0ー7 アーツを確認してみよう
新年あけましておめでとうございます。
さっそく修正をやらかしました。
2023/01/08 話を分割しています。
鼬のドロップアイテムと戦闘に使った矢を回収しながら少し歩いて、小屋の手前へ辿り着いた。
ふとHPバーを眺めてみれば、先程削られた8割程のまま維持されている。このゲーム、戦闘終了直後にHPが回復しているとかそういうことは特に無いらしい。
「……HP回復のアイテムがないと継続戦闘は推奨しない、か」
恐らくそんな意図が込められたであろうその状況で、暫く過ごさねばならないようだった。
インベントリを見ても初期の所持品らしきものが大半で、ポーションが入っている訳でもないから、フィールドでの長期生存を目的としたいのなら何かしら探すか作るかしないとな……。
そのまま小屋の中に入ると、机から遠ざけた椅子に腰を下ろす。
この小屋の中はセーフティエリアというものであるらしく、エネミーが入ってくる事はないし、プレイヤーがダメージを受ける事もまたありえない。プレイヤーのセーブポイントも兼ねているようだ。
おまけにHPがほんのりじわじわ回復しつつある。探索行を切り上げるか安全を取りたい時には、一旦拠点に戻れということだろうか。
ヘルプさんによればそうした恩恵を齎しているのは、なんとびっくりリスポーンクリスタルだそうな。範囲に限界こそあれ、安全区域を作り出せる機能まであるのは嬉しい事だ。
しかしそんな情報を何処で得たのかと思えば、《鑑定》ではなくヘルプから得た情報にあった訳で。
リスポーンクリスタルのテキストは別段重要でもなんでもなかったかー、と思いつつも、今こうして有難がれているし問題はない。
……それはそれとして、掲示板は定期的に見るつもりだけれど。
さて。
「習得したアーツは、と……」
思考入力でメニューを呼び出してステータス画面を確認する。
レベルこそ上昇しているけれど、簡易ステータスの評価は依然として変わらない……か。当たり前のことだが、かなり長い目で見る必要がありそうだ。
そしてお目当て。
「アーツ」の追加ウィンドウを開いて、習得したものを精査する。
名称の右横にNEW!という印が付いているので分かりやすかったのが幸いだろう。予想よりも習得数が多くて驚いた。
とりあえず、見易く並べてしまおう。
・アクロバットスナイプ
地に足を付けず射撃する際、命中補正を与える。
・急所狙い
弱点部位に命中した時、ダメージに補正を与える。
・捨て身の一撃
現在のHPを九十九%減らし、その数値に応じて次の攻撃のダメージ倍率を引き上げる。
……レベルが一から二に上がっただけで三つ習得するのは多いんじゃないか?
うーん。少し疑問が残る。こちらとしては嬉しいけれども。
さておきアーツの内容としては、補正を得るものが主になっているな。
システム的なモーションアシストは苦手だからちょっといい傾向だ。
普段使いもしやすそうで、長く付き合っていく予感がする。ーーただし捨て身の一撃、お前はアウトな。いくら死にやすいからってそんな真似する訳ないじゃないかハハハ。
猪に轢かれた時のあれこれからは目を逸らしつつ、アーツの使い方についても改めてチェックを重ねる。
まず、アーツの使用はSPやMPをコストとして消費するのが大前提としてあるようだ。今覚えているものだと捨て身以外はSP消費だな。
その上で、起動の仕様について。
魔法だとかのアクティブな火力技については発声による発動しか出来ないが、自己バフなどは思考入力でも起動が可能であるーーと。ほうほう。
まあ要するにアレだ、特撮だとか某有名女児アニメで言う必殺技みたいなモノらしい。
確かに子供の頃はよく観ていたけれども、やる側となると恥ずかし気があるな……。
話が逸れた。
ともあれこれだけのアーツを習得出来ているのであれば、先程のように近寄ってぶっ刺すような真似をせずとも済むだろう。
……いやなんで本当にあんなことをしたのか。いくら当たらなかったからといって、我慢が足りないな。反省を百回はせねば。
それにそもそも遠距離から倒したくて選んだ職業なのだし、不用意に近距離へ近付いてはいけないーーという自戒を込めつつ、我が近接脳に再教育を施さなければならないと改めて決心した。忘れないうちにメモしておこう。
◇
それから十数分後。
まだもう少しログイン出来るし探索だな、なんて欲張ったのがいけなかったのか、今は霧の森の中で先程の鼬三体と相対している。
……一体でも辛かったのに、三体である。
「流石に物量差はよろしくないなぁ、っと」
拙いながらも真っ直ぐに射た矢が、地上を走っていた鼬に中る。連射を試みることで二発とも直撃した為か、かなり傷を負ったようだ。
まだ調子は良いが、それでも愚痴を言っていられる余裕はない。
先程見つけた鼬の弱点……回避行動による攻撃モーションのキャンセルを狙う為に、ひたすら撃ち続ける。
この戦法を通すなら鼬がこちらの攻撃を脅威と見定め続ける必要があるものの、奴等のHPは低いようでこちらの牽制でさえ避けざるを得ないらしい。
なるほどお互いに直撃はアウト。
ならば早々に決定打を与えたいところだけれど、一対三では数が足りない。
うっかり一匹逃せば、不可視の攻撃が飛んでくる。ちょうど今と同じように。
正面からなのがギリギリ幸いとしか言いようがないそれを、後方に下がることで避ける。
今はその気では無かったようだけれどーーこちらが一度体勢を崩してしまえば、今度はやたらと練度の高い連携で殺しにかかる腹づもりのようだ。殺意が篭っている。
「まさしく鎌鼬、ってことか」
たわ言を吐きながら、弦を引き絞る。
そしてバックステップと同時に、アクロバットスナイプを起動。一瞬の滞空時間を利用して、命中補正を高めた矢を偏差射撃の要領で射掛ける。
矢はそのまま真っ直ぐ飛んで、鼬の移動ルート上に割り込み……どうにか命中。一匹死んだ。
だが、そろそろキツくなってきた。
俺が撃ち放つ矢の速度は鼬が見てからの反応が余裕なレベルだ。今されたように分散するだけで簡単に手が足りなくなるし適当に撃っては矢が足りなくなる可能性が高い。今までは揃って移動していた癖に!
それに鼬の数が減ったということは、その分奴等が動き回るスペースも増える。
ーーほら出たぞ、遠距離に優しくない三次元機動だ……!
一応、対処法は連射がある。それならまだなんとか反応させずに殺せるだろうが、あくまで小手先の曲芸である為失敗の可能性を織り込んでおくしかない。
「どうしたものかな!」
そう言い放つと同時に、矢を射る。その瞬間、頭の真横を不可視のーー否、風の弾丸と思しきモノが擦り抜けた。
ちくしょうそこは斬撃じゃないのかよ!
こちらの弱点を把握しているかのようなその攻撃をどうにか躱しつつ、矢を番える。集中、集中。
しかしそれを見過ごす鼬ではないらしく、二体とも淡い緑のつむじ風を纏った尻尾を振り上げてそのまま斬りかかって来た。
全く、遠距離型に分が悪いと見れば近接戦か!
けれど生憎、そちらの方が得意なんだ……!
急遽インベントリから思考操作で斧を取り出し、弓柄と合わせて二本の尻尾と打ち合う。
つむじ風によるスリップダメージを受けてHPが残り五割程度までに落ち込んでいくものの、さしたる問題ではない。
斧と弓を無理矢理振るって二体とも引き剥がし、滞空したままの鼬へと斧を投擲してダメージ増加を図る。……残念、スカか。
ーーしかし時間は稼いだ。
そのまま背後へとステップ。二の矢を用意しながら矢を番え、アクロバットスナイプを起動してーー続け様連射する!
そうして放たれた一射目は鼬の頭蓋を容赦なく貫き、ポリゴンへと還す。
ならば、二射目は? 無論、中てる。ていうか中れ!
「穿て……!」
そう決め台詞のように呟いて、もう一体の鼬目掛けて最後の矢を射った。