第五話 闇堕ち勇者とトイレの終わり
勇者と私たちの3人パーティ(頭数に入っているらしい)は魔王城の敷居を跨いだ。
あの時と比べて勇者も強くなってはいたが、
人々の心の闇を糧にした魔物はさらに凶悪になっており、勇者の行く手を阻んだ。
勇者が魔王のもとまでたどり着く頃には、全身傷だらけで体力も魔力も半分以下になっていた。
「くっくっく…よく来たな勇者よ。再び余の元までたどり着けたことを褒めてやる」
なんか魔王は本当に歓迎してくれてるし褒めてくれてるような感じだった。
一度滅んで丸くなったのだろうか。私たちうんこのように。
勇者は何も言わずただまっすぐに魔王を見据えていた。
私も奴もこの時点で分かっていた。今の勇者では魔王を倒せないと。
勇者は右の胸に私を、左の胸に奴を仕舞いこんだ。
雄っぱい…っていうか傍からみるとGカップくらいあるな…。
勇者って馬鹿なの?死ぬの?
まあ仕舞いこむのが股間じゃなかっただけよしとするか。
それでも勇者は果敢に戦った。
死にそうになると回復魔法で全快させまた死にそうになるまで戦い、以後エンドレス。
魔王の第二変身まで持っていけたのは十分善戦したと言える。
だが魔王はまだまだ余力を残しており切り札も持っているようだ。
勇者は命と魂を燃焼させて魔力に変えて戦い続けたが、それもやがて限界がくる。
魔王の攻撃の苛烈さより、勇者の体力・魔力の消耗が激しいことのほうがより過酷な状況だった。
やがて勇者が膝をついた。
「落ちぶれたものだな勇者よ」
魔王が哀れみにも似た目で勇者を見る。
これはまずい。勝てない。やられる。
勝敗が見えた時点で、一瞬だけ目線を合わせただけの私と奴の共通認識は一致した。
作戦はこうだ。
まず私が自爆呪文で魔王と相討ちを狙う。
うしのふんは蘇生呪文で勇者 (このときうんこまみれだ)を全快させ、私も蘇生させる。
ただちに教会に直行してうしのふんを蘇生させる。
これで完璧な作戦だ。これで今度こそ例外なくみんながしあわせになれる。
そのはずだった。
万感の思いを胸に自爆呪文を試みる私。
さらばだ勇者、この世界…そしてうしのふん。
へけけと笑うどこかの大金持ちのおぼっちゃまのうんこ並みに青く冷たく気高く輝き、
魔王の心臓を破壊しに掛かる。
私お砕けになる。ブルーレットお砕け(鉄板)
「しまった…!!」
魔王のあっけに取られた表情に満足しながら爆散する私。
「バフンちゃん…!」
大丈夫だ勇者。作戦はきっとうまくいく。
心臓を爆破された魔王は、口から濃い紫色の液体を吐きながら後ろに倒れこんだ。
これであとは作戦通りにいける…!
はずだった。
うしのふんもやはり青く輝きながら自分の命を犠牲にして勇者を全開させ私を蘇生させる。
しかし
「危ない危ない。第二の心臓を足の裏に移動させておいて正解だった」
「なん…だと?」
魔王の心臓がふたつあるというまさかの展開ですか。
あり得るとは思ってたけどそこまでは読めんかった…。
「足の裏は第二の心臓。魔王にとっては第三の心臓」
健康情報を提供してくれる魔王。そうだけどそうじゃない。
うしのふんの蘇生呪文は傷や体力は全快できるけど魔力まで回復することはできないらしく、
この後の展開は火を見るより明らかだった。
フン闘むなしく、勇者が再び膝をつくのには時間はかからなかった。
「くそっ…」
だいたいあってる。
「くっく。勇者よ。貴様は殺すには惜しい強さを持った人間だ。
何よりもお前の目には今、深い闇が宿っている。
どうだ?余と一緒に世界を掌握してみぬか?」
えええ。やばいやばい。これは勇者闇落ちするやつだ。
血塗られた伝説の剣と盾を構えながら覆面パンツ一丁の変態に成り下がってしまうのか。
それだったらムダ毛はお手入れしとけよ。男子もマナーを求められる時代だぞ。
「それも悪くないな…」
勇者はちょろかった。いや、もう我慢しなくていいと思うけども。
「では手始めに貴様を蔑ろにした人間を滅ぼすか。余の力で人間の蘇生は封じておいた」
えええ。うしのふん復活できないじゃん(そもそも人間というカウントなのか?)。
作戦失敗じゃん。
こうして勇者は元いた魔王とともに双璧の魔王となった。
闇堕ちした勇者は世界中に無数の雷を落とし、人間をひとり残らず焼いて殺害した。
故郷の人間、かつて仲間たち、その家族もひとり残らず、だ。
魔物たちは勇者の闇堕ちを歓迎し、勇者を丁重に扱い続けた。
私はというと、人間の中での風説どおり、不幸や損害をもたらす最凶最悪の呪物となった。
良くも悪くも想いや願いの力が強くなると私の力もより強くなるのだ。
私はこの世界に転生してきてしあわせだったのだろうか、そうじゃないのだろうか。それとも…。
魔物たちや魔王にすら奉られ、私はヒトのいなくなったこの世界で悠久の時を生きる…。
(完)
昨日と今日とで1万文字くらいを駆け抜けました。
もうしません。