表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/45

いつかの話(1)

短め。

 レイが宿屋に戻ってきたのは日付も変わろうという深夜だった。

「今まで何処にいたんだ?」

 レイは起きてはいるだろうなとは思っていたが、案の定バルドは眠らずに待っていた。どこまでもレイのフォローを忘れないバルドである。

「その辺ぶらぶらして日課をこなしてた」

 レイはイラつきに任せて日課を行っていたので、その内容に意味のあるものではなかった。ただ憂さ晴らしをしたかっただけなのだ。

「そうか」

 バルドはレイが怒った理由を深くは追及してくる事はなかった。今までもこのようなことはよくあった。その度にバルドはレイが戻ってくるまでは眠らずに待ち、そのまま理由を聞かずに寝てしまう。

 バルドが横になろうとした所でレイはバルドに話しかけた。

「お前は一度も理由を聞かないよな」

 ただの一度も。

 そのことがレイは不思議だった。バルドはレイを叱責することもなく、ただ待つのみ、理由は聞かない。

「聞いたところで話してくれるのか?」

「まあ、ある程度はな」

 全てを話すことは出来ないけれど。

 バルドなら少しくらいは話してもいいかもしれない。


「昔の俺に少し似てるんだよな」

「昔の?」

「ああ。若かりし頃の俺だ」

「そう言えば、レイの昔話はほとんど聞いたことがないな」

「当たり前だ。意識して話そうとしなかったんだから」

 自分の過去など語る価値もない。しかし、語るべき時が来たら、その時は全てを話そう。それを聞いて、バルドはどう思うか。怒るだろうか。悲しむだろうか。

 レイはバルドに悪いことをしているとは思っていた。バルドを利用している。これからも自分のために利用することをやめるつもりはない。もし、自分のために協力してくれと頼んだら、バルドは力を貸してくれるだろう。

 今は腐れ縁すぎて何も言えないけれど、最後の最後のその時は―――

「昔の俺もああいう風に後悔した。守るべきものは守れず、ただ、ね。

 まあ、俺は行動に移したけど、それでも最善を尽くしたとは言えなかったな」

 何度もあった。

「その度に泣いたこともあった。あちらを立てればこちらが立たない。そんなことはざらにあったさ」

 世界は優しくできてはいない。

「だからといって、諦めることはなかったな。今度こそは、と思って動いて来た。それでも失敗は多かったけど」

 失敗ばかりだった。

「これからも諦めるつもりはない。だから後悔はしないようにしたんだ。最善を尽くして、それでも上手くいかなかったのなら、自分の力のなさを恨めばいい」

 後悔するということは、失敗したモノに対する冒涜だ。

「だから俺は強さを求めた。前を向いて。後ろを振り返らない程の。

 色んなものに手を出した。剣、槍、弓、斧、魔術、歌も絵も知識もありとあらゆるものを試してみた」

 その結果は、

「どれも才能はなかったけどな。二流の域を超えることは俺には無理だよ。どこまでも凡人だ」

 一流にはなれない。それがわかっただけだった。

「今でも自分の凡庸さに怒りが湧くよ。何か一つでも誰にも負けない武器が欲しかった。そうすれば、いつでも俺は目標に向かう」

 失敗するかもしれないけど。

「それで上手くいかなくてもしょうがない。自分の最善をぶつけて届かないのなら諦めることが出来る。その時は笑って諦めるさ」

 レイは笑いながら独白を終える。その笑顔は清々しいものだった。

 沈黙が部屋を支配する。サーシャとジークの寝息だけが聞こえる。バルドの表情は暗くて伺うことは出来ない。

 不意にバルドが口を開いた。

「やっぱりレイはすごいな」

「は、どこがだよ。俺はどうしようもないアホだぜ」

 昔と比べて随分と性格が変わった。

「俺はお前を尊敬している。初めて会った時もすごいと思ったが、今はそれ以上にすごいと思ってるよ。俺にレイ程の強さはない」

「何だ、嫌味か?俺はこの四人の中で一番弱いんだぞ」

「そういう意味じゃない。誰が何と言おうとお前は強い。誇っていいぜ」

 バルドは小声だが、意思の籠った口調で言う。暗くてその表情はわからないが、レイはバルドは笑っているだろうな、と思った。

「そうかい。お前がそう言うなら誇っていいのかもな」

 バルドがそこまで言うのなら。少しは自分を誇っていいのかもしれない。

「ああ。アホで、いつもふざけてて、口の悪くて、童貞のお前でも、自分に自信を持つくらいはいいだろ」

「てめぇ!ほとんど悪口じゃねぇか!後、童貞言うな!このハゲ野郎が!」

「うるさいぞ。サーシャとジークが起きる」

 こんな遣り取り、つい最近したばっかのような気がする。レイとバルドの関係はいつまでも変わらないのかもしれない。自分の秘密をばらしても、笑って許してくれるかもしれない。

「もう寝ようぜ。明日は聞き込みするんだろ?」

「ちっ。そうだな。もう寝るか」

 レイとしては誤魔化された気がしないでもないが、明日は本格的に聞き込みを始めなければならない。店主のような奴らばかりだろう。ストレスで頭皮にダメージを受けてしまうかもしれない。睡眠不足も頭皮には強大な敵だ。それに日課をこなして疲れてもいる。ならばもう寝てしまおう。

 レイは床に横になりながら瞼を閉じる。少し遅れてバルドも横になったようだ。

 バルドには感謝してもしきれない。自分はバルドに救われている。

 今は腐れ縁すぎて何も言えないけれど、最後の最後のその時は―――



 


 ありがとう、と心からの感謝を込めて言ってやろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ