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0ー4 状況把握

2023/01/08 話を分割しました。

 ーー意識が浮上する。モノクロの視界が明滅して定まらない。

 瞼もなにもない伽藍洞(がらんどう)の眼窩からのものであろうそれが、数秒ほど置いて落ち着いていく。

 鏡でもあれば今の自分がどうなっているのかすぐに分かっただろうが、そうはいかなかった。


 さて、状況把握に移ろう。

 まずは骨そのものとしか言いようがない手を視界の真ん中まで持ってきてみる。ついでにグーパーと握りこぶしを作ったりもしてみた。

 ……視界と関節の稼働は恐らく問題ないか。ただの骨の集まりではあるが、特に支障なく動けるらしい。どういう技術だろう。


 とりあえずはそう判断して、次は足の裏に集中する。特に爪先と踵。

 勿論こちらだって皮も神経もないのだがーー何故だか触覚があった。というか、現実よりも鮮明なようにさえ思える。ほんの少しの違いだけれど、地面の揺れとかは察知しやすいかもしれない。


 これらのあれこれはVRーー特にこのゲームならではの処置、ということだろう。

 人の脳はそこそこ柔軟ではあるが、あくまで二足歩行であったり五感が人並みなことが前提だ。人外すぎるアバターにはよっぽどのアタマをしていなければ適応できないのである。

 そうした厄介な部分をある程度カットできるように、出来るだけ感覚を人間に寄せつつ、魔物"っぽさ"の演出として色々と実験的なあれこれを盛り込んで意図的に工夫している……のかもしれない。

 テスターのアルバイトで四足歩行アバターとか翼持ちアバターを動かしたことがある身としては、とても楽でありがたいが。翼持ちは結局満足に動けなかったし。


 ……ここまで十割想像の考察なので、一旦切ろう。

 問題は今いる場所の景色だ。

 右を向いて、左を向いて、上下に頭を動かす。意外にも、衣服をちゃんと纏っているようだった。襤褸切れのような、とつくが。

 あちこち動く度に身体の各所からカタカタと音が鳴るものの、間違いなく骨が擦れたりしている音だろうから放っておく。鳴らさない手段はいつか探す。


 そして一通り見回して、思う。ーーふむ。見るからにボロ小屋だな。

 ランダムのスポーン地点としては間違いなく当たりの部類だろうけれど。

 小屋は誰かが生活していた痕跡こそあれ、ひたすらに建付けが悪くなっていてガタガタだった。


 目の前に置いてある机は所々虫に食われているし、小物の類は殆ど無い。彫刻刀らしきものの入ったペン立てだとか、何やらぺかぺかと青く光る謎のクリスタルを除いて、だが。

 更に机の横には、古ぼけた弓と伐採用だろう片手サイズの斧、そして矢が沢山入った矢筒が立て掛けてあった。後で持ってみるか。


 ここで椅子に座っていたことに気が付いたので、立ってみる事にする。ふらつくこともなく動けたのはいい事だろう。

 ……そこでふと考える。ここで暮らしていた"誰か"の死体。それはどこだ、と思ったもののーー現場の状況的に一つしかない。


 ()()。ここで死んだ森人族(エルフ)の白骨死体が、俺ーーノーラという歩き骸骨(スケルトン)になったのだ。……と、思う。

 

「……背景設定の作り込みがしっかりしてるのか、このゲーム」


 思わず声が出た。いつもより少し違和感があるのは、オンに設定したボイスエフェクトのせいか種族のせいか。お陰で声は作らなくてもいいかもしれないのが有難い。

 先程頭を動かした時と同じく、身動ぎをするだけでも微かに音が鳴る。とはいえ全身で動いていると気にならないな。

 運動がてら軽くラジオ体操でもしてみよう。


 数分後。

 土間とでも言うべき床の上をバタバタと忙しなく動きつつ、体操を終えた。

 先程確認したように、可動域とかは特に問題なく動く。

 息を吸ったり吐いたりなど、人間にあって全身骨格にはない臓器類を前提とした動作をしても実感がないのは……慣れるしかないな。


 一旦落ち着いたところで、ステータスを見てみる。

 ログイン前軽く読んでおいた説明書通りに、『メニュー』と脳内で唱えてメニュー画面を開く。『インベントリ』『フレンド』等といった単語の羅列が視界の端を舞う。

 これも大概不思議なシステムだけれど、人体の脳波が云々とかいうものらしい。思考操作・思考入力と言われる類のプレイヤースキルにあたるとのことだ。

 慣れればすぐにメニューは開けるし、ゲーム内掲示板でブラインドタッチより早く書き込めるとかなんとか。


 話を戻そう。メニュー画面から飛んでステータスを開く。

 ボロ家の中で開かれたウィンドウは、UIがやや近未来的なこともあってか想像の五倍くらいは似合わなかった。違和感を感じた運営はいなかったんだろうか……。後でお問い合わせでも送っておこう。

 そして漸く画面を見た訳だがーーとりあえずはこんなものだった。

 


 名前:ノーラ

 レベル:1

 種族:歩き骸骨(森人族素体)

 職業:弓使い

 HP:F-

 MP:E+

 SP:E

 STR:E

 DEX:D+

 AGI:E+

 END:F-

 INT:D-

 LUC:F


 スキル:

 《弓Lv1》《狙撃Lv1》《遠視Lv1》《危険察知Lv1》《看破Lv1》

 《伐採Lv1》《木工Lv1》《細工Lv1》《鑑定Lv1》《植物知識Lv1》


 種族スキル:歩き骸骨(森人族素体)

 《肉体的脆弱》《光属性弱点》《打撃属性弱点》

 《暗視》《状態異常無効》《ボウマスタリー》



 うむ。各種ステータスはよくあるやつだな。

 上から順に体力、精神力、スタミナ、筋力、器用、敏捷、耐久、知力、幸運といったところだろうか。

 しかし他人と比べる基準が今のところ無いので良く分からん! 後でヘルプは見る!


 ……勿論細々とした画面を開けばステータス毎の数値自体は表記されるのだが、ぶっちゃけそっちは比べるのが面倒なので放っておこう。細かい数字を見るのは好きだが、今のところは簡易ステータスで問題ない。


 視界の端に浮かんでいる三本のゲージにも今更気が付いたけれど、用途は分かるしスルーだ。

 下の方に追加でポップしたウィンドウには既に装備済みの武器等を示すスペースもあるがーーそちらも一旦保留でいいだろう。どうせ襤褸切れのような服とブーツしか装備していないし。


 気になったのは、スキル群である。

 種族スキルにあるものはレベルがなく、基本的なスキルとして選んだものはレベルがある。

 恐らくはその二つの枠のうちどちらに当て嵌まっているかの違いでしかないだろうけれど、その違いを確かめたくとも検証のしようがないので諦めるしかなかった。


 まあ、自分の検証は出来たし充分だと思おう。

 他に問題があるとすればーー机の上のクリスタルとか、弓だとかだろう。とりあえず《鑑定》してみたい。

 弓と斧を手に取って、机の上に置く。斧は金属を使っているのだから当然重いとして、弓もそれなりの重量だ。片手で持てて良かった。

 そして気持ち息を整えて、それぞれのアイテムに《鑑定》ーーと。脳裏で思考入力を働かせる。

 現れたステータスウィンドウは、こんなものだった。


初心(しょしん)の弓】

 弓術に長けた森人族が「初心を忘れぬように」と修繕を繰り返しながら手元に置いていた弓。

 耐久度が高く、素直に矢が飛び易い。加工すれば、驚くほど大きな弓にだってなるだろう。

 この弓を手にしたあなた。どうか、永く永くこの弓と共に在ってくださいね。


【古びた木こりの斧】

 長く使われた痕跡の残る、伐採用の片手斧。戦闘には適さない。

 戦闘には一応使えるものの、向かないとされる。その分耐久度が高い。

 鉱人族の里で作られたものが流れ着いた逸品。古い品だが、性能は確か。


【リスポーンクリスタル】

 一部の特別な存在が死からの再生及び復活を果たす為に必要なアイテム。

 耐久度はクリスタルのサイズによって変動する。設置されたその場から動かすことは出来ず、また汚染された場合には浄化が必要。

 さる錬金術師と異邦人の合作に××××の手が加わった品。ある存在の手により世界各地にばら撒かれており、その総数は定かではない。


 …………いや最後! 最後!


「爆弾が落っこちてないかこれ……」


 弓と斧が霞むレベルの情報が出た気がする。他にも何かやろうと思っていたのに吹っ飛んだ。

 ともあれクリスタルだ。これ、色々なゲームで見かける所謂「考察班」のような人々にでも見せれば食いつくこと必至ではないだろうか。今は人間系プレイヤーと会えるかさえ分からないが。

 ーーあ、でも他に手段が……後でもいいか。今やることでもなし。


 数分後。

 うんうんと一頻り悩んで、結論が出た。後でゲーム内掲示板でも覗いてみよう。他のプレイヤーとコンタクトを取るならそっちが早そうだ。コンタクトを取った所でどうしたものかというのは置いておく。


「……とりあえず、弓の装備だけはしよう」


 気を取り直して。

 本格的に弓を触ってみることにする。まずは弦を軽く引いてーー……


「ん。引きやすいな」


 思っていたよりも手応えが軽かった。もうちょっと強く引いてみよう。


 ーーと思っていたのだけれど、何時の間にか調子に乗っていた。ギリギリギリ、と音を立て始めてしまう程に力強く引かれた弦が目の前にある。

 流石にここまでくると手応えはバッチリだ。しかし引くのに時間がかかるので、いい塩梅を見つける必要があるな。


 息を吐いて、弦をゆっくりと元に戻す。

 矢筒から矢を取り出して番えてみた。やたらと馴染む。《ボウマスタリー》の補正、というやつだろうか? なんにせよありがたい。


 ーー次いで、弓を構えようとする。脳裏に構えが浮かぶ。なんとなく、どう構えてどう動けばいいのかが分かってきたように思う。

 若干の気持ち悪さがあるが、強制的に身体が動く訳ではないからまだマシか。

 《カタナマスタリー》とかあったらあの爺様の構えに似せるんじゃないか、と一瞬思うものの。アレの本領は常人には真似できない動きだからな……。


 さておき、いよいよ弓を装備してみようかと思ってウィンドウを開く。

 ……あれ。もう装備状態になってる。どういうことだろう。

 ひょい、と弓を手放しても装備状態は切れない。ウィンドウから「装備解除」を選ぶと解除は出来たが……


「装備するって思いながら持つと装備出来て、特に何も思わなければ装備出来ない……ねぇ」


 色々と試しながら偶然見返したアイテムテキストに『所有者:ノーラ』という欄が出来ていたのもあるのか、()()()()ーー思考入力に近いシステムでもあるのだろうなと推測出来た。


「便利で助かるのは間違いないか」


 盗まれなければいい問題だし。短絡的思考なのは認める。


 ふとUIから、現実とゲーム内の時間を確認する。……まだ余裕はあるな。日が出ているが、死んだらその時だ。

 あれこれ試せたし、実験と探索を兼ねて外に出てみよう。


 メニューから開いた『インベントリ』、所謂異空間アイテムボックスに斧を放り込んで、弓と矢筒を背負う。周りを見てみると鋸や炊事場などもあったけれど、今は確認しなくていいだろう。多分。

 ベルトポーチだとかはなかったものの、弓と矢筒を背負う為のフックらしきものはあってよかった。

 なければかなり面倒だっただろうなと心の中で溜息を吐きながら、最早扉としての体裁を成せていない木の枠組みをくぐる。

 ーーそうして俺は、小屋の外に足を踏み出した。

鑑定したアイテムの表記に若干の変更を加えました。本筋には影響はありません。

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