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第四話 双つのふんと帰還の勇者、復活の魔王

今回の話が世界に広まるのははやく、勇者が帰郷してきた。


今回は『ノレーラ』という瞬間移動の呪文で遠方から一瞬にして帰ってきた。


なんでも国際的な諮問機関に諮って、

街の規模が一定以上であるとか重要な拠点であるとかと認定されると

ノレーラの移動先候補のひとつとして登録されるらしい。

やったじゃないか勇者。頑張って故郷を発展させた甲斐があったな。


ちなみにノレーラを使うにはMPとともに利用料金がいるとのことだ。

遠方であればあるほど瞬間移動には料金が高くなる。

この交通インフラは専門の魔術師たちが魔力を使って維持しているとのことなので、

彼らの給料に充てられるそうだ。


交通の便がよくなりこの街を訪れる人はさらに増えたのだが、

賑わいを増す街に勇者はまた少し寂しそうな顔をした。

おなかの便だけでなく交通の便もよくなる、

転じて旅の無事を祈願するご利益が『うんこ教』に追加された。教義がゆるい。おなかもゆるい。


勇者は帰郷するとすぐに神殿に向かい、相方うしのふんが盗まれたことを確認した。

警備や監視を付けなかったことよりも、

盗もうと考える者がいたこと自体を嘆かわしく思っていたみたいだった。

礼拝に来る人が掃けたときに5分ほど壁に向かった彼の肩は震えていた。

…男の人が泣いているのは初めて見た。


『うしのふんを盗んだ覆面男が西のほうに逃げていくのを見た。西に行くと鍾乳洞がある』

というすさまじいにおわせをする町人がいた。

におわせるのは私たちうんこだけでいい、大事に至るまでに複数人で追いかけるとかしろよクソが。

クソが言うのも何だが。

どうにもこの世界の人々には『自分ごと』の意識が薄い。


勇者は自宅に戻ると装備や持ち物を準備した。

うしのふんを助けに行くらしい。

この街から西に5kmほど山の中を進むと人が入れるほど大きな鍾乳洞があるそうだ。

『危ないからやめたほうがいい』、と街の人たちは言ったが、

『俺のお気にをこのまま放っておくわけにはいかない』と笑った。


待って待って。なんだその囚われたお姫様を助けに行くみたいな口ぶりは。

私の中に嫉妬心が芽生えるのを自覚できた。

『相方』認定していたが『奴』に降格だ。

この時初めて知ったのだが、勇者はうしのふんを『ウフンちゃん』と呼んでいる。

ウフンっすか…。うんこに転生してなお色仕掛けするとはやはり油断ならない。


だが、『バフンちゃんも一緒に行こう』と勇者は私を大事そうに懐にしまった。

おお。神殿の掃除の人ですら私と奴を持ち上げるときには分厚い皮の手袋を二重につけるのに、素手か。

こういうところが勇者を嫌いにはなりきれないところだ。天然のたらしだ。うんこたらしだ。

勇者は『5km圏内なんて自分の庭みたいなもん』と独りで奴の奪還に向かった。

実際のところ、山の中を進むのにも舗装された街路を歩くのとスピードがそう変わらない。

足腰の丈夫さもそうなのだが、傾斜を進むときのバランス感覚とか膝のクッションの使い方がうまい。


1時間ほどで鍾乳洞に到着した。

鍾乳洞の入り口には監視の下っ端がいたが、

勇者は軽くデコピンをして気絶させてしまった。強い。さすが勇者。


巨大な鍾乳洞はやはり盗賊たちのアジトになっていた。

20人ほどいる盗賊を勇者はあっという間に倒してしまった。

勇者の戦いを間近でみたのは久しぶりだ。

昔よりさらに剣をさばく技量は向上していた。それでも彼は少し息を上げていた。

勇者はウフンを救出し、脱出呪文を唱えると鍾乳洞の最奥から入口まで脱出した。


脱出呪文を使うのにはMPが要る。

これを不便に思った勇者は諮問機関に諮ってそのMP消費を0にした。

引き返す余力を残しておくのは探検の基本であると思うので、

引き返す勇気や判断力を削ぎ危機感が薄れる消費MP0というのは私個人としては賛成しかねるのだが、

それでもやっぱりお前すごいな。みんなの利便性を考えらえるのだから。


街に戻ると、勇者は私と奴を丁寧に祭壇に安置した。

街の人たちや街を訪れていた人たち諸手を挙げて喜び、宴を開いた。


あっ。なんかやばいぞこの展開は。

その予感はやはり的中し、私と奴のことで一喜一憂し

落胆したかと思えば喜ぶだけで何もしようとしない人々に勇者は愛想を尽かし始めていた。

その絶対的な心の隙間を魔王が突いた。ついに魔王が復活してしまったのだ。

勇者はすぐに再度魔王を討つことを決意した。

そしてかつて旅を共にした仲間の協力を得ようと各地を訪ねてまわった。


が、あれからもう20年近くになる。

かつての仲間の中には鬼籍に入った人もいたし、女王になるとか守るべき家族ができたからと、

立場上自由な行動に制限がある者ばかりになった。

この時ほど勇者がさみしそうな顔をしたことはなかった。


他の誰よりも頑張り続けてきた者がなぜ幸せにはなれず、いまだたった一人で重責を抱え続けるのか。

勇者は、私とウフンを携えると、独り魔王の城へ向かった。

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