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「馬鹿野郎! 何でこの程度なんだ!」
私の少なすぎる売り上げを知って、父は激しく怒鳴り付けた。いつものことだから慣れたが、理不尽さはどうやっても拭えない。
「来週までに目標の一万円いかなかったら、お前を家から追い出すからな!それまでちゃんとやれよ!」
言われなくても私はちゃんとやっている。しかし、ちゃんとやっていても、できることとできないことがある。今回できなかったのは、完全に私のせいだろうか……。
「平日の夜、土日に一日一万円行かないようじゃ、学校なんか行かせてる場合じゃねぇ。来週までに一日一万円以上売れなかったら、お前は学校を辞めて電池売りに専念しろ」
父のこの言葉は、今後の私に大いなる不安と絶望をもたらした。しかし、家庭の事情を考えると反論はできなかった。
次の夜も学校が終わった後、渋谷に直行した。夕方から夜にかけての渋谷は相変わらず人通りが多い。
「電池はいかがですかー、いざという時に役に立つ電池はいかがですかー」
いつもの通り、私の売る電池に興味を示す人は出ない。出てくれるはずもない。そのまま、意味のない販売をやっている時、急に「チリンチリン」という音が聞こえた。自転車のベルか――その時だった。
「どっけー」
「きゃーっ!」
歩道を凄まじいスピードで走っている自転車が私の体にぶつかりそうになったので、ぎりぎりで避けた瞬間、体勢を崩し、地面に倒れた。売り物の電池も籠から全部飛び出て、歩道上に広く散らばった。
「大丈夫ですか?」
付近を歩いていた若い高校生くらいの男の人が声を掛けてくれた。
「だ、大丈夫です……」
膝に痛みを感じながらも、辛うじて起き上がろうとした時、その人は言った。
「膝を擦り剥いてるじゃない。近くの病院に行って手当してもらった方がいいですよ」
道理で痛いと感じたわけだ。右膝に擦り傷ができ、血がぽたぼた垂れている。
「近くに病院があるから、そこに行こう。一緒に連れて行ってあげるよ」
その言葉に、私はドキッとした。
続きは次節(3)にて。