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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
94/120

STAGE☆94 「ぼっち男は間に合わず」



 魔王軍の先行部隊はゴブリンやオーク、コボルトといった低級の魔物が中心。そんな下級魔の軍勢に、グレバランス中央区のエバーランスは陥落寸前まで追いつめられていた。


「くっ、何故この様な状況になるまで、誰も気付けなかったのだ!?」


 魔物の軍勢の接近を気付けなかったのは大失態だったが、この周辺には先代勇者が残した防御結界が張り巡らされている。手遅れと諦めるにはまだ早い。


「しかし下級魔ごときがこんな……」


 前の終戦から今日まで、エバーランスの防衛力は完璧だった。


「実力に劣る相手ではないのであろう?」


 騎士団と冒険者が討伐に当たっている。ニ、三日もすれば王都からの援軍も加わわり、そこまで耐えれば勝利したも同然だ。


「魔物の侵攻を抑えきれないだと!?」


 エバーランスの領主オバート・フォン・エバーランスは、騎士団長の報告に驚愕した。事前の報告とあまりにもかけ離れている。その理由は分からないが。


「全ての魔物が連携しておるだと!?」


 ゴブリンやコボルトなど、狡賢い魔物ならまだしも、ワームやスライムのような本能のまま行動する、獣以下のモンスターまでも戦術に組み込んで責めてくる。


「統率者がいると言うことだな」


 前線では騎士と上級冒険者が次々と魔物を退治していくが、多すぎる敵勢に圧倒されて、戦線を維持できずに後退を続け、ついには城塞都市を護り続けた先代勇者の結界を、取りついた魔物が破壊してしまった。そしてついには壁にも張り付かれて今や決壊寸前。


 けれど町の住人はすでに北門から、王都へ向けて脱出している。


 領主の命により冒険者ギルドは下級冒険者を護衛につけた。住民たちは着の身着のままに出発したのが数刻前の事。


 今、魔物に城壁を越えられては、領民達に追いつかれてしまう。


「後1日早く、ゲネフの森の異変に気付いていれば……」


 領主バートは王都に救援を求める、王都騎士団派兵の要請文を持たせた早馬を走らせている。


 後1日持ち堪えれば、本隊は無理でも先行部隊が駆け付けてくれるだろう。


「明日の朝焼けを拝めるかどうか……か」


 大結界は破られても、まだ多くの魔導師や魔法使い達が、新たな防御魔法を張ってくれている。うまく時間を稼げれば、明日の夜明けも迎えられるだろうに。


「ゴブリンメイジにコボルトマジシャンだと!?」


 魔法を使う魔物が防御魔力を中和し、トロルが力任せに外壁を破壊していく。


「下級モンスターだけではなかったのか?」


 トロルの他にもリザードマンやスケルトンも目撃されている。


「このところ方々でダンジョンが出現していたから、防衛力を強化したばかりだというのに、まだまだ我々の考えが甘かったという事か」


 登録者数58人のエバーランス冒険者ギルドには今S級はいない。上級者はA級冒険者が3人とB級が8人だけ。


 近くに危険な森があると言っても、そこには幾重にも重ねられた勇者の結界が張られてあり、出現するのは小物ばかりで、云わばエバーランスは初級冒険者の修行にもってこい。と呼ばれる都市なのだからしょうがない。


 領主が抱える騎士団にしても、Sランククラスもいれば、そのほとんどが冒険者で言えばC級程度の実力しかない。


 この時代にも現れたという勇者が、大陸を縦断してくるのに、早くてあと2年はかかるだろう。


 歴代には5年の歳月をかけた勇者もいたという。


「三百年ごとに起きると言われる魔物の大量発生。それがたったの百年でか……」


 記録では今までなかったこと。魔物の動きも今までとは違う。


「いままでとは違う……、まさか俺の代でこんな事になるなんてな」


「バート様、素が出てますよ」


 騎士団長に諫められて咳ばらいを一つ、気を引き締め直した領主の下に、1人の兵士が大慌てで駆け寄ってきた。


「バート様! 南門が破られました」


 通用門は多くの兵と冒険者が防衛に当たっていた。


 最初は下級の魔物だけだったのが、休み無く戦い続ける防衛戦に、中級モンスターの上位種であるスケルトンナイトもが参戦してきて、戦況は一変した。


 騎士もC級以上の冒険者もいない南門が、壁よりも先に破られてしまった。


「私が行こう」


「領主様御自ら!?」


「騎士達や上位冒険者は、壁の魔物を相手にしていて手が離せん。私と近衛騎士以外に動ける者がいないのだ」


 領主は4人の騎士を連れて街中を馬で走り抜け、南門に急いだ。


 町中にはまだ住人が残っている。もしかしたら火事場泥棒でも働いているのかもしれないが、問い詰めている時間はない。


 バートは大声で退去を命じて、領主は南門へ急いだ。


 報せがあってから時間が経っている。


 悲惨な状況を覚悟して、スケルトンと戦う兵士長の印を付けた甲を見つけて、助太刀をする。


「状況は!?」


「りょ、領主様、助かりました。門は破られましたが、未だ町に入れることなく死守しています」


 それは行幸だが、報告通りに門は破られている。しかし門を抜けてくる魔物の数はたかが知れている。


 外は騒がしいと言うのに。


「どうなっている?」


 門から外を覗けば、まだまだ多くの魔物が闊歩している。


「説明を」


「はっ、何者かは判りませんが1人、トンでもない強さで、破られた門から魔物共を追い出してくれて、我々は足を引っ張らないように、門を抜けようとする魔物を討ち取っているところです」


 謎の乱入者がたった一人で?


 この町はそれなりに広く、斡旋される仕事もそこそこ多い。


 多くの冒険者が所属しているが、先述の通り、この町に滞在する冒険者は低ランクの者が多い。


 上位でありながら、この町に居残るような変わり者の冒険者は、バートも全て把握している。


 その誰も見覚えがないという女冒険者は、いつの間にか戦闘に交じっていて、門を破壊した魔物の群れを押し戻してくれて、そのまま門外で大暴れして、魔物討伐に力を貸してくれている。


 赤い髪が乱れ、汗が飛び散るその戦い方は、見る者の心に刻まれる。


 全身に水色の鎧を纏い、手にする武器も水色なのだが。


「なんだあの武器は!? 色んな形に姿を変えているぞ」


 門から少し離れてはいるが、そこはゲネフの森に続く一本道。彼女が敗れるようなことになれば、目前の魔物たちは一気に町中に雪崩込んでいくだろう。


 今回押し寄せてきている魔物の全てが、森から来ている。いくら強いと言っても1人で退治できる数ではない。


「バート様、壁に取りついていたモンスターを倒した、騎士と冒険者たちがこちらへ来てくれました」


「そうか、ならばあの冒険者を加勢して、一気に鎮圧するぞ」


 騎士団と上位冒険者は赤髪の冒険者の加勢に入り、間もなく魔物の進軍は収まった。


「よく頑張ってくれた。皆に感謝する」


 バートは騎士団と冒険者の前に馬上から声を掛け、自分をみんなに認識させたところで、馬から降りて労いの言葉を述べた。


 領主が馬上で声を上げたもう一つの理由、赤髪の冒険者を見つけて話しかけた。


「キミはこの町に住む冒険者ではないね」


「初めましてなのですよ。私はマハーヌと言いますなのですよ」


 マハーヌは一緒に戦ったフラムを元のスライムの姿にして、即座に従魔界に戻した。


「今の魔物は?」


「お友達なのですよ」


「魔物が? 従魔というヤツか。魔物が凶暴化しているこの状況でも、ちゃんと言う事を聞くのだな」


「あなた様はなんなのですよ?」


「おお、すまない。私はこのエバーランスの領主で、オバート・フォン・エバーランスという」


「おお、領主様なのですよ? エバーランス……あれ? なのですよ」


 マハーヌは首を傾げた。


「それでキミは……」


「えっ? 私はマハーヌといいますなのですよ。魔女様に占ってもらって、ここにくればギブンに会える。と聞いてヒュードイルへ来ましたなのですよ」


「……つまりキミはヒュードイルへ行くつもりだったと。まぁ、なにはともあれ、キミが道を間違えてくれたお陰で助かった。十分な礼をさせてもらいたい。ただ暫くはこのエバーランスに滞在願えないだろうか」


 バートは慌てて有能な冒険者を引き留めた。この有事に協力を求めたいと考えている。


「なに!? ギブン=ネフラ=グラアナの仲間なのか」


「グラアナ、なのですよ?」


「ああ、グラアナ公爵令嬢と結婚したらしい。爵位を賜るにあたって、グラアナの家名を頂戴したと聞く」


「グラアナ……って誰なのですよ?」


 聞いた事のない名前に戸惑うマハーヌ。


「なんとキミはA級なのか? 先ほどの戦い振りから、てっきりS級だと思ったのだが。そうか、冒険者としての経験値が不足しているんだな」


 それは違う。


 ギブンがU級となった時に、仲間達も昇級している。つまり今のマハーヌはグレバランスではS級に登録されている。


 そう認めたのは第1王子ラフォーゼ様。


 その情報は冒険者ギルド間の連絡網、霊脈を通してエバーランスにも届いている。


 しかしマハーヌはまだ登録証を更新していなかった。


「今はランクなどどうでもいいか、してどうだろう我々に協力を……」


「グラアナ? 結婚……、どこの誰とも知れない馬の骨と、結婚なんて……なのですよ」


 グラアナ嬢がオリビアである事を知らないマハールは、この後まともに受け答えをする事ができなかった。オリビアの本名を知るバートが事情を説明するまでは。

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