第18話 俺はもう、戻らない
「…くっそ!あいつ、逃げやがった。…俺が速ければ、あいつを捕らえて、殺せたのに」
自分の動きの遅さをこれほどまで恨んだことはないだろう。…敵を逃がしてしまった悔しさを思いつつ、俺は団長の元へと向かう。団長は瑞姫の治癒によって回復していた。回復が即時に行え、回復できる体なのはいいことなのだと思う。俺に回復系は効かないから。と言っても、自己で回復はしていたが、恐らくだが、少し時間がかかってしまうからなと俺は思った。
「…すまない冒険者様よ。君のおかげで我らは助かった。感謝する」
「気にしなくていい。俺は契約を果たしただけ…それよりも、あいつを殺せなかった…」
「いや、魔族相手にここまでできるとは…やはり、貴方は凄いな…だが冒険者様よ、あの使役していた魔物はなんなのだ。…堕チシ呪イノ魔術師…のように見えたが…」
「あぁ。あれは俺の力によって造り出された存在だ」
「な、成程、幻影…みたいなやつか?」
「まぁ。そんなところだな」
全然違うけどな!実体は一応あるからな!
「はぁ。ほんと、冒険者様には驚かされることしかありません。SSSランク級の魔物を倒したと思ったら、今度はそれを幻影で使役して強化までして、挙句の果てには我らでも相手にできないくらい強い魔族相手に後一歩までやれるとは…ほんと、我々の元で共に戦ってほしいくらいですよ」
「いやー。共には無理だな。俺、やらなければいけないことも出来たしな」
「やらないといけないことか?」
「ああ。それについては今は言えないがな。混み合った事情というやつだ」
「な、なるほど」
「…話は変わるが、団長さんや」
「なんだ?」
「今俺の出した奴のことは、他言無用でお願いしたい」
「本当に急に変えるな。それは、どうしてだ?」
「堕チシ呪イノ魔術師はSSSランク級の魔物だったんだろう?倒され、人々が安心している中、俺がその魔物を改造して使役していると知られたら、俺も自由に街に入ることができなくなりそうで困ることが多くなる。今は冒険者だからな」
「…色々と気になることはたくさんありますが、今は聞かないでおきましょう。とりあえず、わかった。このことは他の人たちにも伝えるとするよ」
「助かるよ」
そういう会話をして、俺の仲間、リスフォースのことを黙ってもらうことを団長と約束し、俺たちは王の待つ城への帰路を歩むのだった。…てかこの時の団長はいつもよりも逞しい存在だと思った。伊達に団長をやってないんだなと感じた。
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「12の王か。…その力を求めて種族間で対立している…このままでは俺の目的、「異世界でまったりライフを過ごす」の達成は困難だな…六王の力を集めることと同時に12の王の力も集めてみるとするか」
ダンジョン攻略を終え、新たな目標についてを1人で、自分に言い聞かせるように言った。帰路は行きと比べてかなり静かだった。まぁ、元から強い力を得て、勇者一向ともてはやされ、そして更に鍛錬を積み挑んだのにも関わらず、佐藤と剛力達のせいで危険な目に遭ったが、それに対応できない自分たちの無力さ、そして、クラスでも立ち位置が良くなかった俺に助けられるはめになったこと。まぁ、俺もあいつを倒せなかったしな…次会った時は絶対殺す。恨みはないけど。なんか態度とか腹立つから。
トントン
そんなことを考えながら荷物をまとめていると、ドアがノックされた。俺はその戸を開けた。
「まったく。こんな夜遅くに誰?…って天野?」
「あぁ俺だ。天野だ。…お前に話があってここへ来た」
「話って?…最初に言っておくが、ここに残れという奴ならお断りだ」
「…っ!どうしてだ!王混お前は俺らのクラスの一員だろう!」
「だから?」
「だからってお前!…俺らは今回のダンジョン攻略でまだまだ自分たちには力が足りてないと感じたんだ。このままでは俺たちの目的である、この世界の人々を救うことも、元の世界に帰ることもできない!お前は俺たちよりも強い!討伐ランクとかは知らないが、すごい奴を使役してるんだ!だから、お前が加わって…」
「だからお断りだって」
「どうしてだよ!」
「俺はお前らがこの世界に召喚されようとした時、皆んなを助けずに我先に教室から逃げた奴だ。クラスからみれば最低な奴だ。まぁ、そんな俺も、この世界にくる運命からは逃げられなかったようだが。そして、俺はお前らとは違う場所に召喚され、なんやかんやあって今は冒険者だ。…そんな俺のことを良しと思わないやつもクラスには多い。正義感の強いお前だってそうだろう?だから、俺は俺で行動する。お前らと共に鍛錬したり、人々を助けようなんて思わない。なぜなら、俺は勇者でもないし、その一向に入ってる訳でもないから」
「っ!だけど王混!」
「…これ以上何を言ったって俺には無駄だ。俺にはやることができた。それでもこれ以上俺に何かを言うなら、俺はお前らのことを敵と認識する」
「…どうしてだよ!」
「だから言ってるだろ?俺はやることができたから、お前らと肩を並べて共に戦うつもりは毛頭ないって。…最終警告だ。これ以上俺に何か言うなら、お前らを敵と認識し、俺はお前らに危害を加える」
「っ!くそ!王混がそんなにも非情なやつとは思わなかった!…失望した!」
「勝手にしとけ」
そう言葉を吐き捨て、天野は帰っていった。
…まったく、しつこい奴だ。なんで嫌われ者に残って欲しいとか。新手の拷問でもしたいのかあいつ。
…俺はクラスというコミュニティに居たくもないし、居る資格もないっていうのに。あの時、俺は皆んなを置いて逃げたんだ。むかつくあいつらも、クラスでは良くしてくれたあいつらも、そして、お前のことも。全員が動けなくなっている中、なぜか動けた俺は1人でクラスを抜けて、転生を逃れた。
まぁ、転生というより、転送に近いのかな?そんなことはいいとして、その後にブラックによってこの世界に来さされたのだがな。
…そんな風に逃げ出した俺と、勇者となり、世界を魔族から救うことを目標にしたお前らと同じ世界でまた再会するとは非常に皮肉なものだな。
まぁでも、俺は俺でこの世界での新たな目標だって出来たし、それを達成できるかもしれない力も手に入った。そして何より異世界転生系の物語みたいな光景を現実で見れている!人間以外の種族がいて、魔物が居て…最高ではないか!そして、冒険者という異世界ならでは!って奴に俺はなっている!
そんな俺は今、クラスのギスギスとした雰囲気の中に身を置く必要も、誰かに縛られる事もなく、自由に、楽しく冒険ができるのだ!
「っと。用意は終わったな。それじゃ、明日も速いし、そろそろ寝るとしようか」
そんな理由から、改めて、俺はクラスには戻らないことを決心し、次なる目標、12の王を探すことために、少ない荷物を整理して、就寝するのだった。
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???
「…魔王様!すみません!」
「なんじゃ?」
「ハァハァ。すみません。私、勇者討伐できませんでした」
「…ほう。お主でも勝てんくらい、その勇者達は強いのか?」
「いえ、勇者達は弱いです。…しかし、…っ!?」
「しかし?なんじゃ?」
「勇者一向にも騎士団にも入っていないであろう見た目からして冒険者の奴が…強いのです。わ、私も、ハウンドを使役してなかったら、死んでいた…」
「そんなにも強いのか?」
「はい。奴は堕チシ呪イノ魔術師を改造した奴を使役していました。素早さが桁違いです」
「魔物の改造…か」
「しかも本人も強いでしょう」
「なるほど。警戒が必須じゃのう。報告ありがとう。お主も大変だったろう。ゆっくりと休むとよい」
「は、はい…ありがとう、ございます。それでは、し、失礼します」
「…ふふふ。待っていろよ。勇者達…いや、冒険者よ。12の王の1人である妾が、同胞の力を集めて、近いうちに魔王軍と共に、人類諸共消し飛ばしてやるぞよ」
なんか。最後は怪しい雰囲気に!?




