テーブルマナーを教えてあげます! ~おおばんぶるまい~
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女子高生のあなたは、学校行事のテーブルマナー講習で高級ホテルに来ていた。円形テーブル席の一つに、制服姿のあなたは座っている。
あなたの横では、小学生ぐらいの女の子が立っていた。
「テーブルマナーとは、長い食文化で育まれた、人々が食事をする際、敬意を持ってお互いに守る、基本的な決まりのことです。お作法は、国や文化によっても異なります」
その女の子は、あなたへと丁寧な口調で説明をする。
「椅子に座る際には、姿勢は綺麗にお願いします。また、お料理を頂く際は、出来るだけ音を立てないようにして下さいね」
女の子は茶色いワンピースを着用していて、長い黒髪は後ろで一本の三つ編みにまとめていた。
「本日は、フランス料理です。洋食器は持ち上げずにお料理を頂きます。ただし、取っ手がついたものは、持ち上げても大丈夫です。グラスは飲んだ後、元の場所に戻しましょう」
三つ編みの女の子は華やかな会場で、ひたすら喋り続ける。
「カトラリーとは、スプーン、フォーク、ナイフといった食器の総称です。ナイフとフォークは外側から順番にお使い下さい。ナイフは右手、フォークは左手で持ちましょう。お料理を切る際は、フォークでお料理を押さえ、ナイフを使って食べやすい大きさにし、それをフォークで刺し、お口に運びます」
あなたは奇妙なことに気づいた。
あなたのいるテーブル席には、今は他に誰も座っていない。ここに来た時は、確かに満席のはずだった。
しかも、周囲にはどういうわけか白い霧が発生していて、他の生徒は一切見当たらない。隣で喋っている女の子しか、他人を見つけられなかった。
「ナプキンは、お水が来た時か、ご注文が終わった時に広げましょう。二つ折りにして、折り目を自分に向け、太ももの上に置きます。なお、ナプキンやカトラリーを落とした際は、自分では拾わず、スタッフの方を呼んで下さいね」
そもそも、この女の子の説明が続くだけで、フランス料理どころか水も運ばれて来ていない。
「お食事中に長めの会話をする場合、お皿の上にナイフとフォークを、『ハの字』になるように置きましょう。ナイフの刃は内側に、フォークは裏側を上にします」
あなたは女の子の長話が続くこの状況を、だんだんと奇妙に思い始めていた。
「お食事の終了時には、ナイフとフォークを揃えて置きます。フォークは裏側を下にしましょう。ナプキンは綺麗に畳むとお料理に対して不満があったという意味になりますので、簡単に畳んで下さい。……ご説明は以上です」
女の子はあなたに一礼し、あなたから二歩分、後ろに下がった。
「では、これからが本番となります」
言い終えるなり、彼女は茶色いワンピースを脱ぎ捨てた。
下には、白い体操着と紺色のブルマを着ていた。半袖の体操着の裾は、大きめのブルマの内側に入れている。あなたから見てブルマの右上に、小さな長方形の白いタグがついていた。
ブルマ姿になった彼女はマナー違反を開始する。靴を脱いで白い靴下姿になり、テーブルの上に乗って立ったのだ。
「ブルマーッ!」
女の子は大声を上げる。
ブルマを見上げる格好のあなたは、驚くしかなかった。
「これより先は、『ブルマナー』となります。なお、テーブルマナーを侮辱する意図は、一切ありません」
急に説明口調になった後、彼女はあなたの目の前で座り、テーブル上で股をガバッと開く。
紺色ブルマのM字開脚。
「大盤振舞ッ!」
また叫んだ。
「……お顔を前にお出し下さい」
女の子の感情の起伏がすごい。
それはともかくとして、あなたは彼女に従ったら、両足で挟まれるんじゃないかと思った。
「早くして下さい」
拒否したかった。
「決まりを守れッ! ブルッマーッ!」
命令口調が飛んでくるのと同時にあなたの頭部は彼女に引っ張られ、文字通り頭を挟まれた。
「ブルブル・ブルブルブルマァ~ッ!」
あなたの頭は太ももに挟まれ、揺らされまくった。
身を守りたい一心から、あなたは両手で女の子の両足を退かそうと力いっぱい頑張った。
どうにか脱出出来て、すぐにその場から立ち退く。
「きゃあああああああっ!」
今度はあなたが叫んだ。テーブル上の女の子には、ブルマよりも上の部分がなかったからだった。
正確には、ブルマよりも上に、ちょうどいい大きさの正方形の板が、フタをするようにくっついている。
上半身がないブルマの女の子……と言って正しいのかさえも疑う、謎の存在。
その、女の子だったものが、テーブルの上でゆっくりと足を伸ばして立ち上がった。
下半身ブルマだけのそれは、動くことも出来るらしい。歩き始めるのを目にするなり、あなたは大急ぎでその場から逃げた。
白い霧が発生する中、記憶を頼りにして、会場の出入り口へと走る。あなたは取り乱していて、マナーなんか気にしてはいられなかった。
扉を見つける。重い扉の取っ手に力を込めて開き、すぐさま外に出る。
一刻も早く、このホテルから出なければと、通路をひたすら進んだ。
「きゃあっ!」
曲がり角から出て来た人とあなたはぶつかり、悲鳴を上げた。
「ごめんなさいっ、急いでてっ!」
あなたは即座に謝る。
あなたの目の前にいる人物は、高校生のあなたよりもずっと背が高い、二十代ぐらいの女性だった。
「お客様、どうかされましたか?」
黒髪を後ろで一つに束ねたこの女性は、ホテルの従業員のようで、全体的に黒い服を着ている。
「すみません出口はどこですかっ?」
「ご案内いたします」
女性は一礼し、先導を始めた。焦る気持ちを抑え、あなたは後に続いて歩く。
しばらく進んだ後、女性従業員は扉を開けて通過した。あなたもついて行くと、――異様な光景に出くわす。
「えっ?」
あなたがいたのは、高校の教室ぐらいの広さはある部屋の、中心だった。床は木目調で、床の縁が壁から離れていて、弧を描いている。
しかも向こうでは、十数人もの少女が、股を開いて座っていた。全員ブルマ体操着姿で、ブルマの色は様々だった。
『大盤振舞ッ!』
彼女達が声を重ねて叫んだ。明らかにあやしい集団に思えた。
あなたはやがて、ここが巨大な円形テーブルの上だと気づく。振り向いても、通って来た扉はそこになかった。
『ブルマのまま立ち上がるマーッ!』
直立した彼女達を見て、あなたは目を疑う。
なんと全員が、黒髪を三つ編みにした、あの体操着姿の女の子と同じ容姿だった。違うのは、ブルマの色や線の有無、タグの形状ぐらいであった。
「どーなってるんですかこれっ!」
あなたは横にいた女性従業員に早口で問いかけた。
「こういうことです」
黒いタイトスカートを着用していた彼女は、それを脱いだ。
下には、見覚えのある紺色ブルマを穿いていた。
あなたは嫌な予感がした。
女性の周囲に白い霧が発生する。
彼女の姿は隠され、霧が晴れた時には、小柄化していた。紺色ブルマを穿いた、黒髪三つ編みの女の子に変化している。
彼女は金属製らしき筒を抱えていた。
「テーブルバーナーッ!」
筒の先端から凄まじい威力の炎が伸びた。
「炙るマーッ!」
そう叫んで、向こうにいた深緑ブルマを着用するそっくりさんに炎を浴びせる。
「ぎゃあああああああ~ッ!」
深緑ブルマの女の子は、火だるまになって倒れた。
出来上がった焼死体に、蛍光グリーンのブルマの子と細い白の線が入った紺色ブルマの子が近づく。
それぞれが焼死体の片手を持って、引きずりながらテーブルの端に向かう。
そこから焼死体を落っことして処理した。
次に、えんじ色のブルマの子が、その場でブルマを脱いだ。
白一色の下着姿になったこの女の子は、両手でえんじ色のブルマを高く掲げた。
「被るマーッ!」」
隣の水色ブルマの子にえんじ色のブルマをかぶせた。
「前が見えないブルマーっ!」
えんじ色ブルマで顔を隠された水色ブルマの子は、末路が先ほどと同じだった。緑のブルマの子と白い太線入り青色ブルマの子に両手をつかまれて引きずられ、テーブルの端っこから落とされた。
「ノー・ブルマは処刑ブルマーッ!」
今度は黒いブルマの子が叫んだ。唯一ブルマを脱いでいた元えんじ色ブルマの子を、白い下着にしか見えない白ブルマの子とともに押さえつけ、テーブル外へと落とした。
深緑。水色。元えんじ色。三名のブルマ姿が犠牲になった。
この一連の光景を目の当たりにしたあなたは、恐怖した。
それ以上に、あなたは意味が分からなかった。
そんなあなたに、
「ただ今の実演のご説明をしてあげます、お姉さん」
最もあなたと接している、隣の紺色ブルマの子が言った。他の子と顔も髪形も声も同一の彼女は、すでにガスバーナーを持っていなかった。そのガスバーナーは、どこにもない。
「ブルマナーその一、ブルマから下着がはみ出ている者は、テーブルバーナーで炙ることにし、その後に、テーブルの上から落とします」
あなたは焼死体になった子がハミパン状態だったことには、気づかなかった。
「ブルマナーその二、頭にブルマをかぶらされた者は、テーブルの上から落とされます」
誰かにやられてそうなるのは、あまりにも理不尽だ。
「ブルマナーその三、こちらのテーブルの上でブルマを穿いていない者は、テーブルから落とされます」
つまり自分で脱ぐのは、自殺行為に等しいということ。
紺色ブルマの子が話している間に、幼いブルマ姿の集団があなたの周りを取り囲んでいた。
あなたは彼女達に拘束される。相手が小学生だとしても、数の暴力は強かった。両手両足を押さえつけられ、あなたは抵抗出来なくなっている。
「お姉さんは、ブルマではなくハーフパンツを穿いています。ブルマナー違反です」
拘束中のあなたは、手が空いていた残りの子達に紺色ハーフパンツを脱がされた。
ピンクのブルマの子が紺色のブルマを持って来る。代わりにそれを、あなたは強引に穿かされた。
このブルマ着用によって、あなたは身の危険は回避出来たのかと思った。これでテーブルから落とされることはないと、ほっとした。
「お姉さんは今、ブルマを着用しましたが、テーブルに着いた時点でブルマを穿いていなかったので、結局はブルマナー違反です」
「穿かせた意味ないじゃんッ!」
あなたが力いっぱい怒鳴った後に、説明係の紺色ブルマの子があなたのスカートを持ち上げた。
「お姉さんは穿かされた時に暴れていたせいで、きちんとブルマが穿けておらず、ハミパンをしています。やはりブルマナー違反です」
紺色ブルマの子はあなたのお尻……恐らくは下着がはみ出ている部分を見ながら、喋っていた。
あなたはブルマの子達に運ばれる。
どうなるのかは、あなたも想像がついた。
「お願いやめてぇ~ッ!」
あなたは抵抗をしたものの、無駄な抵抗で終わった。
テーブルの端っこに到着する。
「助けてッ!」
あなたは大声で懇願した。
「お静かにどうぞ。ですが、助けてあげます」
紺色ブルマの子はそう言ったものの、あなたはブルマの子達に放り投げられた。
あなたの体は暗闇の底に向かって、どんどん落下して行く――。
しかし、あなたは椅子に座っていた。
あのテーブル席だ。
隣の席には、同級生が座っている。
周囲を見回すと、多くの生徒達が席に着いていて、立っている講師らしき人の姿も確認した。
逆に、ブルマを穿いた女の子達はどこにもいなかった。
あなたは戻って来たのだ。テーブルマナー講習の会場に。
今までの謎の出来事は、幻だったのだろうか? あなたは確かめるため、テーブルの下を向いた。誰にも見つからないよう、スカートの裾をそっとめくった。
中にはブルマではなく、ハーフパンツを着用している。太ももに集中しても分かる感触で、ハーフパンツを着用しているのは分かっていた。ただ、視覚的な確証を得たかった。
今度こそ安心したあなたには、真っ当なテーブルマナー講座が待っていた。最初に紺色ブルマの子から聞いた知識は頭から飛んでいたけれど、それなりに上手くやれたと思うし、フランス料理は美味しいものもあった。
テーブルマナー講座は問題なく終了し、あなたは家に帰った。
「え、何これ……」
再びあなたが異変に気づいたのは、自室でカバンの中を見た時だ。最後に確認した時には存在しなかったはずの物が入っている。
細長い封筒。
それに紺色のブルマ。
封筒には、『謝礼』とだけ書いてあって、中には手紙とお札が入っていた。
あなたは手紙を読む。
『私のブルマナー講座を受講してくれたお礼に、お札を同封します。どうぞご遠慮なくお受け取り下さい。別に新たなブルマをお買い求めにならなくてもいいですよ。鞄の中のブルマは、お姉さんのものですから。いつかまた、ブルマナー講座をしましょうね、お姉さん。ブルマナーの会より』
次にあなたはお札を手に持って、確認をした。
現行の一万円札だ。偽造防止のための透かしが、ちゃんと入っている。
それを目にして、あなたは笑顔になった。
(終わり)
変なお話でした。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。