表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

2.お嬢様は冒険者ギルドのテストを受ける

アリステアとヒナの2人はメサティア公国の南部に広がる荒野を抜けて、最初の町エルディムに到着した。


「さて、この町ではお嬢様にやって頂くことがあります」


「わたくしに? 何をですの?」


「冒険者登録ですよ」


ヒナの言葉に、アリステアの目が輝く。


「冒険者登録ッ! わたくし、夢でしたのよ!」


「ウィンズベリー伯爵領ではカサンドラ様に禁止されて、できませんでしたからね。でも、聖女として成長するには冒険者の経験が一番有効なんですよ」


「冒険者の経験が……聖女としての成長に?」


「ええ。討伐クエストやダンジョン攻略なんかが特に……実戦経験がなければ、結界スキルの成長も頭打ちですからね」


「実戦経験……」


不安そうに眉をひそめるアリステアの小さな肩に、ヒナが手を置いて微笑みかける。


「大丈夫ですよ。私がついていますから」



**********



「新規の冒険者登録には、Cランク以上の冒険者からの推薦が必要です」


事務的にそう言った冒険者ギルドの受付の女性に、ヒナは銀色のプレートを渡した。


「こ、これは……Aランク冒険者の、ヒナ・ヒムラ様……! 大変失礼いたしました!」


恐縮する受付の女性を前に、アリステアが目を丸くする。


「え、Aランクだなんて、ヒナ、いつの間に……!」


「お嬢様のお世話係として働く合間に、私も必死で努力したんですよ。いついかなる時も、お嬢様をお守りできるように」


ヒナはそう言って胸を張り、腰のカタナに手をかけた。


侍女だというのにメイド服で片眼鏡(モノクル)をかけて腰にはカタナという妙ないでたちのヒナのことを、アリステアは『変わった服のセンスですわ』と思っていたが、カタナについてはこれで少し謎が解けた。


アリステアの知らないところで、ヒナは戦ってきたのだ。このカタナで。

どこで手に入れたのかはわからないが。



**********



「Aランク冒険者からの推薦ではあるが、一応テストをさせてもらうぞ」


クマのような巨体で立派なヒゲをたくわえたギルドマスターが、修練場でそう言った。


アリステアの冒険者登録にあたって、実戦形式でテストをするらしい。


砂の地面を踏みしめ、口を真一文字に結んで身を固くするアリステアに、ヒナが声をかける。


「そう緊張しないでください、お嬢様。まずは落ち着いて結界を張りましょう」


アリステアがうなずくと、ギルドマスターは目を見張る。


「ほう……結界か。聖女だというのは本当のようだな」


ギルドマスターは剣を後ろにひき、盾を前に構える。

警戒の姿勢だ。


「ウィンズベリーの聖女の結界はとてつもない大きさらしいからな……。発動した結界の威力で吹き飛ばされてはかなわん」


アリステアが全身に力を込めると、その細身の体が光を放つ。


ギルドマスターは「来るか……!」と身構える。

しかし結界が広がる様子はない。


ギルドマスターが首をかしげる。


修練場を一瞬の静寂が包む。


アリステアは全身に薄い光の膜をまとったまま、頬を赤らめてつぶやく。


「す、すみません……わたくしの結界、1センチしか広がらないのです……」


ギルドマスターは「そ、そうか……」と言って咳払いをする。


「ならば、その硬さを試させてもらおうか」


ギルドマスターは盾を前に構えたまま突進し、結界をまとったアリステアにシールドラッシュを見舞う。


――ガキィン!


「う、うおッ!」


鋼鉄製の盾が弾かれるが、アリステアは微動だにしていない。

反動でギルドマスターの盾は跳ね上がり、胴がガラ空きになっている。


「今ですよ! お嬢様!」


ヒナの声に反応し、アリステアが結界をまとった拳を構える。


「マズイ……ッ! この硬度のパンチを食らっては……!」


かわそうとするも、体勢が崩れたギルドマスターの回避は間に合わない。

その腹部にアリステアが渾身のパンチを放つ。


「やあッ!」


――ぷにん。


ギルドマスターのふくよかなおなかに、アリステアの小さな拳が弾かれる。


「えい! えいえい、えいッ!」


ぷにぷにぷに、ぷにん。


棒立ちになったギルドマスターの腹にパンチを繰り返すアリステアは、まるで駄々っ子のようだった。


「う~む。確かに拳は硬いんだが、威力がなぁ……」


アリステアの連打を受けながらもギルドマスターはそうつぶやいて、気まずそうに後頭部をかいた。


「むう……! ギルドマスター様のおなか、なんて強力な結界ですの……ッ!」


「いや、結界っていうか、ただのビールっ腹なんだが……」


「まさに柔よく剛を制す……! わたくしの拳がまったく通用しませんわ……!」


「まあ、金かかってるからなあ。ここまで腹を出すのにどれだけ飲んだことか……」


照れ笑いするギルドマスターの腹に、アリステアは必死でパンチを打ち続けた。

それを眺めながら、ヒナは腕組みしたまま苦笑した。


「……まあ、今のお嬢様の筋力じゃこんなもんでしょうね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ