0ー2 キャラクターメイキング
0ー1から分割した話になります。
気付けば、一面真っ黒な海の中を漂っていた。
目印になるようなものもなく、かと言って海面らしきものを見上げても光は差し込まず。
泳いでいるという実感さえ湧かない空間の中でーー何故だか海底を目指そうとしていた。何の確信もなく、体勢を変えて実行に移そうとして。
そして眼前に、これはゲームであると示すようにウィンドウが現れる。びっくりした。
「『Second・Phantasm』へようこそ。歓迎致します……ね」
この黒い海の中で唯一の光源でありーーやたらめったらに無機質極まるそのウィンドウを数秒間見つめれば、文面が変わった。
そうして出てきた利用規約の類はしっかりと読んで、○だったり○をつけなかったりとぽちぽち。
ウィンドウがまた切り替わる。
『キャラクタークリエイトを開始しますか? Y/N』と、これからはじまるのだなぁ、ととっても良く分かるそれに対してYをひと押し。
続々と追加で現れたウィンドウと、今後使っていくアバターを示すのであろう乳白色のマネキンに興味が行く。
種族に職業にスキルに……やはり多いな。とりあえず、一番大事そうな種族から見ていこう。
一〇分後。
「決まらない……」
最初の三〇秒で魔物系種族をやるかなと漠然と決めたはいいものの、案の定難航していた。
「やりたい事が定まっていないから、だろうな」
こういったゲームは凡そ「やりたい事・なりたいもの」に合わせて外見をチューンするものだ、とはそこそこ遊んだ2D・3Dゲーム経験からの解答である。
ではどうしよう。ならばやりたい事を決めよう。どうせ外見にはあまり拘りがない。
「刀剣類はいつも触っているので論外。魔法はあまり惹かれない、生産系は大事そうだけれどもパス」
自衛できる生産職ってかっこいいよねとは思う。しかしハードモードで選べる程蛮勇でもない。
折角剣と魔法のファンタジーなのになぁ……と溜息を吐く。灰色の脳細胞が叩き出す解答はいつだってシンプルなのだ。
「遠距離の暴力って、いいよな!」
そう笑い、弓道のきの字も学んだ事はないけれども、とりあえずはそれらしい種族を探してみる事にした。
更に一五分後。
「見つからねぇ!」
すぱーん、と積み重なったウィンドウを視界外に押しやる。人間系には森人族なる弓使い垂涎の種族があるのに、魔物系にはそんな気配は一ミリもありはしなかった。
「うーん……見落としでもあるのか。ヘイ運営、弓の扱いが上手い魔物系種族ってありますか?」
チュートリアルの補助がないってどういうことだよ。半ば自棄のような口調で声を張り上げると、眼前にウィンドウがポップアップする。
『種族『歩き骸骨』を確認してみてください』
秒でレスポンスが帰ってきた。こわい。そのリソースを詳細な案内に入れて欲しい。
しかし、だ。
「スケルトンか」
スケルトンと言えば所謂「黄泉帰り」の代名詞、だと思う。歪な形で蘇ったものとかそういった。日光とか聖なるものですぐ死ぬイメージがよくあるあれでもある。
あれを構成している骨ってどうなっているんだろうな。
そう思いながら、スケルトンについての詳細な説明だかがなされているらしいボタンをタップ。
したのだが。
「……情報量多ッ!」
思わずそんな声を上げてしまうくらいには、いち種族に込めるようなデータ量ではないと真っ先に思う。
たったひとつのウィンドウが追加で現れたと侮るなかれ。
ーーこのゲームのスケルトンは、人間系種族の死体をベースにしているという事が分かった。
要は、人間系種族の数だけ白骨死体のバリエーションがあると。
偶然だとは思うけれど、「スケルトンの骨はどこからくるのか」という疑問が解消されたな。
なお、丁寧にも細かいスペックはベースになる死体から算出されているようで、力持ちだったり頭がよかったりと幅広かった。
人族に近いイメージでプレイ出来るけど魔物だから当然デメリットはあるよ、覚悟してね、との意訳になるような文章も添えてあった為、なんとなくだが「魔物系種族のチュートリアル」としての印象が挟まる。
「Wiki見てないのがバレるリアクションだなぁ、これ」
多分コレ、下調べをもっとしていたらあっさり分かっていたのだろうけど。事前情報減らして吶喊したのが悪かったか。
ともあれ、今から知っても遅くはない。すいすいとウィンドウを下にスクロールして、お目当ての素材を探していく。
「という事は……あった」
エルフの死体がベースになった、スケルトンーー!
名前:ーー
種族:歩き骸骨(森人族素体)
職業:ーー
ーー心なしか黒い海が少し色づいて、雰囲気が変わったような気がした。淡い緑がほんのりと主張する。
種族を選んでほっと一息つく。しかしやはりまだまだまっさらだ。
マネキンが理科室の骨格標本に様変わりするのを見届けて、身長だのの細かい調整に使うと思われるスライダーは一旦退ける。
そしてステータス画面を縮小しつつ、次は職業を選ぼうと新しいウィンドウを開きーースクロールバーを見て思わず顔が引き攣った。
「……こっちも大概多いというか、種族カテゴリの数倍の量じゃないか?」
いやぁ多い。ソートとかフィルタとかないかと探してしまった。あっさり見つかってよかった。
名前や使用武器での検索も出来るようだったから、『弓』で検索してと。
候補に挙がったのは『弓兵』と『弓使い』の二種が目立つな。
これ以外にも弓を扱える職業はあるのだけども、それぞれ細かく見ていると時間がかかりすぎる。択は狭めておこう。
フィルタかけてから狩人とかあるじゃんと思い付いた訳ではない。ないったら。
そして時間を割いてざっくりと見たところ、弓兵がパーティープレイ向き。弓使いがソロプレイ向きなのではなかろうか。
細かいステータス傾向とかフレーバーテキストを見比べてそう結論付ける。
そしてこのタイミングで『職業次第で習得可能なスキルに制限が入ります』とのtipsがこっそりとポップアップする辺り明らかにリアルタイムで監視されている。だから怖いぞ、それ。
ともあれ。
「魔物系種族スタートの時点でほぼソロになる、かもしれない」
運営が魔物系種族になんらかの配慮をしていれば別だが。
ひとまずそう確認するように口に出して、『弓使い』を職業に選択した。
何せ開始地点がランダムとのことである。種族を選ぶ時にも丁寧に警告がなされていたし。
さすがに高レベルエネミーしかいない環境に放り出されはしないだろうけれども、他のプレイヤーと合流することは難しそうだと直感した。
……合流出来てもちゃんとコミュニケーションが取れるかは一旦置いておこう。
気を取り直して、スキルを選ぶ。後からでも幾つかの手段で習得できるようだけれど、慎重に選ぼう。
何々、ウィンドウの内容はと。
『初期スキルを合計で一〇個選択してください。各種族には別枠として種族スキルが存在しますので、確認をお願い致します』
種族スキル。知らない単語が出てきたな。推奨されている事だし、確認してみよう。
種族スキル:歩き骸骨(森人族素体)
《肉体的脆弱》《光属性弱点》《打撃属性弱点》
《暗視》《状態異常無効》《ボウマスタリー》
ふむ。スキル名から見た感じ、メリットとデメリットがそれぞれ三つずつか。
打たれ弱く、光と打撃には特に弱い。しかし弓は扱えるし暗闇でも動けて状態異常は効かないと。
……詳細は?
《肉体的脆弱》
・VIT及びHPに減少補正がかかる
《光属性弱点》
・光属性の被ダメージ倍率増加。【アンデッド限定】日光下では継続してダメージを受ける
《打撃属性弱点》
・打撃属性の被ダメージ倍率増加
《暗視》
・照明のない環境下での視界に悪影響がなくなる
《状態異常無効》
・肉体または精神に干渉する状態異常を無効にする
《ボウマスタリー》
・各種弓の扱いに長ける。弓を扱った射撃や《弓》スキルの取得経験値などに補正を得られる
なるほど。詳しい倍率などは特に書かれていないと。こっそりと現れたウィンドウは後で見る事にする。
アンデッド限定で追加効果というのは……これ、アンデッドではなくても光弱点ということがあり得るからだろうか。
そして特に気になった「肉体または精神に干渉する状態異常を無効にする」という一文については、裏返せば「それらに干渉しないタイプの状態異常は無効にできない」とも言えるか?
このゲーム、想像よりも奥が深そうだ。
とりあえず種族スキルの内容は分かった。これを踏まえて初期スキルを探してみよう。何があるかなー……と。