STAGE☆99 「ぼっち男となかま達」
「ここは……、魔王城か」
ギブンがネフラージュ様との面談を終えて戻されたのは、ゲネフの森に急増された魔王の前線基地となった塔の最上階。
「贅沢な作りだよな。王宮って。権威の象徴なのかも知れないけど、俺には理解できないね」
ピシュとここで会おうと、特に示し合わせた訳じゃあない。
「約束しとけばよかったな」
以前と違い、仲間に預けた従魔の気配を感じることもできない今、みんながどこにいるかが分からない。
「ちょっと早まったかも……」
従魔との契約解除を望んだのはギブンである。ネフラージュ様が叶えてくれた。
「繋がりが完全に途切れたってことか」
魔物達は契約者ではなく、ギブンがそれぞれに許した相手に懐いていた。
だからギブンは、従う相手を切り替えてやりたくなったのだ。
「謁見の間にいないとすると、……この下の大ホールか」
この塔は今は、1階からも屋上からも直通しているのは、この謁見の間だけである。
他の扉は全て施錠されているが、ギブンは構わず魔法で解錠して、マップスキルに従い階段を下る。
「みんな、……久し振り」
まさか仲間が勢揃いしているとは……。
扉をくぐった真正面にはピシュ・モーガン。まさかまだあの露出強めの格好のままではと、少し不安だったがそうではなかった。
「俺と一緒に選んだあの服か」
その右隣にはオリビア・フォード・グラアナ。本名を名告るようにしたのだそうな。
身につけた鎧は。
「ファムか、変身がうまくなったな」
羽根の彫刻を施されたかのように見える全身甲冑は、彼女に従うファンタムバードという魔獣が姿を変えたもの。
兜が鳥獣の頭の様なのはデザインではなく、そこに魔物の頭があるからだ。
「剣もファムの羽根で作った物か」
完全に使用者の魔力頼みの装備となった。
グレバランスでも最高級の剣と鎧を使っていたオリビアが持ち替えた。と言うことは、ファムとの相性も格段と良くなったと言う事だろう。
更に右側にいるブレリア・アウグハーゲンもまた、ハクウを皮鎧のようにして着こなしている。
「前に見たのと変わってないか?」
ハクウの頭が、ブレリアの頭上ではなく胸にきている。
どうやらそうする方がお互い動きやすくなったようだ。
両手には虎の爪、大きな戦斧はどこにも持っていない。戦闘スタイルまで変えたのだろうか?
「……1人だけだと目立つよな。マハーヌによく似合っているけど、ここでは違和感でしかないな」
他のみんなが戦装束である中、赤い髪が映えるピンクのドレス姿は異様だ。
ドレスから感じられる魔力の波長は、スライムのフラムの物。
「まさかハイヒールもフラムが変化した物なのか。完全に制御しきっているみたいだな」
ピシュの左隣に目を向ける。中寄りにいるのはバサラ・ティラムーン。
従魔のアードを着込むことなく傍らに従えている。
「バサラはみんなみたいに、防具にしないのか」
着ているのは魔王軍の軍服。
黒い甲殻を持つ豹に似た魔物を着ると、剣士としての力を出し切れないと言うことか?
「あれ? アードって六本足だったはずだよな。……バサラが腰に下げてる二本の剣、アードの魔力を感じる。そうか」
まさか魔物の体の一部を切り離して所持できるとは、思ってもみなかった。
「テンケもラフォーを短剣にしているのか」
ぺぺ村のソソンの子、テンケにもフライングサーペントを渡した。ラフォと名付けられた蛇は頭部と尻尾を堅くし、体は柔らかい革紐のようになっている。
そして最後に控えるのは……。
「エミリア・ラズヘイドは仲間、ではないよな」
「あんまりな言い草ね。さんざ扱き使っておきながら」
「キミとはギブ&テイクの関係だ。こちらから提供している物も、少なくはないと思うけど」
彼女の傍らには1人の少女、いつもの助手フリュイ・メルドランではない。
「その口振りだと、キミも俺の仲間になってくれると考えて良いのか?」
「なんならお嫁さんに加えてくれると、尚嬉しいけど」
その気もないのに、よく言ってくれる。
「その子は誰? フリュイを首にして、新しく助手にしたのか?」
「フリュイは移動要塞サルーアで本国に戻ったわ。この子はエレ。私の使い魔よ」
「使い魔?」
鑑定スキルで見る限り、エレは人間じゃあない。と言っても他のどんな生き物とも違う。
「ホムンクルスか?」
「体は培養液の中で育てたけど、核は魔物のを使ってるから、どちらかと言えばゴーレムなのかしら?」
その核にした魔物はギブンが適当に捕まえて、研究したいと言うエミリアに渡した物。
「あのリッチが元になっているのか」
アンデットの中でも体を持たない霊などは、核も形ない陽炎のような物である。
討伐しても換金する核が手に入らないので、冒険者からは毛嫌いされているモンスターだ。
(ギルドに討伐要請が出るまでは、放置されることが多いよな)
「喜びなさいギブン・ネフラ。あなたの魔獣同調は、従魔にしなくても効果を発揮することが立証できたわ。私のこの装置を使えば、テイムしなくても魔獣を使役できることも証明された」
「……それはすごいな。けど今回のことで従魔枠も空いたし、不要なテイムはする気ないぞ」
そんなことよりもだ。
「つまり、このエレってゴーレムは、俺とマナで繋がっているってことか?」
みんなに譲渡した魔物達との繋がりも、完全に途切れたわけでないことを確認する。
「同調したままってのは、俺の魔力供給が続いた状態ってことか。意識を通わせる事はできないみたいだ。……これ以上の同調は控えるべきだな」
これまで魔力が枯渇したことはないが、今後も無事であると言う保証はない。
「安心してください。旦那様」
「オリビア……」
「へぇ、オリビアさんのこと、呼び捨てにするんだ」
「こ、これはピシュ!? その……」
「はいはい、ブレリアさんとのこともちゃんと知ってるから」
「旦那様、安心ください。私たちはみな、従魔との契約で、この子達が必要とする魔力は旦那様にではなく、我々にせがむようにと言い聞かせましたから、余程のことがない限り、ご迷惑をおかけすることはありませんよ」
オリビアが皆の前だというのに、素の自分で話していることに驚き、そして嬉しく思った。
間抜けた顔をしていると、ブレリアがギブンの首根っこを掴んできた。
「安心したか、主様」
こちらも婚姻を結んだことで呼び方が変わった。
ピシュ、マハーヌにバサラが非常に気まずい空気を垂れ流す。その理由は結婚式を挙げたからではない。
「みんなに頼まれて、身体検査をしたのよ」
エミリアはサルーアを送り返す前に、とある検査を行った。
「オリビアとブレリアを除いた3人、純血は流されていなかった」
「……はっ?」
いやいや、そんなはずはない。少しズルはしたかも知れないが、みんなと契りを結んだことは間違いない。ちゃんと。
みんなも、ギブン自身も記憶に残っていることだ。
「ギブン、あなたは幻惑魔法が使えるかしら」
「使えない。いや、魔法はイメージの産物だから、使おうと思えば使えるのかも知れないけど、使ったことはない」
「と、思い込んでいたとしたら」
それがあの晩の出来事で、実際には体の遠隔操作だって、できないのではないかと聞かれた。
「……できない!? いやだってでも、あの時は」
「それこそも自己暗示だった。ってところかしら」
エミリアの見解はこうだ。
みんなに強要されて逃げ場の無くなったギブンは、体を意識の外から動かす『遠隔操作』で、辛うじてみんなが納得する結果を残せた。と思い込んでいた。
しかしそれは、ケジメも付けないまま行為に及ぶということ。それも避けたかったギブンが、自己暗示も含めてみんなに幻惑を見せた。と。
「そう言ったことが起きていたなら、今尚この3人が、身綺麗なのも説明がつくんじゃあないかしら」
ついでに言われたが、オリビアとブレリアも懐妊はしていないとのこと。
もしエミリアの見立てが本当なら、ピシュ達にとっては全てに勝る大きな問題となる。
ギブンとしてはネフラージュ様と交わした今後について、早くみんなと話し合いたいのだが、場の空気はそれを許していない。
「これより第一回、第1王妃決定戦を行います!」
元魔王、ピシュ・モーガンが高らかに宣誓。ギブンのお嫁さんランキングが開催される運びとなった。




