表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

16. カサンドラへの糾弾 【追放者サイド:3】

「納得のいくご説明をお願いしたい、伯爵閣下」


ウィンズベリー伯爵家の応接間でそう言ったのは、エディントン商会の会長ブラフォードだった。


「何をです」


大きなソファに腰掛けたカサンドラが、尊大な態度で言った。


「これだけの重税を課しておきながら、なぜこの首都マレムで犯罪組織が野放しにされているのか。その上よりによってなぜアリステア様を追放されたのか」


ブラフォードに続いてそう追求したのはグレッグ・ブラザーズ銀行の頭取ルーファス・ケインズ。


「犯罪組織とアリステアに、何の関係が?」


そう言ってカサンドラが鼻で笑うと、


「ご存知ないのですか?」


と天文学者のアーサー・ラッセルが眉根を寄せた。


沈黙するカサンドラに、錬金術師リサ・トリーが前に出る。


「例の犯罪組織ユニオン・アビーを壊滅寸前にまで追い込んだ『銀色の悪魔』のことは知っていますか?」


カサンドラは興味なさそうに顔の前で手を振った。


「さあ……。そのような者がいることは聞いていますが」


「その正体については?」


「あなたはご存知なので? ブラフォード・エディントン殿」


水を向けられた商会会長ブラフォードが咳払いをして応える。


「もちろんです。今から2年前、ユニオン・アビーにさらわれた我が息子を助けてくれたのが、彼女ですからね」


「彼女? その『銀色の悪魔』とやらは、女性なのですか?」


「ええ。あなたも、よく知る女性ですよ」


「……心当たりがありませんね」


額に手を当て頭を振って、ブラフォードが言う。


「アリステア様ですよ」


カサンドラが目を丸くしてソファから腰を浮かす。


「アリステアが? どういうことなのです……ッ!」


ブラフォードは短いため息をついてから応える。


「アリステア様のもうひとつの人格が『銀色の悪魔』なんですよ。彼女はこの首都マレムを守るためたった1人でユニオン・アビーに立ち向かってきたんです」


「な……! まさか、まともに結界も張れないあの落ちこぼれが……?」


「あなたから見れば落ちこぼれでも、我々庶民にとっては紛れもなく英雄。この街の平和を陰ながら守ってきたのは、アリステア様だったんですよ」


カサンドラが頭を抱えて漏らす。


「そ、そんな……!」


銀行の頭取ルーファスが険しい表情で前に出る。


「そんなことも知らずにアリステア様を追放し、この街を再び危機に陥れたことについて、一体どう責任を取るおつもりなのですかと我々は言いたいのです、伯爵閣下」


有力者たちがそれに続いて畳みかける。


「アリステア様を呼び戻し、あなたは隠居してはいかがか」

「まだ若いがアリステア様はあなたよりよほど統治者の器だ」

「そうだ。結界を広げることばかり躍起になって、領民のことなど歯牙にもかけないあなたよりはよっぽどな」


カサンドラはしばらくうつむいてから「くくく……」と笑い声を漏らす。


「何が可笑しいのですか!」


天文学者アーサーが声を荒げる。

カサンドラはゆっくりとソファから立ち上がる。


「なぜ私が結界の拡張をこれほど重視するのか、考えたことはありますか?」


「それは……その、あなたの野心から」


「ふふ、そんな単純なわけがないでしょう」


カサンドラは応接間の絨毯を踏みしめ、ゆっくりと歩く。


「で、では一体何のために」


そう言った頭取ルーファスに、カサンドラは人差し指を立てて応える。


「それが、私の結界の特性だからですよ」


有力者たちはお互いに顔を見合わせる。


「私の結界は『支配の結界』。結界内部の生物や魔物から生命力を吸収し、さらに強度を上げながら巨大化できる結界です。この力で、私はこの国すべてを、いえ、この世界すべてを魔王軍から守って見せます」


「な……!」


有力者たちが後ずさりする。


「そして、生命力を吸い尽くされた者は、私の意のままに動く人形となる……!」


カサンドラは彼らに向かって指を突きつける。


「だから私にとって内政など、どうでも良いのですよ! 私の結界の中にいる者は善も悪もすべて養分! 私の結界の中で飼われているに過ぎないお前たちが反旗を翻したところで、吸い尽くして操ってやればそれでおしまいなのです!」


カサンドラの体からドス黒い霧のような魔力が解き放たれる。

その魔力の霧が有力者たちの体にまとわりつく。


「こ、これは……ッ!」


有力者たちの全身があっという間にミイラのようにシワシワになっていく。


が、その瞬間。


――――ばしゃあッ!


有力者たちの体は水風船のように割れると飛散して消えた。


「そ、そんなバカな……ッ!」


カサンドラが目を丸くする。


『すべて、聞かせてもらいましたよ』


応接間に女の声が響く。

先ほどまでそこにいた錬金術師のリサ・トリーの声だ。


「あ、あなたは……!」


『あなたが今まで話していた相手は私が作り出した偽物(ダミー)です。本物の私たちは、すでに王都に向かってウィンズベリー領を出たところ。伯爵閣下、あなたの言動はすべて王家に報告させて頂きます』


「な……!」


『ここに来る前にヒナから聞いておいてよかったですよ。彼女が秘密裏に調査してきたという、あなたの結界の特性をね。あなたはヒナの予想通りの行動をしてくれました』


思いがけない名前が出て、カサンドラは自分の耳を疑う。


「なぜ、あの侍女が……?」


クスクスと、リサ・トリーの笑い声が響く。


『私の本名は鳥居(トリー)梨沙(リサ)。ヒナと一緒に、この世界にやってきた転移者です。修学旅行先の京都で……と言ってもわからないでしょうけど』


うろたえるカサンドラに、リサ・トリーが続ける。


『そうそう、そういえばアリステア様が追放されたという情報を流したのも、ヒナなんですよ』


誰もいなくなった応接間に、カサンドラの声だけが響く。


「く、く……くそぉおおおおおおおッ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ