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30.お嬢様は己の未熟さを痛感する

翌日、すっかり正気を取り戻したメサティア公爵は玉座で豪快に笑い、アリステアとヒナに向かって言った。


「国を魔族に乗っ取られていたとは痛恨の極み! このワシを、そしてこのメサティア公国を救ってくれたこと、心から礼を言うぞ! ウィンズベリー伯爵令嬢アリステア! そして、その侍女ヒナよ!」


玉座で深々と頭を下げるメサティア公爵に、アリステアとヒナは「いえいえ」「まあ、それほどでもありますけど」と照れ笑いする。


「我がメサティア公国はどんな者でも身分に関わらず評価する開かれた国! しかし有能だと思って宰相に取り立てた流れ者が魔族だったとは! 出身地も何もよくわからぬ男だとは思っていたが、まさか人間でさえなかったとは露ほども思わなんだわ!」


ガハハと笑う公爵に、アリステアとヒナがあっけにとられる。

公爵の脇に控える娘ナタリーが苦笑いを浮かべて言う。


「父上は人を信じすぎるきらいがありますゆえ」


それを聞いてヒナとアリステアも「そ、それにしたって……」「無防備にもほどがありますわ……」と苦笑する。


「アリステア! ヒナ! お主らは我が国を救ってくれた英雄だ! 我が国の威信をかけてお主らをもてなそう! 今夜は宴だ! 盛大にやろうではないか!」


そう言って膝を打ち、メサティア公爵は立ち上がる。


「準備にも時間がかかる。それまでは我が国自慢の温泉にでも浸かって待っていてくれ! 宮殿にも王族用の露天風呂があるからな! 存分に堪能するが良い!」



**********



その後、アリステアは風呂で狙撃を受けた。


ふいに発動した自動防御(オートガード)で魔力の弾丸を防ぎ、アリステアは髪の毛をざわざわとうごめかせる。


「結界に触れた瞬間、この弾丸の情報が頭に流れ込んできましたわ。撃ったのはフィニーという吸血鬼。お母様に操られているようです。狙撃地点はここから距離2000メールト先にある塔の屋上」


そう言って湯から立ち上がり、あらわになったアリステアの肢体に釘付けになりながらもヒナは「あの一瞬で、そんなことまでわかったのですか……」と感嘆する。


そしてアリステアは頭髪を一気に伸ばす。


頭髪は凄まじい速度で遥か遠くにいたフィニーの体に届くと、抵抗する間もなく巻き付き引き寄せる。


「な、なんじゃ! 一体どうなっておるのじゃ!」


アリステアたちが浸かる湯の上で宙吊りにされたフィニーは、そう言ってジタバタともがく。


「わたくしを暗殺しようとしていたのですわよね?」


「そ、そうじゃが! 何か問題でもあるか!」


「いや、あるでしょう、それは」


ヒナが手刀に闘気を込めてそう言ったが、フィニーは意にも介さず余裕の笑みを浮かべる。


「こんなもので(わらわ)を捕えたと思ったら大間違いじゃぞ! こう見えて妾は誇り高き吸血鬼! この程度の拘束など、全身を霧に変えて抜け出して……む、霧に変わらんぞ? それどころか魔力も出ぬ! 一体どうしたのじゃ妾は!」


アリステアは長く伸びた自分の髪の毛を指さして言う。


「魔力の発動を阻害しているのですわ。結界の力で」


「な、なな、なんじゃと!」


「もうやりたい放題ですね、お嬢様……」


呆れるヒナの前で、フィニーは苦悶の表情を浮かべる。


「くっ、やはりお主もカサンドラと同じウィンズベリーの聖女だけはある……! 構わぬ。さっさと殺すが良い。自由を奪われて暗殺者などに身を落とし、その仕事も失敗してまで生き長らえたいとは思わん! さっさと殺せ!」


しかしアリステアは、フィニーを温泉の岩の上に下ろし、髪の毛の拘束を解く。


「な、なぜじゃ! なぜ妾を放すのじゃ!」


全身から魔力を燃え上がらせながらフィニーは身構える。

それを見てヒナも臨戦態勢に入るが、アリステアは微笑んで言った。


「あなたはもう自由ですわ、フィニー」


「……?」


「お母様にかけられた呪いを解き、奪われた生命力を与えたのです。これも、わたくしの結界の力ですわ」


アリステアの言葉に、フィニーは自分の体中を手で触り、最後には両手で頭を抱えてつぶやく。


「もう、暗殺はしなくて良いのか……? でも確かに、二度と暗殺などせんぞと思っても頭が痛くならんな……」


アリステアをじっと見つめてフィニーは言う。


「ほ、本当か……? 本当に妾は自由なのか……?」


「ええ。もう、したくもない殺生などする必要ありませんわ」


「あ、ありがとう! カサンドラの奴はお主のことを『結界も張れない未熟な聖女』などと言っておったが、お主こそ本物の聖女じゃな! 殺そうとした妾まで救ってくれるとは!」


フィニーは衣服だけを一瞬で霧に変えて裸になるとザブンと湯に飛び込み、アリステアに抱きつく。

そしてその反対側からヒナが。


「すごいです! すっかりご立派に成長されましたね! もう未熟な聖女なんかじゃありませんよ、お嬢様!」


そう言ってアリステアに抱きつくと、ヒナの胸にアリステアの顔が埋まる。

アリステアは自分の胸を手で抑えて戸惑いの表情を浮かべる。


「い、今まさに己の未熟さを痛感させられていますが……!」


アリステアに抱きついたヒナとフィニーは口々に言う。


「いえいえ! お嬢様はもう一人前の聖女ですよ!」

「そうじゃ! お主の結界はカサンドラ以上じゃ!」

「け、結界の話じゃありませんわッ!」


騒がしい3人の声が、宮殿の露天風呂に響きわたった。

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