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第二話 ふんと名もなき英雄


『勇者のうんこ教』の信者が増えてくると、

『教祖を立てたほうがいいのではないか』という話が持ち上がった。


『ご神体は勇者のうんこなのだから(厳密に言うと勇者のうんこではないが)、勇者が教祖になれば?』


と街の人々は何度も言ったが、勇者はこれを固辞し続けた。

崇め称えられたりするのは性に合わないらしい。


勇者が故郷の復興に取り掛かってから10年経った。

今やこの街も発展して、世界にその名が通用する街となった。

ちなみに街の名は『ウンポコスカ』(訳:少し傷跡がある街)となっている。

傷跡とは、もちろんかつて魔王に滅ぼされたという意味合いが込められている。

いいネーミングだと思う。たぶん。



しかし以前は魔王打倒に向けて一致団結していた世界も、

いざ平和になると領地や資源を巡っての戦争を繰り返すようになった。

魔物と戦っていた頃以上の死人が出る毎日。

ある意味では、魔王が居た頃のほうが平和ではなかったのか?なんとも皮肉なことである。


勇者は、


『人々が争うことを止めることも勇者の役目だから。たまには帰る』


と言ってまた独りで旅に出た。

勇者、チャラい奴かと思ってたけどかなり見直した。




きゅんっ…




私とうしのふんの中で新しい命が胎動を始めていた。



街の人たちは勇者の気持ちを汲み、

勇者がいつ戻ってきてもいいように街の発展と平和に勤め、

また自分たちが幸せでいることが何よりの手向けと考え、幸せに暮らした。



『勇者のうんこ教』については、教祖は置かずご神体だけを奉るものとして法人が設立された。

勇者が提唱した教義はざっくり言うとこうだ。



1.人やモノ、動物や自然をむやみに傷つけたり壊したりしないこと。平

 和的解決をしないと天誅がある。

 

2.困っている者を助けると幸せになれる。 

 その人自身が幸せになれなくてもその人の子孫や周りの人間が幸せになれる。


3.寄付は受け付けるが、寄付金額の最大はその人の年収の10%まで。

  寄付は法人の収入として公表し、また、一般会計として納税も行う。お金の流れは透明にする。




ああ…。

できれば元の世界の宗教にも特に3は実践してほしいもんだよ…。

統●教会とか創●学会に限らず、『自らに課税して』って言いだす宗教って

真っ当なところであってもないんだもの。

ホント勇者ちゃんとしてるなあ。




きゅんっ…




私と奴の中の新しい命が子宮(あるのか?)の内壁を蹴った。


それはそれとして、神殿に礼拝する人が増えると、それにあやかろうと商売するひとも増えた。

まずヒットしたのは私たちを摸した銘菓だ。

元の世界でのアズキに近い風味の茶色い豆を砂糖とともに煮て、

それを団子にした餡子の塊のようなものだ。

アンコのウンコというそういう話である。


うまのふんは粒あんタイプ、うしのふんはこしあんタイプと二手作られた。

糖分が多いので傷みにくく、長旅のおみやげにもしやすいともっぱら評判だった。

そのまま食べる人もいたし、パンに塗って食べる人もいた。

水を加えて煮てお汁粉のようにしたり、料理の調味料としても独特の風味が活きる優れものだった。

乾燥させて水分を抜くと、栄養豊富な長期保存食にもなり、

冒険のお供に携帯する人も多かった。

これらのレシピ本は出版されるたびに10万部を超えるヒットになった。



当然ではあるのだが、街を訪れる人が増えると、宿泊業も発展した。

宿屋は特にトイレの豪華さや清潔さを競った。

おなかの調子が悪い宿泊客には個別に薬草を煎じてあげるなど、独特の文化が発展した。

特に示し合わせたわけではなさそうなのに、不思議だ。


ところで、元の世界ではこんなフレーズの歌があった。



『トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるんやで~』



…あながち間違いでもなかった。

まあ、大切なのは一発屋で終わらないことではあるが。


一年と少し経って、勇者が帰郷する。

なんでも、とある二国間の戦争を終結させ和平交渉の締結まで持ち込んだらしい。

彼は少しやつれたような顔をしていて心配になったが、それでも私と奴はうんこなりに誇らしかった。


勇者のすごいところは、『勇者のうんこ教』の教義を広めた上で戦争を終結させたことだ。

マーケターとしてもビジネスマンとしても天才的と言えるだろう。

しかも彼自身は富も名誉も、何の見返りも求めず行動をしているのだからもっとすごい。




きゅんっ…




私と奴の予定日(産めるのか?)が早まった。

勇者め、罪な男よ。



勇者は1週間ほど滞在しただけでまた旅立った。

街の人たちは『もう十分だから故郷でゆっくり過ごしてはどうか』と言ったが、

勇者は穏やかに笑いながら『まだやることは山ほどある』と言った。


そしてこうも言った。


『もう自分は勇者ではなく、ただ一人の男だから

 次に帰ってくるまでに別の呼称を考えておいてほしい』と。



勇者よ…お前イケメンすぎんだろ…。もっと自分のしあわせを考えろぉ…。

ていうか、10年以上の付き合いなのに、勇者の本名、誰も知らない。

まさか名無しということはないだろうが…。

勇者に代わるなにか素敵な呼称だけでも付けてやりたいものだな。喋れないけど。




きゅんっ…




私と奴がいきむ体制に入った。

うんこが気張るとやはりうんこが出てくるのだろうか。それとも…。


後日談としては、体内に宿った…と思われていたものは、そもそも存在しなかった。

想像妊娠だったらしい。私と奴はふたりして恥ずかしくなったが、

生命(生命なのか?)とはどの世界でも摩訶不思議なものである…。


それにしてもとんでもない黒歴史を作ってしまったものだ。

水に流してしまいたい。




うんこだけに。



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