第32話 愚か者の末路
今回の話は血の表現などがあります。
獣人族の街であるデミズは現在、隣国の人間の支配する帝国、ブルテナ帝国から攻撃されていた。
今の今まで知的にそして平和的に街を発展させてきた獣人族と、欲望のまま、暴力的に略奪と支配によって土地を広げてきた人間族が統治するブルテナ帝国。どちらが蹂躙する側でされる側なのか。それは明白であった。
デミズの街の建物からは炎が吹き出し、とてもじゃないが亜人…のみならず、侵略しているブルテナ帝国側の奴らも住めるとは言えなくなった。
道や燃えていない壁や木々には生々しい赤い血痕。その近くには目に生気がなく、体をだらんとさせてその場に寝そべったり、壁にもたれかかったまま血をダラダラと垂らし、動かない亜人。
小さな子供達の悲痛な泣き声。ギャアギャアといいながら一生懸命に逃げる者、そして、一部は命を賭けて敵と戦う者。しかし獣人は戦闘経験が少なく、力量の差で圧倒される。
そして動物の耳を生やした女や一部の男には手足、そして首に鎖が繋がれ、馬車に乗せられる。そんな地獄絵図となっているここデミズに、この世界には似つかないハイテクな物が轟音と共にがやって来た。
「…ひっでぇ有様だなこりゃ」
「…」
「…ガタル。大丈夫か?」
「…にゃあ」
「…シストリエス。ガタルと共に行動してくれ」
「了解したわ」
「ガタル。お前はシストリエスの元を離れるなよ。あと恩人様は辞めてくれよな」
「…わかったにゃ恩人さ…いえ、王混様は?」
「俺はここを攻めて来た愚か者とちょーっと遊んでくるよ。蹂躙する側がされる側になった時どんな顔をするのかなぁ?」
そう言ってニヤニヤと不気味に笑う男、王混じゅんき。ネコミミを生やした女の子のガタルは勿論、彼の恋人であるシストリエスでさえも、彼の今の表情には恐怖していた。
そして、じゅんき一行の乗るハイテクマシンこと車は街到着後に停車し、3人は降りた。
「ガタル。お前はどうしたい?」
「…私は私の父様達を探しに行きたいにゃ」
「そうか、シストリエス。改めて言うが頼んだぞ」
「…仕方ないわね。わかったわよ。だけど、これが終わったら楽しみにしてるね」
「…はいはい」
シストリエスに耳元でそう言われたじゅんきが適当に返事を返すと直ぐにネコミミ女の子、そして後を追うようにダンピール族の女はじゅんきの元を去った。
「…行ったな。…さてと、じゃあ俺も始めますか。呼出!ダイナオーツインク!」
そうして、じゅんきの横から巨体で肥えたような体を持つ恐竜頭の化け物が姿を現した。そして、じゅんきは告げた。
「ツインク。遊びの時間だ」
その命令にわくわくとしているのかうんうんと楽しそうに頷くツインクを見てじゅんきは「いい心意気だな」と思わず口から漏れだした。それと同時にじゅんきはとんでもない奴を造ったなと思いつつ、敵を探しにいくのだった。
「おい!この女いい体してやがるぜ」
「あぁ。ほんまになぁ。…なぁ、このまま隊長のところへ持っていくのは勿体無い。俺たちですこーしだけ遊んでからにしようぜ」
「おっいいですねそれ。それじゃ…ってなんだ?」
「…やめてくれ…彼女で遊ばないでくれ…」
「ユイイト…」
「おうおう。彼氏さんかい?いいねぇ恋って。素晴らしいものだ!その関係を潰したくなるくらいになぁ!」
犬のような耳を生やした美人を襲おうとしていたムキムキの大男は、襲おうとした際に足を掴んで静止を促して来た同じく犬のような耳をもつ少しひょろっとした男の腹を殴り、そのまま少し遠くへと飛ばした。
「ぐっ」
「ユイイト!」
「はーい姉ちゃんはここで待機しててねぇ」
「い、嫌!」
「おらおら!彼氏さん!対抗してみろや!」
殴る蹴るの暴行。いじめの現場そのものである。獣人の男は先程からやられっぱなしである。
「うっ!くっ!」
「…兄ちゃんら。いいことやってんねぇ。俺も混ぜてよ」
犬のような耳を持つ獣人族の男を楽しげに殴り飛ばしているムキムキ大男の後ろに現れたのは、これまたひょろっとした男だあった。
「ああん?仕方ないな…ってお前、帝国軍人ではないな!?誰だお前!」
「名乗るほどのものでもございませんよ。ただの通りすがりの旅人Aですよぉ」
舐め腐っている態度で軍人に接したじゅんき。軍人は怒っているようだ。
「…チッ。てめぇ!俺たちを舐めてんのかぁ!」
そうして、大柄な筋肉もりもりのマッチョマンは目の前の亜人族の男からヒョロヒョロとした男に向かって拳を振り上げ、下ろした。
「っと。危ない危ない。いきなり拳を振り上げるとは、お前、体ばかり鍛えすぎているからか、頭はそれほど鍛えてなんていないんだなぁ」
男の拳は振りはでかく、当たると即死級だが、致命的に攻撃速度が遅い。振りかぶって降ろすまでが遅い。だからこそ、拳のくる地点なんて簡単に予想できるし、そこさえいかなければいいってことだ。
一般人ならそれに気づかないまま避けれずそのままお陀仏だと思うが、じゅんきは素早さが絶望的に遅いし経験は浅いがそれでも一応は冒険者である。こんな遅い攻撃くらいはギリギリだが避けれるのだ。
攻撃を避けた後、じゅんきは目の前のマッチョ軍人を煽った。そうしたら、「ポォー」と言わんばかりにまで顔を赤くした。軍人として、知らない奴かつ敵だと思ったやつを攻撃するのは悪くない。しかし、怒りっぽいのは良くないなとじゅんきは思った。
「てめぇ!ぶっ殺してやるぅ!」
「…おっと。危ない」
「逃げてんじゃねぇぞぉ!」
有耶無耶に拳を振るわれる。じゅんきはギリギリそれを避ける。また振るわれる。それをまたギリギリで避ける。と言った感じでじゅんきはマッチョ軍人を翻弄した。
他の軍人はぽけーっとそれを眺めていた。どうやらあいつらも頭を鍛えていないのか、指示待ち人間なのかは知らんが、戦場の場においてボケーっとするのは愚かなものだとじゅんきは思った。
そんなこんなで、いつのまにか、マッチョ軍人意外の軍人達は自分たちの目の前の服を破かれかけている女亜人と、体全体がぼろぼろの男亜人のことなんてどうでも良くなったかのようにじゅんきとマッチョ軍人の戦闘を見ていた。
「ちょこまかと逃げてんじゃねぇぞぉ!クソガキィ!」
「…お望みだとあらば、俺はもう逃げないさ。それよりも、お前らの方が逃げることをお勧めするぜ」
「何言ってんだこの野郎。俺たちが逃げる?ハッ!バカにするのもいい加減にしろ」
「今の俺は機嫌がいいからな。最終警告まで出しちゃう。逃げるなら、今だぜ」
「…舐めんなァァァァァ!」
そうしてマッチョマン!じゅんきに向かって来た!やはり、頭が悪いらしい。
「…愚か者が。やれ。ツインク」
その指示をじゅんきが言い放つと同時に、じゅんきたちの直ぐ隣の建物をバキバキと壊し、恐竜の頭とその頭とは全く異なる巨体を持つ化け物が「グォォォ!」と咆哮を上げながら飛び出して来た。
「はっ?なんだこの化けもn...ぐっ!?」
「ぶ、分隊長!」
「ツインク。それ喰ってもいいぞ。最近は飯をそこまでいいもんやれてなかったからな」
「え?く、喰う?ま、まて!話をしy...」
マッチョ軍人の言う言葉を無視して、喰ってもいいとじゅんきが言うと、嬉しさを全面に押し出したツインクがうきうきと手に掴んでいるマッチョマンを両手で持ち、雑巾を絞るかのようにし始めた。
バキゴリと人から絶対になってはいけない音を出しながら、マッチョマンは声を、悲鳴をあげることもなく絶命した。溢れ出てた血を飲みきった後に、ツインクは血を搾り取った人間だったものを丸呑みした。なかなかにエグい。
「ぶ、分隊長…」
「よ、よくも分隊長をぉぉぉ!この化け物めぇぇぇぇ!行くぞお前らァァァァァ!敵討ちやぁァァァァァ!」
そうして、1人の軍人の指示によって、半ばやけになってツインクに向かって行った。
「ほいっとな」
「ひでぶっ!?」
じゅんきはツインクに向かって走っている数人の軍人の内の1人の足を自身の足で引っ掛け、転ばせた。
「…てめぇ!なにしやがる!」
「…いやぁ。なんとなく?」
「ふざけやがって!クソガキ!捻り潰す!」
そうしてずっと立ち上がった1人の軍人はツインクからターゲットをじゅんきに変更し、ナイフを取り出してじゅんきに襲いかかった…が、じゅんきはギリギリでかわし、カウンターで軍人の顔に一発パンチをかました。
軍人の顔に攻撃力無限のじゅんきの攻撃が炸裂した!軍人の顔は「バキボキ」と鳴らしながら、みるみると崩壊していった。そして、そのままの勢いで背中を打ち付けるようにしてその場に仰向けで倒れた。
倒れた軍人はグチャリと鈍い音をたてて、体をビクビクと陸に上げたての魚のように跳ねさせている。その姿はもはや人間とは言い難い何かである。そんな目の前の奴に向かってじゅんきはとどめの一撃と言わんばかりに足で心臓目掛けて踏みを入れた。
心臓はこの攻撃によって押し潰れたのだろう。跳ねまくっていた軍人はあらゆるところから血を吹き出し、じゅんきに血をかけながら動くことをやめた。
「…うえぇ。血で濡れたぁ」
そう言いながら、じゅんきは血をぶっかけてきた動かなくなった人間の頭を蹴った。
この日。じゅんきは魔物ではなく、自分と同族である人間を殺した。そう、人殺しをした。しかもかなりエグい方法で。
じゅんきの元の世界では1人殺すだけでも重罪になる。それをやった。
そんなじゅんきは人を殺したことに対して罪悪感を抱くことはなく、なんとも思わなかった。
…目の前の亡骸を見ても思うのはこれを見てもなんとも思わない自分がますます人間ではなくなっているような、そんな感覚だった。
そんな感覚に包まれつつも、取れそうな範囲で着いた血を取りつつ、じゅんきはツインクの方を見た。
やはりと言うべきかツインクには傷一つなし。代わりに人間の腕、足などの体のパーツがツインクの周りに転がっていた。
編成人数は少なかったとは言えど、こう言う魔物を討伐したことのありそうな軍人集団でも倒すことのできず、むしろ餌となり、無惨に喰われていった軍人の亡骸と、亡骸付近で幸せそうな顔をしているツインクを見て、じゅんきは何回思ったのかもわからないくらいの「俺の造った合体獣強い」を実感するのだった。
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「速く父様のところへいくにゃ!」
「…父様って奴はどこにいるのかしら?」
「…奴って…まぁ今はいいにゃ。この先に居るはずにゃよ!」
ネコミミのショートヘアの女と、紫ロングの髪の女は現在、ガタルの言う父様の元へと向かっていた。
戦火に包まれ、崩壊したり、燃える建物。同族の亡骸、軍人の亡骸。見てるだけでも、ガタルは吐き気を催していた。
いますぐ止まって吐きたい。泣きたい。だけど、それは同時に自身の父親もこんなふうになっていないのかを確認したいという気持ちにも繋がっていく。
今止まれば、自分について来てくれている紫髪の女にも、自分を助けてくれたじゅんきにも迷惑がかかる。自分の都合で巻き込んだのに自分の都合で父親探しを辞めては行けないのだ。そう思い、意地になり、半泣きになりながらも、父親のいる場所へと向かった。
そして、遂に着いた。街の大きな広場、かつては皆の憩いの場として存在していた広場では帝国軍人と、ケモミミを生やした体つきはいいものの、あまり戦闘経験がないのか、いまにもやられそうになっている男の集団が、戦闘を繰り広げていた。
ガタル。全身全霊で走った。自分の愛する父親が目の前で殺されかけているのを阻止するために。
「お前の負けだ」
「…ここまでか」
「…ちょっとまったァァァァァにゃあ!」
「…ぐおおっ!?」
「父様!」
「ガタル!?な、なぜ帰って来た!!」
「父様も皆んなも置いて逃げるなんてできないにゃよ!」
「だ、だか。お前は俺らの希望なんだ…」
「父様。私がたった1人で帰って来たとでも思いにゃ?」
「え?」
「…痛てて。おい!このくそアマ!何してくれてんだよ!」
「ガタル!!後ろ!!」
「大丈夫にゃよ。父様」
「お、おおうなんだぁ!?」
ケモミミを生やした奴ら以外が現在。宙高くに上がっている。その原因はというともちろん彼女である。
「…感動の再会を邪魔するでないよ」
紫ロングの髪を揺らしながら、軍人を魔法によって浮かしているのは我らがじゅんきの恋人さんのシストリエスさんです。
シストリエスさんは親子の再会に水を差した軍人たちをどっかへ魔法でポイっとした。その後、ガタルの元へと向かった。
「ガタル。助かったよ」
「ふふん。私ももう子供じゃにゃいのよ?だけど、私がここまだくることができたのはこの人のおかげにゃ」
そうして、ガタルはシストリエスを指差した。
「おぉ。貴女様が!…私たちを救ってくださりありがとうございます」
「…任せて」
「…そ、そうだ!街だ!街へ行かないと!?すみません恩人様…」
そうして、ガタルの父親と、それに着いて行っている獣人の男たちが立ちあがろうとした。
「お父様!怪我が酷いから大人しくしてようにゃ」
屈強な体つきの男たちの体の所々が刃物で傷つけられたかのような感じで傷になってしまっている。
「だ、だがしかし!?」
「…安静にしてて」
「お、恩人様…」
「街なら、彼がなんとかしてくれるから」
みんなが黙る。聞こえてくるのは悲鳴とそして、聞こえてはいけないよう何かが砕ける鈍い音。ガタルとガタル父以外の獣人はみんな各々の耳を押さえた。仲間の悲鳴だと思ったのだろう。皆んな口々に「す、すまない皆」「ゆ、許してくれ」と言っている。
「…耳を塞がない。これは君たちの仲間の悲鳴じゃないから」
一番近くの獣人の耳を抑える手をぱぁっとさせ、外したシストリエスさん。獣人の皆さんはそれを見て、シストリエスの言葉を聞いて恐る恐る耳を塞ぐ手を外した。
「皆んな。ここで待っていよう」
そうして、シストリエスは皆んなに向けて、回復魔法をかけ始めたのだった。




