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君には死んで欲しくない(2)

前話との切り方が中途半端になってしまいました。

修正の件で焦ってしまいました。


いずれ統合すると思いますが、今はこのまま投稿します。

 しかし、いくらレイがこの空気を好きだと思っていても締める所は締めなければならない。出来ればもう少しふざけていたかったが、それはただの甘えである。

「サーシャ」

「…?何だ。急に真面目な顔して」

 サーシャもレイの切り替えに戸惑っているようだった。

「やばくなったら、すぐに逃げろよ」

 サーシャを連れていくにしても、勝てないと判断したら即座にサーシャは逃がすつもりである。これはレイの最低限の譲歩だった。

「何故だ。その男は危険人物だ。そのような男を前にして逃げるわけにはいかない」

 レイの最低限の譲歩を突っぱねるサーシャ。

 レイはこう来るとわかっていたので淀みなくサーシャに告げる。

「お前を連れていくんだからこれくらいは約束しろ。前にも言っただろ。お前は王国に必要な人間だ」

 絶対に死なすつもりはない。

「俺やバルドやジークは死んでも、王国には何の痛手もない。けどお前は違うだろ」

 レイやバルドは有能な冒険者ではあるが、王国にとって、何かしらの益を生むことはほとんどない。ジークに至っては害悪でもある。

 それに、レイには家族がいないのだ。だから悲しむ人間は誰もいない。バルドには体を悪くした母親がいるが、バルドが冒険者になることは織り込み済みである。バルドが死んだら悲しむかもしれないが、そこは覚悟しているはずだ。ジークがどうかは知らないが、魔神を追って、魔神信仰の街を襲うような奴である。復讐を胸に誓った男に家族がいるだろうか。それにジークは大事な人を魔神に奪われたと言っていた。ならば悲しむ人間はもういないだろう。

「いいか、この約束は絶対に守ってくれ。何なら土下座だってしてやる」

 本当に、心から―――

「わかった。わかったから土下座はいい。レイの土下座は何だか安っぽく見える」

 サーシャは苦笑いしながら言う。

 レイは安堵した。これでサーシャが死ぬこともない。もし自分達が負けたら、その時は王国騎士団を千人でも二千人でも連れて件の男を討伐させるように伝えておけばいいだろう。

 思えば、サーシャがレイに笑いかけたのはこれが初めてだった。





 そして話はリオネルの宿屋に戻る。

 レイは呆れてはいるが、嬉しくも感じていた。これでサーシャをいじり倒すことができるのだ。今からは聞き込みがあるので、おふざけはなしだが、サーシャをいじることはレイの中で決定事項である。

「文句を言うなよ。金がねぇんだから、二部屋もとれねぇっつーの」

 レイは長期の旅になるとは思ってなかったので、十分に資金を持ってきていなかったのだ。そもそも、レイは王立図書館に入り浸っていることが多い。王立図書館に入館するにはお金が掛かるのだ。その懐事情はただでさえ寂しいものである。レイはギルドに余分に掛かった費用を請求することに決めていた。

「だが、これでも私は女だぞ」

「わかってるよ。俺とバルドは床で寝るからサーシャはとジークはベッドで寝ていいよ」

 レイ達が借りた部屋は四人部屋ではあるが、ベッドが二つしかないのである。部屋の奥には簡素なダブルベッドが並んで二つ。窓は一つしかなく、日当たりも良好と言えるものでもない。入ってすぐ左に机が一つあり、四人部屋と言えども、質素なものである。

 四人部屋の中でも一番格安なものを選んだので仕方がないことだ。レイとバルドは屋根があればどこでも寝れる性質なので、サーシャとジークにベッドを譲った。

「む、そうか。いや、でも私はバルド殿なら、その…、い、一緒に寝ても…」

 サーシャは顔を真っ赤にしながらあり得ないことを言い放つ。レイは自分のこめかみがひくつくのを感じた。

「男女同衾なぞ神が許しても俺が許さん!男同士の同衾もだ!」

 当然である。レイの目の前でいちゃつくなど殺してくれと言っているようなものだ。レイは嫉妬しているわけではないが、男女のいちゃつきを見ると何故か殺意が湧いてくるのだった。

 男同士の同衾も気持ち悪くて見られたものではない。いくらジークがイケメンだと言っても、レイは同じ布団で寝る気にはならなかった。

 無論、バルドは論外である。下手したら、ハゲ菌なるものが感染って自分もハゲてしまうかもしれない。

「…俺は、床でも…構わない…」

 ジークが顔を布で覆いながら、ただでさえ聞きとりにくいのに、更に聞きとりにくくなった声で呟く。

 ジークが顔を布で覆っているのは、もちろん訳がある。リオネルでジークの顔をした者が虐殺を起こしたのだ。ジークがそのまま素顔を晒して行けば、面倒なことになることは必須である。ジークが普通にリオネルに入ろうとしたのでレイは慌てて引き止め、持ってきていた汗ふきようの布で顔をぐるぐる巻きにしたのである。

「何言ってんだ。んな細っこい体してんだから、ベッドで寝ろ。人の厚意を無駄にするもんじゃねぇぜ」

 防具を着けていても細かった体だったのだ。今は防具を外しているが、その細さは男としてどうかと思えるほどであった。

 レイは、何故こんなに細いのに自分より力強い剣をしているのか不思議でならなかった。

「……わかった…」

 ジークは納得した。その顔は隠れて見えないが、声の調子で言えば、完全に納得しているようには感じられなかった。


「で、まずはどうする?」

 部屋での決まり事を言い終えたころバルドが声を上げる。

「そうだな…。まずは宿屋のおっさんに話を聞くか」

 一番近いところから聞き込みを開始する。

「の前に、ジーク一回その布を取れ」

「…?…どうしてだ…?」

「いいから」

 レイの言葉にジークは顔に巻かれた布を取る。

「ペンは…。お、あるな。バルド、俺の道具袋から紙を取ってくれ」

 レイは机に備え付けられていたペンを取りながら、バルドに要求する。バルドは無言でレイの道具袋から紙を取り出し、レイに手渡す。

「何を?」

 レイがいざ書きだそうとした所でサーシャが疑問の声を上げた。レイが何をするかわからなかったのだろう。

「今から、ジークの似顔絵を描く」


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