プロローグ
処女作です。
誤字・脱字、変な表現、何か言いたいこと等がありましたらガンガン言ってください。
よろしくお願いします。
『arcadia』様の方にも投稿させて頂いております。
『arcadia』様に投稿させてもらっている方は内容の補足等をしておりますが、それもすぐに統一するつもりです。
少年と歌姫が出会ったのが運命ならば
引き裂かれるのもまた運命なのか
少年が歌姫を初めて見たのは、特になにもない、ありふれた日常を過ごしていた時だった。
少年は若き騎士見習いとして、夜、与えられた仕事である、城門の警備についていた。警備のなか、ふと、ありえないものを聞いた。
歌、だった。
少年は頭を振るう。ありえない、と。歌とはこれほどまでに心に訴えるものだったであろうか。少年にとって歌とは児戯のようなものだったのだ。
しかし、耳に入ってくる歌声は脳を経由して、全身の血管に麻薬でも打ち込んだような興奮を与える。
四肢は熱くほてり、臓腑は少年の体を引き絞るように脈動を始め、立っているのさえ辛く感じるようになった。脳はこの歌声を少しも聞き漏らすまいと、その回転速度をあげ、心はこの悪魔めいた引力を持つ、女神の歌声の持ち主を探せと命令する。少年は熱病にうかれされたかのように歌声の聞こえる方角へと歩いていった。
永遠とも言えるような時間歩いた気がするが、後々思い出してみると大した距離を歩いたわけではなかった。
まさしく魔法の如き歌声だった。
寂れた広場。もうずいぶんと前に、その役目を終えた噴水が中央にあるだけの、何もない、誰も寄り付かない所だった。誰も寄り付かないはずのソコに、人がいた。月明かりに照らされ、女がいた。
歌を、歌っていた。
少年の位置からは女はまだ遠く、丸みを帯びた肢体でかろうじて女であるとしか認識できない。しかも女は背を向けている。
女の顔を見てみたい。強烈な欲望が少年を襲った。まるで女自身に引力があるかのように、少年の体は女の元へと引かれていく。
しかし、あの歌声の持ち主の顔を見てしまってよいのだろうか。歌の善し悪しなどわからない、無骨な自分をここまで引き付けるのだ。化生の類ではないのか。魔力の篭った歌声で自分のような馬鹿な獲物を、舌なめずりして待っているのではないか。
―――それでも、構わない。
女の顔を見たい。ただそれだけを思い、女の顔が見えるように回り込む。
瞬間、全身に電流が流れたような気がした。頭の頂点から脊髄を通り、手の指先へ、足の指先へと駆け抜けていく。
女――いや、少女と言うべきだろう――は少年の思ったとおりに、人ではなかった。少なくとも少年には人だと思えなかった。整いすぎたその顔立ちは女神か天使か。少年の接近にも気付かず歌い続けている。気持ちよさそうに。幸せそうに。泣きそうに。
時間が止まる。意識が暗転する。世界が反転する。
気付いた時には辺りは静寂。
少女は少年に微笑んだ。