0ー3 キャラクターメイキング-2
0ー1から分割した話になります。
あれから少し考えてみた。
メインに扱いそうな武器関連のスキルで欲しいのは弓系なので一旦パス。
魔法はやるつもりはないのでやめておく。
パッシブのステータス強化スキルにあたるものはあまり種類がないと……。
ふぅむ。では戦闘に間接的に関わったり、そもそも関わらないものは?
……これだけに絞っても数が多いな。
ウィンドウをぽちぽちとやりながら少しずつ候補を狭めていっているが、正直に言うとキリがない。また運営に聞いてみるか。一応予防線も張らせて貰いつつ。
「ヘイ運営。今の種族と職業からおすすめできそうなソロ向けスキルはありますか? ……あ、勿論業務に差し障りのない範囲で」
……
…………
………………
三十秒経ってレスポンスが来た。大分悩んだか荒れたかしたのだろうか。だとすると申し訳ない。しかし絶妙に不親切なのがいけないと思う。
『業務上スキル関連につきましては具体的なスキル名等はお答え出来ませんが、生産系や採取系などがお勧め出来るかと思います。このゲームのソロプレイは人と関わらないのであれば自給自足が大切です』
物凄く丁寧な文面だった。実にありがたい。運営がどこの方角にあるかは分からないけれどもウィンドウを拝んでおこう。ありがとうございます、ともしっかり口にしておく。
ともあれ。スキル関連よりかは種族関連は答えやすいのだろうな、ということを推察しつつ生産系や採取系にあたるスキルの確認を行う。
弓をメインに据えるなら生産や採取はやはり木に関連するものだよな、と。
であれば《伐採》とか《木工》だろうか。……《細工》もそれっぽいか。用途が解り易くて助かる。この三種は選んでおこう。
では三枠を消費しまして、と。
……次は戦闘用のスキルにしておくか。
《ボウマスタリー》があるなら弓もあるはずーーあった。《弓》。そのままだな。取得。
説明に書かれていた「アーツ」なるものについては後でWikiでも見ておこう。
追加で《危険察知》《看破》なるものも発見。攻撃の方角が分かったり、まやかしや隠れた罠などが見破れたりするらしい。
この二つは取ろう。種族スキルの都合上恐らく先手で殴られると死ぬ確率が高いから、事故防止用になるといいな。
これで残りは四枠か。最低限の活動はできるように取れたと思うのでよしとしよう。
……しかしこうなれば、最後に選ぶのは「やれること」を拡張するようなスキルがいいだろうか? 基準になるものがないから、ほぼフィーリングになってしまうけれども。
もうかなり時間が経ってしまっている気がするが、ここまでくればスタート時間とかは誤差だ誤差。しっかりと見比べよう。
ーーそして暫くしてから、幾つかのスキルを見つける事に成功した。
それは《狙撃》や《遠視》であったり、後衛としては重要そうなもの。
もしくは《狩猟》と《解体》という、ソロプレイで必要になりそうに思えるもの。
後は《鑑定》だとか《植物知識》だとか、ゲーム内できちんと知識や情報を得る為のもの。
最後に嫌でも目に付いたのは、《体術》と《剣術》……弓使いとして弱いクロスレンジを埋めうるけれども、リアルでやっている分わざわざゲームでまで積極的にやりたいとは思わないもの。
なんで最後にそう付け加えたか、というと。
『Second・Phantasm』のようなフルダイブ型のVRゲームは現実の技術やプレイヤー本人の反射神経・才能などをそのまま持ち込んでこれることが原因である。
そのような仕様があるからこそゲームとしては画期的だし人気だけれど……まあ、そうした所でただただ現実のトレースになってあまり面白味がないからやめておきたいというのが正直なところだ。ゲームをやっている気がしなくなる。
とは言っても、鍛えた技術よりも元来備えてしまった才能の方が抑えるのは難しい。俺も何度悩まされた事だろう。
だからこそ爺様やら刀姉は思い切り持ち込んで遊ぶスタイルなのだがーーと。話がズレた。
ともあれ、さっさと残りの枠を選ぶか。
心中で愚痴っているうちにも時間は過ぎる。野暮なことはこれ以上は避けよう。
……近距離対策はしておくべきだと思うが、ここは取得しないことにした。現実の技術に頼らず自力で覚えて遊びたい。
となると純粋な後衛として動ける方がいいか。特化してしまおう。
そうしたら確定するのは《狙撃》と《遠視》で……残り二枠が困りどころか。
では、残った候補で優先したいものはーー考えるまでもない。《鑑定》と《植物知識》にしておこう。
知識は大切だ。毒キノコを間違って食べたりしたら大惨事である。……骨で遊ぶから食えるものとかないんだけどな! ハハハ。
さて。なんだかんだとあったが、どうにか決まったのでよし。
あとは視界の端からちらちらと見える骨格標本を軽く弄るつもりーーだったのだが、スキャン済みの身体データからリアル準拠の骨格にするだけで作業が終わった。どうせ骨だしアバターは拘りがない。
わざわざ盛りたいところは……いやいや。さすがにゲームじゃ虚しかろう。気にはしてるけど、気にし過ぎてもいけないのだ。
……んー。『魔物系種族は発声にエコーやノイズなどのボイスエフェクトを入れられます。オンオフはご自由に設定してください』か。面白そうだし、オンにしておこう。
声自体を弄れるシステムは現行の技術的には実装不可能らしいが、こういうお遊びくらいは全然できるんだな。知らなかった。
そう思っていると、ウィンドウがまたひとつポップアップした。
『キャラクターネームを設定してください』
ふぅむ。現実の名前から少し弄ってもいいのだが、折角だ。こちらの自分の特徴からも取ろう。
不死から取ってーーノーラ、と。……不死ならアンデッドだろう、という野暮なツッコミはナシだ。
命という名前なのにもう死んでいるからとかそういうネタなんだ、これは。自虐しつつ、決定ボタンを勢いのままに押す。
……おっと、これが最後のウィンドウだろうか。
『以上で、キャラクター作成を終わりますか? Y/N』
うん。予想より長く時間をかけてしまったけれど、これでいいだろう。
ゆっくりとウィンドウのボタンを押下したその瞬間。ふわり、と身体が浮き上がった。
自分の意志とは裏腹に、暗い水底からの浮上が始まる。
ーー仮想の自分が解けていく。腕や足の肉が細かなポリゴンに溶けて、骨が露出する。
一歩間違えればグロ画像のような演出だけれど、何故だか嫌悪感は湧かない。
次第に光が差し込んできた。
視界一面の暗闇に、輝かんばかりの光が瞬く。淡い緑色が、視界の端で集まってーー。
そして、手を。
最早骨そのものと化した手を、水面に少しでも近づけようとしたその瞬間に……意識が途切れた。