第49話 車も空を飛ぶことができます
「ねぇ、じゅんき。さっきのあの失礼な奴らと知り合いなの?」
「えー。まぁー。そうだな」
「なんか嫌なことされた?…なら私が…」
「まぁまぁ落ち着いてくれ。俺は大丈夫だから。な?俺にはトリエスが居るし。ね?」
「ならいいけど」
危ない危ない。こんな明るい舞台を悲劇と血で染め上げる所だった。そんなことになれば王探しの旅はまたまた1人というすごく寂しい旅…になればいいな。最悪の場合は俺もシストリエスも旅をできなくなって…それはまじで不味い。俺の異世界スローライフが…まぁ何にせよ、未遂にできて良かったと俺は思った。
「ボス!我らデミズの獣人一同到着しました!」
飯を食べたり、一波乱起きかけてあせあせとしたりした婚約パーティ中、じゅんきは頭の中に突然としてユイイトの声が響いた。
獣王…ワイルドポーラーベアの力を受け継いだ後、帰路で車を運転しながら分析していると見つけた能力である。(危ないので、皆んなは真似をしないようにしよう!)それをユイイトが帝国前に着き、喋った時に自身の脳内にそれが来るようにした。…素晴らしい力である。
「ユイイト達が着いた。行ってくるぜ」
「えぇ。気をつけてね」
そうして、抱き合った後に、じゅんきは急いでユイイト達の居る門前へと向かった。
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「よう!」
「おぉ!ボス!」
「作戦は理解しているな?」
「はい。俺たち獣人族が街中で奴隷となっている獣人の救助と保護。そして…」
「俺たちも参上だぜ!」
ライガ、ベアフ、ベアサの3人も、大きな板材を重そうに抱えながら参上した。
「よし。皆、やることは理解しているな!早速だが、作戦を開始する!」
じゅんきはそう言いながらばさりと映画に出てくる怪盗のように着ていたタキシードを脱ぎ去った。そしてマントがバサリと後ろでひらひらとし、先ほどの服装よりも少し豪華になったタキシード、そして大きなハットを被った。
「…あ、兄貴…なんですか?その姿」
「ふふん。かっこいいだろう」
「え、えぇ。かっこいいですが…」
デミズの住民皆が作戦(奴隷たちを救う)を行うべく、各々が解散し、街へと散らばる中、思い板材を抱えたライガがじゅんきの変わった姿を見て困惑しながらそう言った。
「い、いつのまにそんなもん用意してたんすか」
「ふっふっふ。昨日の夜だ」
「ちゃっかりしてますね」
「そうだろそうだろ」
「…このタキシード。要らなかったのではないですか?」
「いや!最初はいつもの服で行き、パーティー会場に着いたらお披露目しようとしていたのに、トリエスが…まぁ、ありがたいことに用意していたんだよ。この服を。断ったんだが、トリエスも引かなくてな。服を引っ張りあったら、いつもの服は破けてさよならしたから、一旦はこの服を着ていたというわけだ。会場についてさっきのようなことやっても変な人にしかならないだろう?だからここでした」
「それ、きっと奥さんに言って今の服にしておけばよかったのではないですか?」
ライガの言う通りである。だが、いつものお気に入りの服が破けたこと、そして、シストリエスの「この服を着て欲しい」可愛いお願いにNOとじゅんきは言えるわけなかったのである。なので、この制作した服装のお披露目する時を完全に逃してしまったのである。
だが、じゅんきはお姫様(自業自得野郎)と獣人達を助けに来た傍ら、やはり1人の男、そして、異世界という摩訶不思議現象でひょんなことからすごい力を手に入れた者として、やはり男(?)のロマンというものをやり遂げたいのである。
「…いや、そこさ?やっぱり男のロマンってやつよ」
「…ちょっとわかんないです」
ライガは完全に冷え切った目をした。じゅんきは先程の自信満々な態度から一変し、なんだか小っ恥ずかしくなった。
自分のロマンを他の奴らに理解してもらうというのは難しいのだとじゅんきはこの時思った。
「ま、まぁ!取り敢えず、お前らも今持ってるそいつを運んで欲しいのだよ。頼んだよ」
というわけで、じゅんきは話をずらすことにした。
「…わかったのですが、こいつめっちゃ大きいので、少々時間がかかりますよ。全く、こんな三角形の変な板材を住居の上に置いて何がしたいのか…」
ライガはもう突っ込むのをやめた。目の前の規格外兄貴には何を言っても無駄そうだということを理解したからである。
「そ、それは後のお楽しみさ」
何故か少し自信なさげにじゅんきはそう言った。三角形の板材…怪盗らしい服装を制作し終えた後に作成したそこら辺の木を加工して作成した一見なにがしたいのかわからないけど、なぜか結構精密に作られた板材である。服はデミズにある糸などを使用して、板材はデミズの建築で使う板材を幾らか貰った奴で作り上げた。
服なんて作成したこともないし、板材も加工したことはなかったものの、やはり自身の持っている生成師というものがそれを達人が作成したかのような物に仕上げてくれたのだとやはり異世界、それも漫画やアニメで見たような世界に来れて良かったと思ったじゅんきであった。
今まで服を作成しなかったのは、単純に糸などがなかったのと、シンプルに服のこだわりがなかったからである。
そんなことを考えつつ、じゅんきは板材を運ぶライガ達に着いていくのだった。
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「なぁお姉さん。恋人さんはどこへ行ったの?」
「用事で席を外しているわ」
「そうなのかぁ…なぁお姉さん。あいつなんか捨ててやっぱり俺の元へ来ない?」
「はぁ?」
「やっぱりさぁ、俺、貴女のような美人なお姉さんのこと、諦め切れないのよ。俺、あいつよりも強いしさ。な?」
「ふざけないで、貴方みたいな奴がじゅんきよりも強い訳ないでしょ」
「いや?俺は強いぜ?少なくとも俺たちも裏切ったあいつよりかな?」
「…裏切った?」
「ああ。俺たち…勇者パーティーは、異世界からやって来たんだよ。ここに来る時に、世界の平和と言う使命を神から貰い、それを実行して、いずれは俺たちの故郷…日本へと帰ると言う目的の為に行動している。だけど、そんな素晴らしい目的を捨てて、自分勝手にもその使命から逃げ、更には前に出会った時にもパーティーに加わり世界を共に良くすることを拒んだ奴だ。そんなクズ野郎に付いていくのは良くないって言いたいのさ。だが!俺は…」
「うるさい。黙って。」
「ひっ」
意気揚々と話す佐藤の言葉を遮るようにシストリエスは黙れと佐藤に言った。
「私は貴方のような人間に興味はない。例えじゅんきが貴方達を裏切ったとかだったとしても、私は彼に付いていくわ。だから、もう2度と話しかけないで貰えるかしら」
そう言いながら、シストリエスは苦いむしを噛み潰したかのような表情で去った。
「…くそっ!」
「ドンマイ。佐藤」
シストリエスが去った後の佐藤の元へ剛力達いつものメンツが集まり、彼を励ました。
「…じゅんきが他世界から来た者…どういうことかしら。それに、何故彼は私にそれを…これは…後で問いただす必要があるわね」
そう言うシストリエスの顔は、妖艶だが、どこか恐ろしい。そんな表情だった。
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「よし、準備完了したな」
「はぁ…はぁ…疲れましたよ…こんな所まで板材を持って来させるなんて…」
「ありがとうな。皆んな」
「まぁ、いいですがね…それで、こんな住宅街の知らない人の家の屋上に上がってこの板材を勝手に設置して今から何するんですか?」
「ふっふっふ。こいつを飛ばすのさ」
そう言いながら、じゅんきは空間収納魔法から大きな物を出した。
「…車…ですかい?」
「だけど、この前乗った奴とか違いますね。…かっこいい」
ライガの目がキラキラとした。
「こいつの名前はzero counter。PRVやウイングズよりかは耐久性能や悪路走行力、運搬力はないが、その代わりにとても速いのさ」
「んで、こいつでどうするんすか?」
ベアフが目の前にあるcounterを見て疑問を浮かべたような顔をした。
「ふっふっふ。こいつで今から君たちに用意してもらったジャンプ台から飛んでパーティー会場へと入ってやるのさ」
ライガ達3人の顔が引き攣った。こいつ、正気かって言いたがな顔をして。
「しょ、正気…っすか?」
「え?正気だが?」
ベアサは固まった。自分の兄貴がすごくおかしいことを言っているのだから。
「え?なんで皆んなそんな顔をするんだ?パーティーを手っ取り早くストップさせるにはちょうどいい作戦だろう?」
「兄貴…自分がとんでもないことを言ってる事を自覚した方がいいですよ」
「え?」
「…兄貴、第一、この車って奴は空を飛べますか?飛べないでしょうね。こんな鉄の塊が、兄貴浮遊の魔法とかもないでしょう?俺たちもないですけど…」
「ライガ。安心しろ。車は空を飛べるぜ」
「…そうなんですか。でも普通、パーティー止めるだけなら獣人達、それこそ俺たちを刺客的な感じで送り込んで獣人が強いってことをアピールしたりするもんじゃないんですか?」
「そうっすよ」
ライガの意見にベアフがうんうんと頷きながら肯定した。
「は?つまらんでしょ」
「そんなもんじゃないっすよ!ガタルさんと、ユウラ族長の、そして奥様の命かかってるんすよ!」
「ガタル、ユウラはともかく、トリエスの命はかかってないだろうが」
「で、ですが…」
「だーもう!うるせぇうるせぇ!俺がやるってんならやるんだよ!」
「そんな強情な…でも、そんな強情な兄貴なのに、もっと尊敬の心が何故か湧いてくるんすよね…もう好きにやっちゃってくださいな」
ベアサは諦めた。何を言ってもぶれない兄貴に心打たれたのかなんなのかは知らないが。
「それじゃ!門まで行ってくるぜ!また会おう!」
「…もうどうなっても知らないっす」
「ライガ。もう兄貴の好きにさせよう」
「そうだな」
走り去る兄貴の背中を見て、獣人3人衆は飽き飽きとしつつも、物事を楽しむ兄貴に尊敬の心を抱きつつ、見送るのだった。
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「にゃあ紫女」
「なに、泥棒猫」
「いつになったら王混様は来るのかにゃ?」
「知らないわよ。私だって何も教えられてないんだから」
「早くしにゃいとあの顔だけ王子様とキスさせられて、婚姻させられてしまうにゃ!」
「あら、いいじゃない。かっこよくて、地位もあって、性格も良さそうな人…一国の長の娘のあんたにはお似合いよ」
「嫌にゃ。あんな奴はお断りにゃ!あいつ、絶対性格悪いにゃ…何考えているかわからないし、それに…」
「それに?」
「あいつ、なにかを企んでいる気がするにゃ」
「例えば?」
「この国を完全に自分のものにするとか…」
「いずれ自分の国になるのに?馬鹿じゃないの」
「にゃんだとー!この野郎!表でろにゃ!」
「…はっ!私に勝てないくせに!笑わせるわ!」
「…うにゃー!」
「ど、どうしたんだい?ガタル」
「…王子。にゃんでもないにゃ」
「なんでもないことないだろう?美人なお嬢さん。ガタルと知り合いなのかい?」
「…まぁね」
「そうか。ガタル?もうそろそろで婚姻だ。ブルテナ帝国の王族の一員になるのだから、そんな汚い言葉を使ってはいけないよ?この人は客人だからね」
「わかったにゃよ」
「…へっ。怒られてやんの」
「うるさいにゃ」
「お嬢さんもほどほどにしておきなさいよ」
「うっ…わかっ…わかりました。すみません…」
「…へっ」
ブルテナ帝国の王子タイクーン王子によって2人が大喧嘩をする事態は免れた。王子様は2人を諌めたのちに、婚約の儀を行うと言い、ガタルはタイクーンに連れられた。
シストリエスはその光景を見て、心配そうな顔をしつつ、自身の最愛の者が来るのを待つのだった。
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「それじゃあ、始めるか。全てを壊す物語を」
そう言いながら、じゅんきはニュートラルにギアの入ったzeroのアクセルを踏み、エンジンを吹かせつつそう言った。その直後、じゅんきはギアを1にし、車は高らかなエンジン音を唸らせ、勢いよく走り出した。
1つ、1つとギアをあげていくと同時に建物の流れていく速度が速くなって行く。婚姻パーティーがあるからなのか、夜だからなのか、馬車一つ走っていない待ちの道を爆速で駆け抜けてゆくじゅんきの車は、正面に近付いてくる建物を最初に設置されたジャンプ台(ただ木を加工しただけの安上がり仕様)を使い飛び越え、屋根の上に乗った。
ガラガラとレンガの屋根が音を出す。そして、そんなレンガの屋根という一歩間違えれば路地へ真っ逆さまに落っこちてしまうような危険な道を命知らずのように速度を落とすことなく渡って行く。
一軒、また一軒と乗り越えて行くうちに、zeroの速度は200キロへと到達した。異常である。
そして、そんな命知らずなじゅんきの運転するzeroは、ライガ、ベアフ、ベアサの待つ2つ目にして最後のジャンプ台に急接近し、3人の持ってきてくれたジャンプ台を…超えた。
空ぶかしの音が辺りに鳴り響きつつ、じゅんきの車は物理法則を無視しているかのように空を走る。
「あ、兄貴…やべぇ」
「まじすか…車?って奴は空飛べるんすね」
「いや、浮遊魔法とか使ってないのに飛べるわけないだろうが普通…普通にやべぇっすよ。兄貴」
3人も、そんな驚きの反応しかすることはできなかった。それもそうである。3人からすればどういう原理で動いているのか全くわからない鉄の塊が爆速で走り抜けたと思えば、自身達の持ってきた木の板を使い、建物から飛び立ち、浮遊魔法などを使ってもいないのに空を飛んでいる光景ははっきりと言って理解ができない。そんなことをやりのける兄貴ことじゅんきを見送ることしか、3人にはできないのであった。




