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閑話 二人きりの休日

今回の話は非常に書きにくいものでした。

クオリティは低いかもしれません。

反省も後悔もしています。異論も認めます。

 老人の部屋で夜を越した後、レイ達は二日酔いだったため、リオネルの宿屋でもう一泊して、リヨンへ旅立った。ちなみにサーシャは老人の家での痴態を覚えてはいない。レイとしてはからかい倒したかったのだが、バルドが怖い顔で睨むので諦めた。

 レイは、意味はないだろうな、バルドは死ね、とぶつくさ文句をたらしながらも、リヨンへ向かったのである。

 リヨンへの道中、たまに通る行商にジークの似顔絵を見せて確認したが、どの行商も、知らない、と答えるばかりだった。大した情報は集まらなかったが、行商の一人が、興味深い事を言っていた。

 リヨンより少し北にある休憩所に一人の男が住みついているらしい。見た目はどこにでもいるような男だったらしいのだが、行商が、何故、こんな所に住んでいるのか尋ねたところ、少し変わった事を言っていたらしい。

 

 人を待っている。


 それだけ答えて、後はどの質問も答えなかったという。


 レイ達の旅の行程は何の問題もなく、約二週間でリヨンへ到着した。

 リヨンは、それほど栄えた街ではなかったのだが、リオネルの一件で、そのおこぼれをもらっていた。

 北の商業国、ジボワールからくる行商達は、リオネルを避け、少し手間は掛かるが、リヨンを中継地点としているのだ。リヨンでは行商達がひっきりなしに行きかい、サービス業に従事する人間に潤いを与えていた。

 レイ達はリヨンで一番安い宿屋で四人部屋をとることにした。




「つーわけで、ここでちょっと休憩を取る」

 レイは行商の男に聞いた男を訪ねる事に決めていた。しかし、ここまで、ろくに休みを取らずに来ていたのだ。例の男がその休憩所の男と何かしらの関係があるかはわからないが、急いで行く必要はないと感じていた。もし、関係していたら、最悪戦闘になるかもしれない。疲れていては力を出し切る事は難しいので、リヨンで二、三日休養を取る事に決めたのである。

「皆、好きに過ごせ。俺はその辺うろついてるから」

 レイはそれだけを言い残し、部屋を出て行った。



===============



 サーシャ=コールは緊張していた。

 自分がここまで意気地なしとは思っていなかった。自分は豪胆な人間である。サーシャは今までそう思っていたのだ。

 しかし、レイの指摘通り、自分が何も出来ない小娘だと悟った。王国騎士団長という重責に潰されてしまうほど、弱い人間ではなかったが、少し壁にぶつかって折れかける程度の人間だと知ってしまった。

 サーシャは自身を恵まれていると感じる事はなかった。槍にしても、今まで努力をしてここまでこれたのだ。しかし、レイを知り、自分が恵まれている事に気付いた。レイの才能のなさ。それはサーシャ自身がよく知っている。何度も模擬戦を行って、それを実証しているのだ。

 そこまで考えて、サーシャは思考が外れている事に気がついた。今は、レイがどうこうより大事な場面である。迷惑かもしれない、と考えながらも、共に居たい、という欲求が止められないのだ。相手を慮る気持ちを忘れたわけではないが、自身の欲望に逆らう事が出来ないのである。

 サーシャは自分にそんな浅ましい気持ちがある事に驚いていた。


 一緒にいたい。断られたらどうしよう。迷惑ではないのか。自分のような女といて楽しいはずがない。でも、一緒にいたい。

 ごちゃ混ぜになった感情がサーシャを苦しめる。苦しみながらも、共に笑い合えたら、と思うと、心の内側が妙に明るくなる。心臓が普段より強く脈打っているのも、何故だか心地いい。

 サーシャは初めての感情に戸惑いながらも決心する。

「バ、バルド殿」

 サーシャは、部屋のベッドに腰掛け、肩を揉んでいるバルドに声を掛けた。ちなみにこの部屋もベッドが二つだけである。

「何だ?」

 バルドの簡潔な言葉に、心臓が一際強く脈打つ。口の中が渇いて、次の言葉がなかなか出てこない。

 声を掛けたまま、黙ってしまったサーシャを不思議に思ったのか、バルドが声を掛ける。

「どうした、サーシャ。そんなとこに突っ立って」

 チャンスは今しかないのだ。

 サーシャは一度深呼吸する。そして思いきって自分の欲望をぶちまけてみた。

「い、一緒にっ、街を、その…見に行きたいのだが…」

 最後は尻すぼみに声が小さくなってしまった。

 サーシャは断頭台の上に立つような気持ちで、バルドの言葉を待つ。顔は俯き、まともにバルドの顔を見る事が出来ない。

「街を見たいのか。いいぜ。一緒に行こう」

 バルドの言葉を聞いて、サーシャは自分が見たこともないような顔で笑っている事に気付かなかった。






 サーシャとバルドは並んで、リヨンの街を歩いている。サーシャの格好はアンダーウェアと鎧といった、いつもの格好ではなく、空色のワンピースを着ている。これはサーシャが唯一自身で買ったものである。普段は服装に頓着しないサーシャが、一目見て欲しいと思ったのがこのワンピースなのだ。生地は薄いが、しっかりとしている。二の腕の辺りで止まっている袖は、可愛らしく刺繍が施してあり、そこがサーシャの琴線に触れたのだ。年中温暖なアルメリア国内では、このような薄着でも十分なのである。

 バルドはいつもの対魔術ローブを着ている。

「バ、バルド殿…。先程から視線を感じるのだが、この服は私には似合っていないのだろうか…」

 先程から、男女問わずサーシャにちらちらと視線を送ってくるのだ。サーシャは居心地の悪さを感じていた。

「似合ってるよ。サーシャは美人だから、見られているんだ」

「なっ、何を言っているのだっ」

 バルドの思いがけない言葉にサーシャは顔に全身の血液が集まってくるのを感じた。自分が美人だと思った事はない。

「前にも言ったけどな、サーシャは美人だよ。自覚してもいいと思うぞ」

「むぅ…。バルド殿がそう言うならばそうかもしれないが…」

 しかし、認める事はできない。認める事が出来なくても、バルドに美人と言われて、サーシャは何だか嬉しかった。

「そ、それにしても、ここは活気がある」

 このままこの話題を続けたら、凄い事を口走ってしまいそうなので、サーシャは話題を変えた。

「そうだな」

 リヨンの街は栄えていた。今、二人が歩いている所は商業区である。多くの人間が居て、笑っている。リオネルの街にはなかった光景だ。

「私は民の笑っている顔が好きだ」

 自分が守るべき存在。笑顔を見たら、自分のやっていることに誇りを持てる。

「民が幸せに過ごす姿を見たら、私を取り巻く様々な事がどうでもよくなる」

 サーシャは女で、しかも若輩の身で王国騎士団長になった。親の七光りもある。周囲に味方は少なかった。理解をしてくれる人間は更に少なかった。

 幼少の頃から槍ばかり振るっていたから、そのような人間を振り払う力はあった。しかし、結局は力で抑えつけただけである。自分に真の忠誠を持っているのは、副団長のウェインだけだろう。

 それだけでもよかった。

「辛いこともたくさんあった。公務に追われ、同年代の女性より遅れてる自覚もある」

 それでもよかった。サーシャには憧れた人間がいたから。

 魔術師バルド。噂に聞く冒険者。英雄の如き力を持ち、その性格は実直にして誠実。多くの人間が憧れる存在だ。自分もそのような人間になれたら。そう思ってやってきた。

「それでもいいのだ。この顔を見る事が出来る。それだけでいい」

 今、サーシャはバルドの隣を歩いている。そのことに現実感は持てなくとも、たまらなく嬉しかった。レイの存在も、煩わしいと思いながらも、好ましく感じていた。自分に対してあそこまで遠慮なく言ってくれる。そういう人間は今までいなかった。

「…すまない。こんな話をしても楽しくないだろう」

 だから、サーシャはこのような言葉をもらしてしまった。バルドにとっておもしろい話題ではないだろう。

「く、くく」

 しかし、バルドは抑えた笑い声を漏らす。

「どうしたのだ?」

 今、自分が言った事に笑える要素はあっただろうか。

「いや、レイと似たような事を言ってるなと思ってな。…二人は似てるよ」

「それは…いくらバルド殿でも怒るぞ」

 レイに似ている。あのふざけた男と自分の何処が似ているのか。

 サーシャは口元がひくつくのを感じた。

「ははっ、怒るなよ。褒めてるんだぜ」

「褒めてる?」

「ああ。俺はレイを尊敬してるからな。サーシャも尊敬に値するよ」

「わ、私のような女は尊敬するほどのものでは…」

 バルドがレイを尊敬している。サーシャはそのことについては薄々わかっていた。大抵の事はレイに一任し、決定に異を唱える事は少ない。

「サーシャはもっと自分を誇れ。お前はいい女だ」

「……」

 サーシャはバルドの言葉に返事を返す事が出来なかった。




 商業区を練り歩いていると、サーシャは露店の品物に目が奪われた。思わず立ち止まってしまう。

 精緻な銀細工。見たこともないような花の形をしたペンダント。サーシャはそのペンダントに心を奪われてしまった。

「サーシャ?」

 急に立ち止ったサーシャを不思議に思ったのだろう。バルドが声を掛けてきた。

「っ、いや、何でもない」

 自分には似合わない。これほどの一品なら、もっと相応しい女性がいるだろう。それに手持ちも少ない。金額を見ると到底買えるものではない。サーシャは後ろ髪を引かれながらも諦めることにした。

「何でもないって…ん?」

 バルドが露店に置かれたペンダントに目を向ける。

「店主、これをもらえるか」

 そして、そのままそのペンダントを買おうとする。

「バルド殿、何を…」

「いいから」

 サーシャの慌てた様子は無視して、バルドは店主と交渉する。

「はいよ。リーン金貨二枚だね」

「二枚は高すぎるだろう。一枚だ」

「お兄さん。商売上手だね。リーン金貨一枚とベル銀貨五枚でどうだい?」

「一枚と二枚」

「あちゃー。お兄さん、ホント上手。わかった、わかった。それでいい」

 サーシャは隣でバルドの交渉を見ていた。リーン金貨一枚は一般人の月収の三分の一程の価値がある。ベル銀貨は十枚でリーン金貨一枚分の価値がある。サーシャは手持ちのお金はリーン金貨一枚だけだったので、買う事が出来なかったのだ。

「これが欲しかったんだろ?」

 そう言ってバルドはサーシャにペンダントを手渡す。

「いや、でも…こんな高価な物を……」

 確かに、サーシャはこのペンダントを欲しいと思ったが、バルドに買ってもらうというのは気を遣いすぎる。それにお金がないから、宿代をケチっているのだ。それなのに自分にこのような物を買ってしまっていいのか。

「いいんだよ。俺は金をあまり使わないからな。溜まる一方なんだ。これくらいプレゼントさせてくれ」

「しかし…」

「今日はいつもと違うサーシャを見せてくれたお礼という事で」

 バルドは普段見せないような意地の悪い笑顔で、サーシャの手にペンダントを握らせる。

「……ありがとう」

 バルドに握られた手が熱を持っている。

 バルドの笑顔がレイに似ていた事も気付かないくらい、サーシャは嬉しかった。普段見せないバルドの笑顔を見れた事に、胸が高鳴った。悪いと思いながらも、バルドからのプレゼントが嬉しくて仕方がなかった。

「レイには秘密にしろよ。俺が金を持ってる事は教えていない。たかるからな」

 バルドと秘密を共有することが、嬉しかった。自分とバルドしか知らないという事実に、胸が高鳴った。自分がバルドに認められているような気がして嬉しくて仕方がなかった

「もう、日も暮れてきた。そろそろ帰るか」

 サーシャはバルドの言葉に頷きを返す。

 未だにバルドに握られた手は熱を持っている。握るペンダントのひやりとした感覚との相違が心地よかった。


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