる。

挿絵(By みてみん)

エルシオンへの帰還航路。

誰も何も言わない。

記録だけが残る。

「初の虚無種ヴォイド撃破」

だが――

それは英雄譚ではない。


それは、

アリシア・ヴァレンタインにとって――

すべてを失った日。

そして、

すべてが始まった日だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

今後も更新していきますので、よろしくお願いいたします。

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