第30話 はぐれでない転生者達は〜そのさん〜
この世界での主要な乗り物は馬車だ。馬が木製の車を引くという乗り物だ。だが、そんな乗り物になる俺たちのことを時代遅れと言わんばかりの存在が俺たちの元へと現れた。
クラスメイトの王混だ。あの日、俺たちが異世界へと飛ばされる魔法陣から1人で逃げ出し、そのまま行方が分からなくなっていた奴。てっきりこの世界に連れてこられないまま、日本で楽な日常を送っているものだとばかり思っていた。
だが出会った、この世界で。白く輝くスポーツカーに乗ってあいつはやって来た。どうやってここへ来たのかは知らないが、勇者としてこの世界は舞い降りた俺たちとは違い、鎧もつけていないし、キラキラとした装飾品もない服。王混の服はいかにも貧しいなって感じだった。少しボロボロで、薄汚い色をしている。
そんな王混が冒険者というのをしつつ、今回俺たちの援護をすら為にここへ来たのだ。先生や愛川はあいつと再会できたのを嬉しそうにしていた。
だが、俺は違う。勇者としてこの世界に来た俺だが、奴のステータスを見て俺は心底不安になった。
ステータスが不明。文字化けしててわからない。団長さんや副団長さんはあいつのことをSランクの冒険者と言ってもてはやしていたが、俺は見た目や、訓練に参加していていないところ、そして、あいつの持つ気配を感じてみて、俺があいつがSランクの冒険者なのかと不思議に思った。
だってあいつから感じる気配は弱々しいものだったから。少し強い敵と出くわすだけで潰されてしまいそうな、そんな気配。そんな奴が団長達の言うSランク、そして俺たちを助けてくれる者かと心底不安だった。Sランクは、多分最高ランクとかなのだろう。団長達の嬉しそうな反応を見る限り。
この世界に来てまさしくチート能力とも言えるような職に技能を授かり、鍛錬などで身体能力が大幅な向上をさせ、その後にも色々な称号などを手に入れた俺たちとは違い、王混は強い力を授かったわけではないだろうと思わせるほどに何もないし、多少はマシだが日本にいた時と全く同じくらいの体つきだった。まぁ、髪とか目が変わったのは不思議だなと思ったが。
そして、そんな王混がSランクなら俺たちはそれ以上だろうと思った。だが、ダンジョン攻略の当日に王混が使っていた車は少し羨ましくは思ったが。
だが、あいつが弱いという考えは間違いだった。奴は間違いなく化け物だった。
俺たちは、遺跡のボスを倒した後。仲間である佐藤と剛力が勝手な行動をしたせいで、俺たちは無限ダンジョンの下層の下層へと転移させられてしまった。そこで出会ったのは俺たちと騎士団がまとめてかかっても倒せそうもない魔物マンティコア。
マンティコアによって騎士団の人が簡単に殺される現場を目の前で見た俺たちは、今まで目の前で人が死ぬ。しかも残酷に食い散らかされて。という出来事で完全にパニックとなり、手も足も出せなかった。そして、そんな中でなんとか対抗していた重戦士の大山も餌食にされかけたところでエーリエという魔族にマンティコアが倒されたことで大山の命は助かった。
しかし、エーリエもまた、俺たち、勇者チームの敵だった。仲間の死で動揺していたからか、チート能力の持ち主である俺たちの仲間が簡単に倒されていた。勿論、俺も。
俺は勇者なので、あいつらよりは強い。だからこそ、俺はあいつらの仲間にならないかとエーリエに言われた。
勿論、丁重にお断りした。が、それは間違いだったのかもしれない。俺は彼女の怒りを買ってしまったようだった。
俺はエーリエに吹き飛ばされ、壁に向かって一直線だった。
このままでは死ぬというのに、何もできない。俺は絶望した。そして「あぁ。ここで俺は壁と激突して死ぬんだな」と悟った。
がしかし、俺が死ぬことはなかった。壁にぶつかることなく、気づいたら地面にいた。そして、俺を助けたのは魔物。団長さん達が戦慄した空気をだしていたので、かなりランクの高い魔物なのだろう。
今度こそしまいなのだと思った。助けた後に殺すとか、悪趣味な魔物だなと思った。しかし、その魔物は俺たちを倒すことに興味はなかったらしく、逆に魔族に向かって攻撃を始めた。
俺には意味がわからなかった。魔物が俺を助けたのか?なぜ?と、俺の頭の中は真っ白になった。
俺たちの中で魔物は人類の敵だと思っていたからだ。魔物は人間を見たら襲いかかってくる。そう思っていたし教わったから。
そんな不思議なことを、体験した俺は、理解した。俺あのは魔物が誰かの指示で行動しているということに。
そして、魔物の体をよく見ると、魔法使いとも思わせる奴の左手、足は全く別物に、まるで鳥を思わせるかのような感じの奴が。そんな継ぎ接ぎしたような見た目の奴は正直ダンジョン攻略で出会った魔物達よりも不気味だった。
そんな魔物を使役し、指示を出している奴を俺は知ることとなる。指示をしていたのは他の誰でもない王混 じゅんき。彼だった。
あいつの気配は攻略前に会った時のような相変わらず弱々しい気配をしていたが、それがまた不気味に感じた。
王混はあんな化け物を従えることができるのか?と、あいつは別のベクトルで強い力を貰ったのだなと思った。俺たちのことを楽々に倒していたエーリエが王混に苦戦し、そして殺されかけている。
あの時の王混の目はやばかった。殺すことなんて躊躇わないと言った目。正直もう気絶したかった。
そんな目を向けられたエーリエという奴は死を感じたのか。恐怖で逃げ出したことで、この攻略は終わった。
あの後の帰り道、俺たちの中では地獄のような空気が流れていた。
そして、帰宅後は戦犯である佐藤と剛力は団長達、そして先生達にこっぴどく叱られた。叱られた後、生気のなくなった顔をしていたのはここだけの話である。
そして、俺たちが帰宅した後、俺は夕食などが済んだ後に王混とコンタクトを取った。理由は勿論、王混も俺たちのクラスメイトの一員なので、俺たち、勇者パーティに入ってくれとお願いしにいくということ。
しかし、あいつは断った。目的があるとかなんとかで。俺は粘ったが、王混もめげなかった。絶対に譲らんぞと言わんばかりに。そして、王混は、俺は逃げ出した奴だからいる場所はないと言った。
確かに、あいつは俺たちを助けることなく出ていった。しかし、それを抜きにしても。必要だと思ったから。過去は洗い流して、みんなを説得して、こいつの力も使って人々を助けようと思ったから。
だからこそ、嫌々みたいな態度を見て、俺はキレた。俺は王混の抱く思いや気持ちに日本にいた時代から気に食わなかったことがより一層気に食わなくなり、キレたまま出て行ったことで、王混をパーティに誘うことは失敗に終わった。
その後、早朝に王混は旅に出た。当たり前と言えば当たり前だろうなとは思うが、俺らに別れを告げずに。
今度会った時は俺たちはあいつを超える実力をつけて、認めさせてやろうと。態度が気に食わなかったがそれでもあいつがクラスメイトであることには変わらないし、今度会った時はまた誘おう。そう、俺は思った。
そうして、そう思って鍛錬を今まで以上に頑張って今日で一週間が経過した。以前よりも使える技も増え、今までの技ももっと上手に使いこなせるようになった。
「ふぅ」
「おつかれ、勇樹」
「沙羅か。お前もお疲れ様」
今日の稽古が終わり、俺は汗をタオルで拭きつつ、近くへとやって来た馬童沙羅と会話をしている。
あの後のクラスメイトの雰囲気は、何人かは1、2日くらいは恐怖でなにも手がつかないくらいの状況だったが、先生や愛川のおかげでみんな今は稽古も勉学も励んでいる。やはり、愛川は優しいなと思う。愛川も、魔法が使える奴らに今まで以上に回復魔法などを覚えさせていた。
そんな日常を過ごしている中、俺は汗を拭き終わり、部屋へと戻ろうとしていた。
「みんな!ちょっといいか!」
団長と、副団長、そしていくつかの兵士がそう言いつつ、俺たちを呼び止めた。
「みんなすまないな!…メンバーは揃ってるな!」
「団長?どうしたんですか?」
「実はな、俺達に新しい依頼が来たんだ。勿論、魔物討伐とかではないぞ」
そう言われて、俺たちはちょっとだけ身構えた。
「今回の依頼主は我らが王ミッシェル3世様からの依頼だ」
「み、ミッシェル王から?」
俺たちは顔を見つめ合った困惑した。
「そうだ!ミッシェル王は、明後日より、一週間後にヨルムンド帝国で開催されるパーティに出席する。今回お前らにはその警護をしてもらう。いいな!」
警護の依頼。魔物ではない。そして、ダンジョン攻略よりも安全そうな依頼だと知って俺たちは顔を再び見合わせて
「「「「はい!!!」」」」
と、元気のこもった返事をした。しかし、俺はこの時知らなかった。このパーティで一波乱が起きることに。




