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17.お嬢様は揉め事に割って入る

――――ザザザザザンッ!


街道沿いの木に擬態して襲いかかってきたトレントの群れを、アリステアは結界をまとった髪の毛の斬撃で次々と両断した。


トレントの枝葉に身を潜めていたデビルモンキーたちも、髪の毛の射撃で撃ち抜かれてドサドサと地面に落ちていく。


「素晴らしい! だいぶ成長しましたね、お嬢様!」


ヒナが拍手して褒め称える。

しかしアリステアは難しい顔をして首をひねっている。


「でも、これは聖女としての成長なのでしょうか?」


「だと思いますけど? 人を守るのに戦う力は必要ですし」


「……何だかどんどん『殺戮少女』になるような気が……」


そう言ってアリステアは「う~ん」と悩み始めた。


「人々をお守りできる結界の使い方って、もっと別の形があるのではないでしょうか……」



**********



魔法都市レギアムを出たアリステアとヒナは、港町ロスベルグにやってきた。

しかし町を囲む城壁の門のすぐ外で、何やら騒ぎが起きているようだった。


「頼む……! シェリーを、シェリーをもとに戻してくれ!」


「黙りなさい! 彼女の病気と信仰は無関係です!」


「違う! シェリーは、お前に騙されて……!」


「神父であるこの私を疑うとは何事ですか! 皆さん、やっておしまいなさい!」


すると神父にすがりついていた1人の男が、信者と思しき複数の男たちに袋叩きにされ始める。


「何をしているのです!」


アリステアがそう叫んで走り、騒ぎの中に割って入る。

地面に転がされ暴行を受けていた男を守るように、アリステアは両手を広げて立ちふさがる。

そのままアリステアはキッと神父を睨みつける。


「神父様ともあろうお方が暴力に訴えるなんて、一体どういうことですの!?」


「なんですか……? あなたは……!」


殺気立つ神父と信者たち。

信者たちは今にもアリステアに襲いかかろうと身構えている。


「こちらにおわすのはウィンズベリー伯爵家の四女にして聖女のアリステア様。そして、私はその侍女ヒナ。お嬢様に手出しする者は、この私が許しません」


そう言ってヒナが腰のカタナに手をかける。


「くっ……まあいいでしょう! 皆さん、引き上げますよ!」


神父は信者たちを引き連れて、町の中へと帰っていった。


「二度と私の教会に現れないことですね、ジェイコブ……!」


そんな捨て台詞を残して。



**********



「助けてくれて、ありがとう。僕はジェイコブ。ジェイコブ・ローランズだ。この町の港で荷運びの仕事をしている」


アリステアから受け取ったポーションを飲んで、ジェイコブはそう言った。

その場所はロスベルグの町の中心。

噴水のある広場のベンチにジェイコブが座り、その前にアリステアとヒナは立っている。


「一体、何がありましたの……?」


アリステアの質問に、ジェイコブはうつむき話し始める。


「僕には婚約者がいるんだ。名前はシェリー。彼女はもともと孤児で、最近まで町の酒場で働いてたんだ。僕たち2人でお金を貯めて、小さなカフェを出すことが夢でね。なのに」


そこでジェイコブは鼻をすすり、目の端の涙をぬぐう。


「1年ほど前からさっきの神父の、ミルラ教の教会に入り浸るようになって。もともと、敬虔なミルラ教徒ではあったんだけどね。でも、どんどんエスカレートしていって、ついには2人で貯めたお金を、お布施として払い込むようになってしまったんだ」


ヒナが眉をひそめて「どうしてそんなことに」とつぶやく。

ジェイコブはうつむいたまま左右に首を振る。


「わからない……。でも僕は、きっとあの神父がお布施と引き換えに信者に渡す『聖水』のせいじゃないかと思ってる」


ヒナとアリステアは顔を見合わせ「聖水?」と声をそろえる。


「聖水って、アンデッドを撃退する、あの聖水ですの?」


ジェイコブは先ほどよりさらに大きく首を振る。


「そういう効果はないらしいんだ。ただ、飲むと心が晴れて、女神を近くに感じられるようになるらしい。中には『聖水』を飲んで女神の啓示を得た信者もいるみたいだ」


ヒナが腕組みをして首をかしげる。


「それって、聖水っていうか魔薬ですよねぇ」


アリステアがきょとんとした顔で「魔薬?」と訊く。


「ええ。お嬢様は知らないと思いますが、私たちがいたウィンズベリー領の首都マレムでも一時期ちょっと出回ってたことがあるんですよ。使えば恍惚感や高揚感を得られますが依存性があって、使うほどに体が蝕まれていくそうです。なんでも魔族が住んでいる魔大陸からやってきた代物だとか」


ジェイコブが顔を上げる。


「僕もそうじゃないかと思ってる。僕が働く港でも、人知れず魔薬の取引が行われているという噂もある。魔大陸との貿易は禁止されているけど、ここロスベルグの港から船で北上すれば魔大陸だからね」


「確かに、このメサティア公国には魔族がけっこう出入りしていると言われてますからねえ」


「だから、お母様が結界で遮断しているわけですものね」


横道にそれた話題を、ジェイコブが戻す。


「とにかく、僕は『聖水』の正体が魔薬なんじゃないかと思って、あの教会に行って『聖水』を出せと要求したんだ。お布施を払えばよかったんだろうけど、もうそんなお金はなくって。そうしたら、女神の奇跡を疑うなって信者たちに囲まれてね。その結果が、あのザマさ……」


アリステアとヒナが「なるほど」と何度か小さくうなずく。


「それで、婚約者のシェリーさんは今どちらにいますの?」


ジェイコブが悲しげな表情で再びうなだれる。


「それが……」

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