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 男の人の助言が功を奏し、近くの小さな病院で応急処置をしてもらった後、真夜中の閑散とした渋谷の大通りの歩道を歩きながら、私は男の人に感謝した。

「ありがとうございました。こんな近くに病院があったなんて……」

「大したケガじゃなくてよかったよ。ところで君は、どうしてあんな場所で電池を売ってたりしたんだい?」

 この問いに私は恥ずかしさを隠せずにはいられなかった。言いづらかったが、助けてくれたのもあって、黙っているのは申し訳ないので、私は簡潔に話した。

「父が電池を作る仕事をしてるんですが、単価が一本百円と高く、どこのお店も取引してくれません。そこで直接街の人に売れってことで、営業許可を取って、この場所で……」

「なるほどね、電池は一本百円なんだね」

「はい。でも、街の人も全然買ってくれなくて、家に帰っても父に怒られる毎日で、挙句の果てに、もう私を学校に行かせないって......」

 話しているうちに自分の目にも涙が浮かんできた。

「今時、単三電池一本で百円は高いなぁ」男の人は頷いた。全くその通りだ。街の人々が、私の電池の値段を知った時の気持ちを代弁してくれている。

「だけど、電池は僕たちの生活になくてはならない物だから、値段が高くても馬鹿にはできないと思う。今は、モバイルバッテリーとかもあるけど、懐中電灯やポケットラジオとか、電池で動く物も多いし、災害時とか、いざという時には役に立つと思うよ」

 電池のメリットは私も知っているが、その人もそれについて知ってくれていた。何だか、親近感を感じる。

「あっ、申し遅れたけど、僕の名前は佐野英一(さのえいいち)ね。初めましてだけど、宜しくね」

「は、はい。私は長沢優奈といいます。こちらこそ、宜しくお願いします」

 私が名乗ると、佐野さんはこう聞いた。

「歳はいくつなの?」

「十六歳です。高校一年生です」

「そうなんだ。道理で若くて可愛いわけだ。俺も高校二年生なんだ。その辺の高校に通ってる」

 同じ高校生なのか……。確かに佐野さんも若くてイケメンって感じの容姿をしている。勉強もスポーツもできそうで、女の子にモテていてもおかしくない。

「その電池、全部俺が買ってあげるよ」

「えっ? 本当?」

「全部買うと、二万円以上になっちゃうけど、お金的に大丈夫かな?」

 私は心配した。しかし、佐野さんは

「大丈夫だよ。俺の父さんは資産家だから、一日に二万円の消費なんて大したことはない」

 おそらく佐野君は、家がとんでもないお金持ちなんだなと思う。もはや、この場で対等に接すること自体、敷居の高さを感じる。でも、これで私は助かるんだ!

「ありがとうございます」

 二万円と引き換えに、籠の中の電池は全部佐野さんの手に渡った。そして、佐野さんは、こう言った。

「俺の家まで、ちょっと来てもらってもいいかな?」

続きは次節(4)にて。

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