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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
95/120

STAGE☆95 「ぼっち男は姿を見せず」



 グレバランス王国、西嶺ウエルシュトーク領にある温泉地の南、街道を魔物の軍勢は西へと、山岳都市ビレッジフォーへ向かっていた。


「なんで私が、人間族の町を守らないといけないの?」


「それが素なんっすね。ビギナさん」


「だって父様って、口やかましいから、人前ではかしこまれぇとか、いちいち堅苦しいのよね」


 ビギナはギブンにテンケと共に、ビレッジフォーを襲おうとする魔物を退治して欲しいとお願いされてここにいる。


「さすがはエミリアさんっすね。ちゃんと座標通りに転移したっすよ」


 バサラの転移装置をチェックしたエミリアは、即座に改良点を見つけて、半日で作業を終えた。


 少し不安ではあったが、思い切ってゲートを潜ったテンケたちの目の前に、目標の魔物の群れがいることに正直驚いた。


「あんたが何を言ってるのか、全然分からないわ。あのエミリアって女の言ってる事は、もっと分からなかったけど」


 驚いているのはテンケだけである。


「分からなくても大丈夫っすよ。ビギナさんには戦うべき相手が目の前にいる。って事を理解してもらえれば十分っす」


「なんかバカにしてない?」


 里では姫様扱いをされて、そのように振る舞っているが、昔から知る親しい人間の前では素を見せる15歳。


 ギブンはテンケに許可を得て、実年齢である13歳である事をビギナに伝えてある。


 ビギナが素なのは、案外テンケを気に入っての事なのかもしれない。


「けど私たちだけで、本当にあの数と戦うの?」


「もう、本当に何も聞いてなかったんっすね。あの中にいる魔人を見つけて、そいつが持っているはずの魔物の誘導装置を奪って、森に戻らせる作戦なんすよ」


「それって、魔物を全滅させるより難しいんじゃあないの?」


「魔物を全滅って、そんなの無理に決まってるから、バサラさんが計画を立ててくれたんじゃあないっすか」


「そうだったかしら? エミリアは私には難しいことは考えないで、ただただ暴れればいいって言ってたわよ。ただ私が本当にあの数と戦うのかを聞いたのは、どのタイミングで休憩を挟めばいいのかを、聞いておきたかっただけよ」


 この龍人の姫様は本気で魔物を一掃する気でいたようだ。けどそんな事が可能だったとしても、テンケの方は絶対に最後まで保つはずがない。


「いいっすか、オイラが相手の指揮官を見つけるまでの間、魔物を引きつけてくれればいい。ぶっちゃけ今ビギナさんにエミリアさんが言ったとおりに暴れてくれればいいのは変わりないっす」


「分かったわ」


 ビギナは指と首の骨をポキポキと鳴らす。


 タイミングを見計らったように、ゲートから次々と龍人の戦士たちが人間界に出てくる。


「みなさん、よく間に合ってくれました」


 ビギナが姫様の表情になった。


「それでは参りましょう」


 百人の龍人戦士を引き連れ、ビギナは魔物の群れに突っ込んでいった。






 ブレリアとエミリアは南境領の、ゲネフの森にほど近いウダプタの町に来ていた。


「ちゃんとメッセージを受け取っていたんだな」


「当然です。ファムが私と旦那様を繋げてくれるのですから」


 オリビアはギブンに「中央は心配いらないから、ブレリアを手伝ってくれ」と言われた。


「あら? ブレリアさん、もう1人いると聞いてましたけど」


「あいつは自国に帰ったよ。ご自慢の動く箱に乗ってな」


「動く箱? あの移動要塞とかうそぶいていた、“あれ”ですか?」


「知ってるなら話が早い。なんでも国に帰って、今後のためになるモノを作るんだってさ」


 今が大事な局面なのに、「私がいても何の役にも立てないわよ」と言って帰ってしまったそうだ。


「ご自慢の要塞で戦ってはくれないのですね」


「敵が多すぎて、身動きが取れずに足手まといになるだろう。ってさ。それでも役には立てるだろう。って言ったんだが、断られたよ」


 そんな事もあるだろうと、オリビアは南境の領都バンクイゼから、多くの騎士や兵士を引き連れてきている。


「ギブンが考えた案では、魔物を操っている魔人を始末する。そしてあたしらが魔物を誘導して、あの大森林に押し戻す」


「そういった作戦ですよね。ですが本当にそれで良いのでしょうか?」


「あいつを心配なのは分かるが、信じて任せるしかないだろう? 今までそうだったじゃあないか」


「……そうですね。ここで悩んでもしょうがないですね。では始めましょうか」


 オリビアはファムを呼び出し、ブレリアもハクウを身にまとった。2人は従魔の翼を使って宙を舞った。






 ゲネフの森に築かれた魔王の居城、基礎工事を魔界で済ませた資材を人間界へ、魔物を使って運ばせて突貫工事で組み上げた、5階建ての建物の最上階に玉座がある。


「そこに魔王……つまりピシュがいるって言う話、どう思われますか? ラージ様」


「我々は運がいい。四天王たるあやつらが何を考えているかは分からんが、あんな物を建てていたから進軍が遅れた。ギブン=ネフラがここまで見越していたと言うのだから、この後の予言も、信じてみるのもよいのではないか」


 魔王軍を相手にするための最低限の準備だと、ギブンは言っていたが、その間にグレバランス王国が火の海に消えてしまっていては元も子もない。


 ラージはギブンの筋書き通りに事が進むのでは? と本気で信じるようになっていた。その事を自覚して無意識にほくそ笑んでしまう。


「さて、我々に陽動をさせようとする、あの男の目論見、本当に操られるままでいいものなのか?」


「恐れながらラージ様、我々の乏しい戦力を鑑みれば、愚かとしか言いようのないあいつの策に乗る他ないと、私も愚考いたします」


「それほど魅力ある男には見えんが、お前はどうやらもう、あの男無しでは生きていけぬほどに心酔しているようだな」


「なっ!? そ、そのような事は……」


「いいんじゃあないか? 別に種族は違えど、お前を一人の女として愛してくれるのだろう?」


「……」


「ご報告します」


 バサラが言葉を無くした所に、魔王軍参謀官配下の魔人が膝を突く。


「準備が整ったようだな。バサラ、お前に中隊を預ける。好きに暴れてこい。だがなるべく同族を……」


「分かっております。お任せください」


 バサラに任せられた作戦。敵対する四天王を含む、全ての魔人の目を引きつける事。


 その間にギブンが魔王城に侵入、祭り上げられた魔王ピシュを奪い返す。そのチャンスを作るために、バサラは上位の魔物が守る城攻めを開始する。






 マハーヌはエバーランス領主、オバート・フォン・エバーランスとの対談の席にて、出されたご馳走に舌鼓を打っていた。


「なるほど、キミはあのギブン=ネフラの仲間で、北の海の人魚で、海の魔女の弟子であるというのだな」


「そうなのですよ」


 最初は愛娘を救ってくれた恩人と思っていた若き冒険者、ただそれだけだったギブン=ネフラ。


 冒険者としての活躍を耳にするにつれ、大したものだと感心もしていたが、まさか人魚を娶る虚け者であるとは、とんだ大物になったものだ。


「此度の魔物騒動、またも彼の者の関係者が、我が家の窮地を救ってくれようとは」


 マハーヌには申し訳ないが、彼女が迷子になってくれたお陰で大事に至らなかったのは、女神に感謝を捧げなくてはなるまい。次から次へと料理を平らげる姿には呆れるが、騒動が納まるまでは、この少女にはここに居てもらわなくてはならない。


「分かりました。なのですよ。一宿一飯の恩は、全力でこの町を護るのですよ」


 食後、風呂に入り、グッスリと眠るマハーヌが目をしっかりと覚ましたタイミングで、魔物達がまたエバーランスへ向かってくると言う伝令が入った。


 これから朝食を摂るはずだったマハーヌだが、近衛騎士に首根っこを引っ張られて、涙ながらに表に出る。


「リザードマンにハイオークの群れだ。正直、この町の冒険者ギルドでは戦った者がほとんどいない中級のモンスターだ」


 冒険者だけではない。エバーランスの騎士や兵士にも経験者はいない。


「フラム! さっさとお仕事を終わらせて、お食事するのですよ。来なさい! なのですよ」


 マハーヌはシャツとスカートを脱いでレオタードのような姿になり、その全身を水色のスライムが形を変えて覆う。


 敵の数が多い。


 マハーヌは得意の徒手空拳ではなく、一気に敵を屠れるようにフラムの一部を剣に変えて、魔物の群れの中に飛び込んでいった。

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