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13.お嬢様は心配される

アリステアとヒナは、ダンジョンの第七層にやってきた。


時刻は17時。

住民救助のタイムリミットまで、残り3時間。


罠を警戒しながらも、ヒナは足早に奥へと進んでいく。

アリステアも焦燥感を抱えながら、そのあとに続く。


2人に気付いて、前方にいた冒険者パーティーが振り返る。


「おいおい、さっきのDランクじゃないか……!」


その男はつい先ほど地上で出会ったAランク冒険者パーティーのリーダー、アルフレッドだった。


アルフレッドたちは先に広がる大空間を前に、通路で立ち往生しているようだ。


「この先には、何が?」


とヒナが尋ねると、アルフレッドが苦々しげにつぶやく。


「ヴェノムバット……上層にいたファントムバットなんかとは比べものにならないほど厄介なモンスターだ」


「厄介って、何がですの?」


「超音波だ。奴らは回避のためだけじゃなく、攻撃手段として超音波を使ってくる。くらったらマヒするだけじゃ済まない。クソ。こんなことなら、音波耐性の装備を持ってくるんだったな……!」


アリステアはヒナと顔を見合わせ、無言で同時にうなずく。


「頼みましたわよ、ヒナ!」


アリステアはそう言って大空間の中へと駆けていく。


「お、おい! 超音波の餌食だぞ!」


ヒナは深呼吸をしてから、ゆっくりと歩いていく。


「まあ、そこで見ていてください」


そう言われたアルフレッドたちは歯ぎしりをする。


「なんだと……!? たかがDランクのくせに……!」

「あの子、アタシらがAランクって知ってるはずよね……!」

「でもあんな奴らに、何もできるわけないわよ……!」


アリステアが大空間に駆け込むと、天井にぶらさがっていた巨大なコウモリたちが一斉に飛び立って攻撃を始めた。


爪や牙での攻撃はアリステアの結界が次々と弾いていく。

それを見てアルフレッドたちがささやきあう。


「け、結界……!? あいつ、聖女だったのか……!」

「それにしても、なんて硬さなの……!」

「でも、今に来るわよ……あいつらの超音波が……!」


女冒険者がそう言った直後に、ヴェノムバットの群れは空中からアリステアに向かって超音波を放つ。


しかしアリステアは何事もなかったかのように走り回る。


「な、なんで効かないのよ!」

「物理攻撃だけじゃなく、音波まで防ぐのか!?」

「あれじゃ絶対防御じゃない!」


アルフレッドたちが驚きの声を上げる。

その向こうでアリステアは髪の毛を振り回すが、素早いヴェノムバットたちにはヒットしない。


それでもめげず、アリステアは必死にコウモリを追い回す。


「しかしアイツ、防御はいいけど攻撃がなあ」

「そうそう、センスなさすぎ」

「てか遅すぎるんだよ。あれじゃ眠ってても避けられるぜ」

「やっぱりしょせんはDランクよねえ」


アルフレッドたちが嘲り笑う前でヒナは目を閉じ、精神を集中させていた。


アリステアがヴェノムバットの半数近くを空間の隅に追いやったところで、ヒナは小さくつぶやく。


「抜刀術、白虎――――天雷断空……!」


そして、ヒナが腰のカタナを目にもとまらぬ速さで振り抜く。


稲光のような激しい光とともに、空間の隅のヴェノムバットたちが一気に真っ二つになる。


「…………ッ!」


アルフレッドたちは目を丸くして絶句した。


アリステアは「さすがヒナですわ!」と言いながら、残りのヴェノムバットを追いかけ回す。

相変わらず髪の毛の斬撃は当たらない。


(わたくしもヒナのように……!)


もっと速く、もっと速く……とアリステアは髪の毛を振り回すが、ヒナのように斬撃が飛ぶようなことにはならない。


(一体どうすれば……!)


残りのヴェノムバットたちはヒナの斬撃から学習したのか、ひとかたまりにならずバラバラに宙を舞っている。


その中の数体が翼を広げて、超音波の攻撃を撃つ姿勢に入る。


ターゲットはアリステアではなく、ヒナ。

次の斬撃のために目を閉じて精神を集中させているヒナは見るからに無防備だ。


「ヒナ、お逃げくださ――――」


言いかけたところで、アリステアは思い直す。


(でもきっとヒナはわたくしを信頼して目を閉じているのですわ……!)


自分が、何とかしないと――――。

だがヒナのような熟練度のない自分がどうすれば斬撃を飛ばすことができるのか。


(いえ、違いますわ……! 飛ばすのは斬撃ではなく……!)


ヴェノムバットがヒナに向かって超音波を放とうとする。


「あ、危な――――!」


アルフレッドたちも立ち上がってヒナに警戒を促そうとする。


その瞬間。


残りのヴェノムバットたちが、空中で同時に動きを止め、糸が切れた人形のように地面へと落ちていった。


「な、何が起きたんだ……?」


アルフレッドがそうつぶやくと、アリステアが長い銀髪を手でさらりと払って言った。


「飛ばしたのですわ。結界をまとった、わたくしの髪の毛を」


それにしても疲れますわね、これ……と続けて、アリステアはその場にしゃがみ込んだ。


集中を解いたヒナが「お嬢様ッ!」と叫んでアリステアの方へ駆け寄る。


「か、髪の毛! 大丈夫ですかッ!?」


「え? 大丈夫ですわよ?」


「でもそんな、髪の毛を飛ばすなんて……!」


しゃがみ込むアリステアの美しい頭髪を、ヒナは確かめるようになでる。

アリステアはその行為の意味がわからず首をかしげる。


「そんなことして、ハゲちゃったらどうするんですか!」


きょとんとしてからアリステアは笑い出す。


「もう、ヒナは心配しすぎですわ」


ヒナは「で、ででで、でも……!」とうろたえる。


「何もお嬢様の大切な髪の毛を使わなくても、ギリギリ溜まった玄武と朱雀の連撃で倒せるはずだったんですから……!」


「あら、そうでしたの?」


「お嬢様はもっとご自分を大切にしてくださいよ……」


時刻は17時半。

住民救助のタイムリミットまで、あと2時間半。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼太郎の髪の毛針みたい、しかも一撃必殺、すげぇ
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