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王国都市防衛戦(3)

 痛みを無視した所で何が変わるか。

 先天的に痛みを感じない人間は、激痛、死に瀕するという恐怖を感じる事は無いのかもしれない。

 しかし、後天的に痛みを感じなくなった人間はどうだろうか。

 例えば、二十歳の人間が突発的に痛みを感じなくなったとしよう。彼は今まで痛みを感じることのある、ごく普通の人間だった。だが、それがなくなった。恐怖の対象が、痛みがなくなった事に対して、激痛の恐怖がすぐに無くなるわけではないだろう。

 それでも、いつかはその恐怖も薄れる。

 人間は慣れる生き物だ。その知恵を活かして学習する。自身の痛みが存在しないと改めて認識する冷静さを取り戻したら、彼はどうするのだろうか。


 前述した人間は、自身の意思に関係なく痛みがなくなったが、レイは違う。レイは意識的にそれを起こしてきた。

 最初は意識的だった。しかし、それは暴走し始めた。

 幻死。レイは幻死を幻視する。

 

 レイには才能と言う、天から恵まれたモノはなかった。剣を使っても凡庸。魔術は魔力を持っていながら、魔術行使が出来ない。知識は覚えるだけなら出来るが、それを活かしきる事が出来ない。

 何の才能も持たないレイだが、それでも武器を持っていた。

 それは想像力。それは目の良さ。

 凡人より優れ、持っている人間より劣る。そんな中途半端な武器を持っていた。

 だが、レイはそれを最大限に活かす事で自身の能力を高めてきた。観察し、想像する。そんな簡単な事を誰よりも鍛えてきた。レイにはそれしかなかった。

 

 九年前のあの日。守るべき彼女を奪われ、守るべき国を滅ぼした。世界に逆らうと決めた日だ。

 しかし、レイは弱かった。力を持たない人間だった。だから、自身を鍛えるために、世界を回った。

 ある時は何処かの傭兵団に属し、罪のない人間を虐殺した。泣いて、殺した。傭兵団のトップに逆らえなかった。必要悪だとしても、逆らう力が無かった。

 ある時は何処かの街で出会った少女を殺した。亜人の血が強く残った少女だった。救うべき知識が無かった。

 ある時は世話になった街を守れなかった。ギルドの依頼で遠出し、帰ってきたら、そこは魔物の住処になっていた。魔物を泣きながら、嗤いながら殺した。何も無くなっていた。


 レイが狂い始めたとしたらそこからだ。レイの中途半端に良い想像力が仇になった。

 彼は相手の動きをある程度予測する事が出来る。あくまである程度だ。右か左か。そのどちらかがわかる程度。

 だが、レイにはその程度では足りなかった。相手の動きを予測し、必勝する。そんな力が欲しかった。それが無理だと理解していながらも。

 そして、一つの答えに辿り着いた。

 相手の動きを予測するのではなく、自身の死を想像してしまえばよいのではないか。

 理解に苦しむ答えだが、彼にとって、それは至上のモノに思えた。

 相手の動きを想像する事は出来ない。それには限界がある。ならば、自身の死はどうだろうか。0.1秒後の未来の死を幻視すれば、それは、相手の動きを読んでいる事と同義ではないか。

そんな、狂った思想が生まれてしまった。


 最初は数パターンだった。相手の動きを見て、その先に待つ死を数パターン想像した。幸か不幸か、それが成功してしまった。

 敵はレイの想像通りの動きをした。そのままにしておけば、レイは死ぬ。だが、レイはその未来を知っていた。だから死ぬ事はなかった。


 それからは加速度的に膨張していった。

 数百、数千、数万、数億パターンの死を想像した。斬死、轢死、圧死、焼死、凍死、失血死、ショック死、果ては病死や自殺。ありとあらゆる死を想像した。敵はレイの想像した死の内のどれかの行動をとる事が多かった。

 レイの想像通りの動きをしたと言っても、レイの体がそれに反応できるわけではない。身を刻まれる事がほとんどだった。それでも、レイはそれを最高の武器として扱った。

 意識的に行っていたが、いつしか、幻死は無意識的に増加していった。暴走し始めた幻死に苦しむようになった。それは脳を犯し、神経を苛み、意識を剥離させた。

 そこで、一つの対処法。持ち腐れた魔力の運用。四段階に分け、無意識的に蠢く死を封じ込めた。意識的に魔力をカットする事で、段階的に幻死を現す。

 一段階目、痛覚遮断。その理由をレイはわかっていない。封じ込め、楔を解いたら、痛覚が無くなっていた。未だに幻死は増殖していっているのだろう。それはレイの体を蝕んでいる。既に、神経系を侵している。時間は多く残っていない。世界の居場所は分かっていない。


 常人がいきなり痛覚を失ったら、焦るだろう。自身の体の異常に不安を覚えるに違いない。

 しかし、レイは違った。彼は痛覚が無くなっていた事を歓迎した。痛みを感じないと言う事は、限界を超えて動く事が出来るという意味だ。歓迎こそすれ、不安を覚えるなど有り得るはずがなかった。

 一段階目はあくまで痛覚を遮断する事だけだ。幻死を幻視してはいない。

 魔族戦で魔術行使をしなかったのは、する暇を与えられなかった事と、足を折られた事。そして、もう一度封じ込めた後に来る幻痛に躊躇ったからだ。幻痛は、レイでも躊躇う程酷い。しかし、不安は覚えない。刹那的に死んでいるようなものだから。

 幻痛に喘ぎながらもレイは止まる事は無い。かつて、全てを奪っていった世界を撃つためには止まる気などない。





 血潮が飛び、悲鳴が溢れ、死が我が物顔で闊歩している戦場で、レイは一人嗤った。先程まで、程良く高揚し、冷静に処理していた頭が、イカれた思想に犯され始めたからだ。

 目の前で繰り広げられる惨状に興奮を覚えている事も否定は出来ない。レイは死を好んでしまった。死に取り憑かれてしまった。誰かの死を嫌悪しながらも、興奮を覚える自身に殺意が湧きながらも、楽しくて仕方がなかった。

 こんな所で死にたくはない。でも死ぬつもりはある。

 ベクトルの違い。生き延びる為に戦うのではなく、死ぬ事を前提として戦う。それは、もしかしたら、誰よりも強いという事なのかもしれない。


 

 疾走。レイは魔術師達の横を走りぬき、目の端で槍を突き出すビショップを捉え、目の前で魔物を切り殺したノックを払いのける。魔物の死骸と人間だったモノを踏みつけ、走って行く

 魔物の血か、兵士の血か。何かの返り血を浴び、笑みを浮かべ、全力で走って行く。凡人より速く、天才の前では遅い。鍛えた体で用いることの出来る最大限の力を使う。走り込んだ勢いのまま、魔物の群れに突っ込んでいく。所詮は低級な魔物。この程度の魔物に負け、殺されるレイではない。

 両手に持った太刀を振るう。クロスさせるように上から下に振り抜く。ハウンドドッグの胴を切り裂き、首を切断する。振り下げた太刀は、返す刀で振り上げる。強く足を踏み込み、目の前まで迫ったハウンドドッグのぎらつく牙を見ながら、動じることなく、対処をしていく。修羅の如き動きで魔物を蹴散らしていく。

 飛びかかってきた魔物を蹴り殺し、腕に噛みついてきた魔物は地面に叩き殺す。這う様に体を沈めたかと思えば、飛び跳ねるかの様に宙を舞う。地面にすれすれのレイの頭上を通り過ぎた魔物を見ることなく、後ろに振った刀で斬殺する。この程度の魔物なら、レイの想像力でも十分通用する。

 後ろに魔物の動く気配があれば、関節の可動領域を無視して、独楽のように回りながら剣を振るう。魔物に群がられ、体を食われながらも、動きを止めない。痛みは無い。恐怖もない。


 今、ここで魔物を蹴散らすということは、世界に逆らう事と一緒なのではないだろうか。奴が操っているとしたら、それは何と痛快な事なのだろうか。


 視界に入る、入らないを無視して、殺戮する。

 それでも、無骨な動き。ジークの様に華やかな動きではない。凡人の持てる力を駆使して、魔物を殺していく。魅せる動きは何一つない。血の滲むような努力が伺える。誰もが辿り着ける動きをする。常人では経験しないような事を基に、自身の体を動かして行く。


 しかし、それが、逆に兵士たちの目を惹き付けた。


 兵士の中には兵役中の者もいる。志願して王国騎士団に入った者もいる。様々な理由で戦っている者がいる。一人一人がどのような思いで戦っているかなど、本人にしかわからない。

 ただ一心に死にたくないという思いで戦っている者もいれば、王国都市にいる大切な誰かを守るために戦っている者もいるだろう。

 彼等は須らく凡人だ。レイと同じ持たざる者だ。

 英雄に憧れ、絶対に届かないと知った者達だ。

 彼等は憧れるだけで、自身を英雄に近づけようなどと思わなかったに違いない。所詮は凡人。努力をした所で、自身は英雄になれる事は無い。そう、決めつけてしまった者達だ。

 レイも自身の事をそう認識している。英雄にはなれない。器が違う。それでも、努力は怠らなかった。少しでも、あの三人に近付こうとした。


 ハウンドドッグ達は敵わないと悟ったのか、それとも早々に決着をつけようとしたのか、退いていく。休む間もなく、現れたのは人型の魔物だった。

 リザードマン。ワーウルフ。蠍と人とが混じり合った様な種族。様々な魔物がいる。

 手に武器を持ち、隊列を組んで、ゆっくりと進軍する。奴らにとって焦る必要はない。数も勝り、自力でも勝っている。

 兵士達は、絶望に染まった顔で立ち尽くす。

 敵うはずがない。

 ハウンドドッグの様な低級な魔物ですら大きな被害が出た。多くの人間が死んだ。

 中には後悔している者もいるかもしれない。

 もっと鍛錬を積んでいれば。

 王国騎士団に入らなければ。

 運が悪かった、と諦めている者もいるだろう。逃げ出す者すらいなかった。


 それでも、レイは止まらなかった。止まれなかった。止まりたく、なかった。

 レイにとって、王国都市の住民がどうなろうが関係ない。それは事実だ。良心の呵責に苦しむ事もないだろう。

 しかし、自身が騎士であった時、民を守る、と誓った事があったではないか。自分勝手な行動で守るべき国を、民を滅ぼした事があったではないか。

 十一年前に出会った彼女を、九年前に失った。彼女と共に過ごした時間は実質的には一年程度だ。それでも自身にとっては彼女が全てだった。

 そんな、愛する彼女にも誓った。国を、民を、君を守る、と。


 結局は何一つ守れなかったが。


 守るべき対象を挿げ替えていることは事実として認める。レイは事ここに至って自身に嘘をつく事はなかった。守れなかった、滅ぼしてしまった罪悪感を拭うために、王国を守ろうと戦っている。

 独善的な考えである。自身が楽になりたいから、戦っている。王国だから、守りたいという気持ちはない。王国がどうなろうが、滅びようがレイには関係ない。

 間違いだらけのレイが行う間違い。

 しかし、それは、本当に間違っているのだろうか。


 レイと魔物との距離はまだある。大きな怪我はしていない。所々怪我はしているが、大したものではない。

 レイは自身の体を調べながら、呼吸を整える。

 絶望的な状況だ。どんなに長く持っても十分が限界だろう。敵の数は多くない。精々五百といった所か。

 魔物の軍勢の大半がハウンドドッグだったが、レイにとってハウンドドッグは敵にはならない。まだ王国騎士団の弱小共の方が厄介だ。


 レイは太刀を握る手に力を入れる。ミノタウロスの角を溶け込ませた、レイの、バルドではない相棒。付き合いだけなら、バルドより長い。今は、信頼すべき相棒はこいつしかいない。

 だが、それで十分。魔物の粗末な武器を叩き斬るには十分過ぎる。


 レイは右足を引いて、走り出す体勢を取る。彼が最前線で粘りに粘れば、被害は少なくなるかもしれない。それは同時に、最も死に近いという事でもあるが。

 レイは躊躇いなく引いた右足を前に出す。勢いよく駆けだした右足につられるように左足が地面を蹴り上げる。太ももが胸にくっ付いてしまいそうに思えるほど足を上げ、手を大きく振って魔物に特攻して行く。レイの手に握られる太刀は、太陽の光を反射して青白い輝きを増している。手が振られる度に、乱反射した光が、兵士達の目を焼いた。

 笑みがこぼれた。口元は不自然に歪み、目はぎらつき、傍から見たら、狂人の様な笑みがこぼれていた。

 ハウンドドッグの群れに吶喊した時と変わらない勢いで、レイは魔物の群れに突っ込んだ。

 最前列にいたリザードマンが剣を振り上げた所で、その心臓に右手の太刀で心臓を突き刺した。硬い鱗と皮膚で覆われたリザードマンの体を何の抵抗もなく通過していく。

 すぐに太刀を引き抜き、次に備える。ワーウルフの拳撃がレイを襲う。レイは顔面すれすれのそれを冷静に見切る。この程度の速さ、ジークの足元にも及んでいない。左手の小太刀でワーウルフの腕を切断。痛みに悶える敵を斬殺。

 蠍と人間が混ざった様な魔物が、毒がてらてらと光る鋭い切先の尻尾をレイに突き刺してきた。レイは依然笑いながら、それを斬り落とす。この程度の突きなど、サーシャの剛槍に比べれば、児戯にも満たない。斬り落とした尻尾が地面に落ちる前に、左手の小太刀でそれを突き刺し、魔物の群れに向けて、振り投げる。小太刀から抜けた尻尾はワーウルフの体に刺さり、ワーウルフは絶命した。


 順調にいっているように見えていたレイの攻勢だが、それはすぐに勢いを失った。

 背後を取られないように敵を見て動くレイだが、如何せん数が多すぎる。背後に気を取られ、リザードマンの剣がレイの体をかする。痛みはない。傷を省みる事無く戦うが、レイの動きが目に見えて悪くなってきた。

 今では防戦一方。致命傷を受けないよう、背後を取られないよう、動きながらその身に傷を増やしていく。レイ自身は気付いていないが、実はレイは何度か致命傷とまでは言えないが、動きに支障が出る様な攻撃を貰っている。肩の辺りはリザードマンの剣に貫かれ、胸はワーウルフの爪に裂かれ、足は蠍の尻尾の振り払いで罅が入っている。

 兵士達の援護は無い。レイが漏らした魔物が、彼等の方に行っているのだろう。彼等にとって数は少なくとも、人型の魔物は脅威だ。

 しかし、レイはそれでいいと思っていた。

 無理をする必要はない。自身が生き延びる事だけを考えればいい。彼等は自分が守るべき対象だ。





 ワーウルフの一撃を腹に受け、レイは吹き飛ばされる。血を吐き、肋骨の何本かが折れているだろう。それでも痛みは感じない。吹き飛ばされるまま、転がって行く。レイが転がって行った先は、兵士達に襲いかかるリザードマンの真後ろだった。リザードマンに怯え、動くことすら出来ない兵士をリザードマンはゆっくりと間合いを詰め、剣を振り上げる。

 

 兵士は諦め、目を瞑る。しかし、兵士は一向に痛みが来ない事を不思議に思い目を開けた。そこには頭から両断されたリザードマンが地面にあり、全身が血に塗れ、体の所々に穴を開け、不自然に腫れあがった腕をしたレイが立っていた。

 レイは兵士の目を見ながら、口を開く。

 


「はは!諦めんなよ!すぐにサーシャが、ジークが…バルドが来てくれる!!ははは!大丈夫、大丈夫だ!あいつらは絶対に来る!何つっても英雄だからな!こういう場面では絶対に現れる!俺のピンチには絶対に駆けつける!だから、もう少しだけ耐え抜けよ!ここで生き残ったら、すげぇかっこいいだろ!?女にモテるぜ!王国から感謝状でも貰えるかもな!昇進とかあるかもな!自慢できるぜ!だから、お前ら……死なない程度で頑張れよ!!」

 


 レイはそう言って、また魔物の群れに走って行く。

 レイの言葉は不思議なほど、辺りに響いた。確かにレイは大声で話しかけたが、それでもこれ程響くものではないだろう。しかし、その言葉はこの場にいる兵士全ての胸に届いた。

 今、誰よりも死に近い男が、死なない程度に頑張れ、と言った。

 自分達と同じ凡人であるはずの男が、文字通り命を賭して戦っている。

 

 兵士たちの目から見ても、レイには才能があるとは思えないだろう。仮にも剣を持つ者達だ。それなりの訓練はしている。

 だからこそ、レイのそんな姿に、兵士たちは、憧れた。傷を負い、血を流し、死を目前としながら、怯むことなく対抗している。

 もしかしたら、自分でも届くかもしれない。凡人でもあそこまで強くなれるのかもしれない。


 凡人でも、英雄になれるのかもしれない。


 一人の兵士が吼えた。身を震わせ、魂から雄叫びを上げた。南門の兵士とは桁が違う。それこそ、自身の全てを掛けて吼えた。咆哮は伝染していく。今の今まで死に怯えていた兵士達が、燃え滾る血を抑えられずに吼え、叫んだ。必要最低限の言葉しか発しなかったビショップすら吼えている。

 咆哮は辺りに響き、地面を震わせる。

 魔物達は怯んだように動きを止めた。狩りの対象として見ていた存在が、急に勢い付いたから、戸惑ったのだろう。その隙を見て、ノックが前線まで走り、ワーウルフの首を斬り落とす。ノックは斬り落としたワーウルフの首を持ち上げながら、また吼えた。歯を剥き出し、動物の様に昂ぶりながら吼える。

 ノックに続いて、残りの兵士達も魔物の群れに突っ込んでいく。

 今の彼等にとって、死は怖くない。何故なら、彼等のすぐ側には英雄がいる。


 英雄の側で死ねるという事は、なんと光栄なことなのだろうか。英雄の事を悪く言っていた自分を罵倒したい気持ちだ。誰だ、彼を口だけと言ったのは。こんなにも強いではないか。こんなにも勇気に溢れているではないか。自分達を守るために、最前線で頑張っているではないか。こんな男の、どこがアホなのだ。

 

 この場にいる兵士は、誰もがこう思っているだろう。

 レイは彼等だから戦っている訳ではない。たまたま、彼等が対象になっただけだ。だから、彼等を守ろうと戦っている。


 そこに意味は無くとも、意思はある。


 レイは自身が楽になりたくて、今、戦って、彼等を守っている。そこには、確かに、守りたいという気持ちが存在している。

 なら、それでいいのではないか。

 レイ自身に意味などない。だけど、レイがした事に意味がある。良い意味も悪い意味も両方ある。レイのした事には、全てレイの意思が纏わりつく。嫌だと思いながらした事でも、最終的にはそれをやったのは自身の意思だ。

 だから、レイはこれでいいのではないか。間違いが、正しくないとは限らないだろう。


 兵士達は交戦前に伝えた、レイの言葉を守りながら、魔物に応戦している。槍兵が壁を作り、剣兵が間から斬りつけ、魔術師が魔術を放つ。拙いながらも連携を取りながら、戦っている。

 レイはそんな彼等の様子を見て、皮肉気に笑った。

 後ろで、自分が零した魔物に対応していれば、死ぬ危険性はこの状態より少ないだろう。それでも、前に出てきた。自分を守るように隊形を組んでいる。


 一人の槍兵が蠍の尻尾に刺され、絶命した。

 一人の剣兵がリザードマンの剣に裂かれ、絶命した。

 一人の魔術師がワーウルフの拳を食らい、絶命した。


 戦うべきは何なのか。

 レイは二段階目の楔を解く事を決意した。


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