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24.カサンドラへの要求 【追放者サイド:4】

ウィンズベリー伯爵家に、岩のような大男がやってきた。

部下たちを背後に従え、太く低くよく通る声で彼は言った。


「私はハルベニア王国の執政補佐官、ルーク・ヘンダーソン。あなたの結界で我々を害そうとしても無駄だということは最初に言っておこう」


カサンドラはルーク補佐官を睨みつけてつぶやく。


「また、あの錬金術師が作った偽物(ダミー)ということですか……」


「詳細はお答えしかねる」


「ふん、もとより回答は求めていません」


ソファに座るカサンドラの声が空気を冷たく震わせる。

ルーク補佐官はソファに座ることなく直立不動で口を開く。


「単刀直入に伝える。王家からの通達だ。ウィンズベリー伯爵カサンドラ、あなたは隠居してアリステア嬢に爵位を譲るように。期限は1ヶ月。あなたに拒否権はない」


カサンドラはうつむいて苦笑する。


「アリステアに? あんな小娘に領地経営ができるとでも?」


「質問に回答の義務はないが、決定事項は伝えておく。アリステア嬢が伯爵となれば王家より政務担当官が派遣される。実務はその者が行うことになる」


「なるほど。ウィンズベリー伯爵家を王家の傀儡(かいらい)にするということですね。ですが、アリステアの結界では王国の北部国境は守れませんよ。メサティア公国から魔族が流入することになります」


「北部守護は引き続きあなたに行ってもらうことになる」


「隠居したあとも……? どういうことですか……!」


ルーク補佐官は無表情のまま続ける。


「あなたには王家が用意した砦に移住してもらう。必要な能力を備えた監視官のもとで、適切な結界の運用を継続してもらうことになる。処刑されないだけ寛大な措置だろう」


そこまで言うとルーク補佐官は「通達は以上だ」と言って(きびす)を返す。

応接間の扉の向こうまで行くと、正確な動きで振り返る。


「繰り返す。爵位継承の期限は1ヶ月だ。遅延は許されない」


それだけ言い残すと、ルーク補佐官は部下を引き連れて応接間をあとにした。

彼らが去った応接間でカサンドラの歯ぎしりが響く。


少しの間を置いてから老執事ヴィクターが


「アリステア様を呼び戻す手配をいたしましょうか?」


と言うと、カサンドラはそれには応えず


「アリステアは今どこに」


とだけつぶやく。


「港町ロスベルグを出て、現在は奴隷商人ザルザが実権を握る荒廃した宿場町に滞在しているようです。そこを出た後はメサティア公国の首都メルドリアに向かうことになるはずです」


ヴィクターの報告を受けて、カサンドラはうつむき爪を噛む。


「ウィニカは王国南部の守護、イザベラとオリヴィアは学園寮でしたか……今から呼んでも間に合わないでしょうし、あの子たちがこの状況を知れば混乱に乗じて私の寝首をかこうとする懸念がありますね……であれば……」


カサンドラは顔を上げて虚空に向けてつぶやく。


「出てきなさい」


呼びかけを受けて、何もなかったはずの空間から少女が現れる。


少女の肌は血の気を感じられないほど白い。

その頬をなでるように、肩の上で切りそろえられた桃色の髪が柔らかに揺れている。金色の瞳が怪しげに輝いている。


肩をあらわにした黒のワンピース姿だが、背は低く痩せていて10歳を少し過ぎた程度にしか見えない幼い少女だ。


「フィニー、指令です。アリステアを殺してきなさい」


カサンドラが冷たくそう言うと、フィニーは無言でうなずき、再び姿を消した。


「カサンドラ様、どういうおつもりでございますか……!」


老執事ヴィクターが、珍しく怒気をはらんだ声でつぶやく。

カサンドラは「ふ」と鼻で笑う。


「アリステアには最初から死んでもらうつもりだったのです。メサティア公国のどこかで。放っておけば死ぬものと思っていましたが、意外としぶといので暗殺者を送り込んだということです」


「な、なぜアリステア様をそこまで……!」


「まともに結界も張れない聖女など当家には不要。ならば最善策は殺処分。そこで、どうせなら隣国で死んでもらうことにしたのです。曲がりなりにも『我がウィンズベリー伯爵家の娘』が死んだとなれば、調査を名目に私が乗り込むことができますからね。あとは難癖をつけつつ人道支援を建前にでもして隣国を私の結界の支配下に入れる。最初からそういう予定だったのですよ」


老執事ヴィクターは何も言わず、唇を噛みしめている。

カサンドラはうつむいてニヤリと笑う。


「アリステアを亡き者にしてメサティア公国を手中に収めれば王家も下手に手出しできなくなるはず……1ヶ月は短いですが何とかなるでしょう……!」

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