第48話 婚約パーティ
「すげぇ久々って感じだな」
「そうね。…じゅんきと居ると、数日前にいた場所が数年前に立ち寄ったような感じに思えてくるわ」
空がオレンジになった夕方頃、じゅんきとシストリエスは獣王を攻略する前に一度来たブルテナ帝国へと再びやって来た。
街の皆がやはり不思議そうな顔でこちらを見てくるが、いつもの視線なのでじゅんきはスルーしつつ、城へと向かうことにした。
「…人多すぎないか?」
「婚約パーティだしねぇ。一国の王子様が獣人国の王女様と婚姻するのは珍しいことだしね」
「そうなのか?」
「ええ。私も封印されていた期間が長すぎたから、全てを知って居るわけではないけど、昔…1000年以上前に起きた獣人と人間族の大規模土地の争いが起きた時、獣人は人間族に負けたの。そのせいで獣人の持つ土地はほとんど取られ、獣人達は人間族に奴隷にされることが多くなったの。単純な戦闘力で見れば普通に強いし兵力や色々なことに置いて便利…といったらあれだけど、そんな感じだからね」
「なるほど、だからあの時もここの兵士達は獣人を奴隷にしようとしていたのか」
「そうねぇ、でも不思議よね。じゅんきだって人間族なのに、獣人を奴隷にしようとかしなかったのは」
「やってほしいことなんてないからな。俺はスローライフを手に入れる為に冒険者をしているんだよ。そんな中で命令にした従わないようになって居る奴らをそばに置いていても邪魔でしかないしな」
「ふふふ。なんだか珍しくタイプの人間ね。じゅんきは。…そこが私が好きだと思うポイントの一つなんだけどね」
「そうなのか?普通だがな」
「その考えが普通なら、奴隷制度はできてないわよ」
「ははっ。確かにな」
そんな風な会話をしながら、じゅんきとシストリエスは久々の2人きりの時間を楽しむのだった。
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「人多いな」
「そりゃ、一応は一国の王子と一国の王女の婚約パーティよ?デミズはまだしもブルテナ帝国や、周辺国家のお偉いさんとかが来るのは定石でしょ?」
「確かになぁ…」
中世の景色には似つかない最新…というより、この世界には存在しないPRVと名付けた魔導車でじゅんきとシストリエスはこの前来たばかりの城の門前へと着いた。
しかし前の時とは違い、前、後ろに居るのは兵士の使う馬車ではなく、煌びやかで、豪華に飾り付けされた馬車達…位の高い人たちの乗るような馬車に挟まれていた。
煌びやかな貴族の馬車が門を通る中、煌びやかではない…なんなら、馬すら連れておらず、蹄の音ではなくゴムタイヤと、消音器によりかなり音の静かなエンジン音を響かせるPRVというなんとも奇妙な光景に、護衛につく兵士達の中にはこの前のウイングズの光景を見ていたでのか、察したような顔をする者や、逆に???って顔をする者も居た。見慣れた光景なので、じゅんきはそのまま何事もないかのように車を進めるのだった。
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「着いたぜ」
「降りましょうか」
この前も来たロータリーのような場所に着いたじゅんきは、シストリエスと共にロータリーのような場所の一角に路駐し、そのまま降りた。辺りは自身の連れて来た護衛や、従者を連れた煌びやかな女性やかっこよくキメている男性や貫禄のある人などがいる人たちが豪華な馬車から降りてくる。
そんな中で異彩を放つPRVが当然注目されないわけもなく、皆の視線を我が物にしている。そして、男性陣はPRVから出て来た超絶美人のシストリエスに釘付けとなっており、奥さんやメイドさん達に怒られていたりもしていた。…シストリエス。魔性の女。そうじゅんきは思いつつ、PRVを空間魔法内に収納し、パーティ会場へと向かうのだった。
「ねぇじゅんき。私後悔していることがあるの」
「ん?なんだ?」
パーティ会場に行く為、この婚約パーティの参加資格が2人にあることを門番に証明(招待状を見せつける)した後、廊下を2人並んで歩いている時に、シストリエスが突如としてすごーく悲しそうな顔をしながらそう言った。
「…すごく目立ってない?私たち」
そう言われて、じゅんきは辺りを見渡した。…確かにすごく目立っている。シストリエスは当然ながらそこら辺の美人よりも美人と言える顔立ち、体型、そしてすごーく似合っているかつ綺麗なドレスを身につけているから、男性陣…のみならず、一部の女性陣からの視線がすごい。…なんというか、憧れの視線的な奴?
そして、その横にいるじゅんきも、かなりの高身長であり、綺麗なスーツを着こなしているからか、男性陣からは妬みのような視線を向けられているものの、女性陣からは好意的な視線で見られていた。
「こうなるくらいなら、いつもの服で来るべきだったわ…私のじゅんきに色目を使いおって…あと男からの視線がきもいし」
シストリエスさん。超絶ご乱心である。いつものシストリエスからは聞くことがないセリフであり、少々じゅんきも困惑していた。
「まぁまぁトリエス?俺はトリエス一筋だからさ?ね?」
「ならいいけど。あっ私は当然じゅんき一筋だからね!」
うん。それはすごく理解しているよと、じゅんきは心の中で思った。そんなこんなを言い合ったりしていると、会場が目の前に迫って来た。巨大な扉が開かれており、これぞ異世界!という雰囲気にじゅんきのテンションはどんどんと上がっていった。
パーティ会場について始まったら美味しいご飯や飲み物が待っているだろう。ガタル達獣人を助けないといけない目的で来たものの、じゅんきは助かるまでのひと時をめいいっぱい楽しもうと思い、ウキウキで会場へと入った。
「おおおおぉ!」
会場に入ると、予想通り、すごーく美味しそうで高そうな飯がたくさんあった。
バイキンクのような自分で取る形式のやつのようだ。じゅんきはしばらく飯を食べていないこともあり腹ペコなので、シストリエスを置いてけぼりにした。先程彼女に彼女一筋と言った奴の行動ではないだろう勢いで、飯に食らいついた。最愛の恋人の目の前でもじゅんきは食欲には勝てなかった。
パン、野菜、肉と綺麗に、順序よく取り、最後に魚を取ろうと木のトングのようなものを取ったとき、違和感を感じた。
明らかに自分の手ではない手がトングを掴んでいた。綺麗な黄金の鎧だ。大層な金持ちか、その護衛だろう。あまり趣味がよくない奴だなと思いつつも、怒らせたら面倒なので、トングを譲ろうとした。
「……王混?」
「…え?」
聞き覚えのある声。トングを譲ろうとしたまんまで声のする方を見た。
「…天野」
そこに居たのは無限ダンジョン攻略以降全く出会ってもなければ、連絡も取っていなかった(取りたくなかったし取る手段もない)ここに来る前に居た世界…日本にいた頃、学校という学び屋に通っていた頃のクラスメイトであり、そのクラスで委員長をしていたイケメン男、天野 勇樹がそこにいた。
「王混!お前なんでこんな所に」
「いや、それはこっちのセリフだ」
両者とも、料理と持っていたトングをテーブルに置き、そう言い合う。ほんと、なんでこんな所に居るんだよこいつはと思った。
「天野君?どうしたの…って!お、王混君!?」
天野を追いかけて来たのか、馬童沙羅に、愛川瑞姫、そして国語科の先生木本先生までやってきた。
「王混君。久しぶりね。どうしてこんな所にいるの?…それに、どうしたの?その格好は?」
「王混君!久しぶりですね!元気でしたか?」
「王混くーん!」
馬童に木本先生からの久しぶりの言葉。それに続くように愛川がこちらに向かって周りの空気なんて知らないと言わんばかりにハグをしてこようとした。
「ひっさしぶ…ぐえっ」
しかし、ハグは何者かによって防がれ、愛川は吹き飛ばされた。
「もぅー!酷いじゃないじゅんき!」
愛川に打って変わり、ハグをして来たのは先程じゅんきが置いてけぼりにしたじゅんきの最愛の恋人シストリエスである。
「腹が減ってたからつい…すまんな」
「…あとで甘やかして。それで許してあげる」
「はいはい」
「…あ、あのぅ…王混君。この人は?」
「ああこいつは…」
「私はシストリエス。彼…じゅんきの最愛の恋人です❤️」
誇らしげにシストリエスは宣言した。
「んなっ!?」
「…まじか」
「……」
「…驚きですね…」
4人が各々が違う反応を見せた。…まぁ、無理もない。この前再会したばっかりのクラスメイトが再び出会った時にはとてつもなく可愛い美人を連れているのだから。しかも恋人。…俺でも困惑する自信がある。
「こ、ここ恋人!?お、王混君どういうことですか?…先生に詳しく教えなさい」
「恋人……許せない許せない許せない。そこは私の席なのに…ブツブツ……」
先生には詰め寄られ、馬童と天野は困惑し、愛川は…なんだかものすごく怖い雰囲気をただよわせている。シストリエスは恍惚した表情で俺の腕に抱きつく……とてもカオスな光景である。誰か助けてくれ。そう俺は思った。
「…あーっ!!王混様ー!」
元気そうな声色が近づいて来る。じゅんきはその方向を振り返った。
「王混様!来てくれてうれしいですにゃ!」
「ガタルか。元気そうでよかったぜ」
ガタル登場。いつものTHE獣人族って格好から一変し、王女らしい綺麗な白色のドレスを着こなしている。…シストリエスと同じくらいにまで綺麗である。
「ガタル様お待ちを…ってお、王混!?」
「…うわぁ」
はい。事態はもっともっとややこしくなりました。ガタルを追いかけて来たように来たのはクラスのお調子者達の佐藤と剛力達4人衆である。じゅんきに嫌がらせなどをしていた奴らでもある。
「な、なななんで王混がこんな所に居るんだよ!」
「そうだぜ!この裏切り者が!」
「ちょっと佐藤く…」
「ちょっと。いきなりなによ。いきなりこっちに来てじゅんきを見るや否や裏切り者っていうのは酷いのじゃないかしら?」
シストリエスが、佐藤たちと俺の間に割って入ってきた。
「…うお!すっげぇ美人じゃん。おい!王混!いつこんなにも美人な人と出会ったんだよ」
「お前らと別れた後にだよ」
「そうか。…なぁお姉さん。お姉さんはこいつの何?」
「何って…彼の恋人ですけども。何か?」
「こ、恋人!?…なぁ悪いようには言わないぜ。俺たち…いや、俺のものにならないか?」
「ちょっ佐藤!」
「は?」
出会って早々に、しかも王女と王子の婚活パーティー内で何言ってんだこいつらとじゅんきは呆れた。
「こいつはな。俺たちを裏切った最低な野郎だ。そんなクズ野郎と恋人になるよりもさ。そんなクズ置いておいてさ、俺と恋人にならないか?」
「ふざけないで。貴方みたいな男は御免よ。彼は私にとっての王子様であり英雄譚に出てくるようなかっこいい人よ。それに、旅をして、彼がとてもそんなことをする人じゃないっていうのは理解できるわ。それに、貴方みたいなチャラい奴私嫌いだし。とっとと失せてくれるかしら」
拒絶を超えてもはや精神攻撃をしているシストリエスの迫力に佐藤は驚き言葉を詰まらせた。
「フン!…じゅんき。いきましょう」
「え?あ、あぁ」
「あっ!待ってにゃ!王混様〜!」
「…王混」
「変わったわね。王混君…って、瑞姫?」
「…許せない許せない許せない。あんな女が王混君の隣にいるなんて…妬ましい妬ましい妬ましい」
「瑞姫?たーまーきー?…こりゃだめね。…はぁ、どうして男って女心がわからないのかしらねぇ」
「あっ、沙羅!待ってくれよー!」
なんかもう、婚約パーティではなく一部の空気が婚活パーティー…でもなく、パーティでもなんでもなくなった何かに変わってしまった光景をシストリエスに引きずられながらに思うじゅんきなのであった。




