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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
92/120

STAGE☆92 「ぼっち男の丸投げ事情」



「ピシュが魔王?」


 そう言われれば、確かに思い当たるところはある。


 あの尋常ではない魔力量にも、そのセンスにも、かなり驚かされたものだ。


「もしかして俺にピシュと戦えと?」


「いや、キミには3バカを蹴散らして、彼女と対話をして欲しいのだ、が? なんだ戦うつもりなのか?」


 魔人は人間の顔を見るなり襲ってくる蛮族。


 ちょっと偏見が過ぎたかもしれない。


 ギブンは反省し、ラージの話を一通り聞くことにした。


「つまりピシュがバサラの目からは、別人のように見えると?」


「ああ、御三方の下に行ってから、直接話せる機会はないのだが、ピシュの振るまいが変わったように感じたのは確かだ」


 直に話をするにも、将軍たちが邪魔で近付くこともできない。


 先ずは邪魔物を排除して、一番気持ちの通じているギブンが確かめるのが一番。


「迷っている時間はない。私たちがここへ来たのはそこの獣人が、砦で大暴れした被害の確認だったが、この思わぬ出会いには神に感謝しなくてはならない。あのピシュと言う娘が、魔王として全軍を率いて人間界に攻め込むのを阻止しなくては!」


 それは今までの魔物中心の侵攻とは訳が違う。


 魔物を主体としたこれまでの魔王軍ではなく、統制の取れた魔人がメインの戦争となれば、人間界の被害もこれまで以上になる。


「人間界の惨状もだが、我が同朋の犠牲者もどれだけのものになる事か……」


 ラージは何より同族を大事に考えている。


 人間界の土地を奪い、安住の地を得るための犠牲には、目を瞑るという将軍たちには賛同できない。


「ピシュがその旗頭にされてしまうってことか……。分かった! どのみち選択肢なんてないんだ。俺ができる事なら協力する」


 マスクを外されたブレリアが、何か言いたげにギブンを見つめるがやがて。


「旦那様がそう決めたなら、あたしの不満はベッドの上で晴らすことにする」


 何についてかは分からないが、不満があるのは分かった。


 エミリアやテンケも物言いたげにはしているが、室長は溜息を零し、少年は苦笑いを浮かべるだけで、言葉を発することはない。


「それで俺たちは魔王軍の城塞へ向かうのか?」


「いや、キミが居てくれるのだ。時間がないのは分かっているが、一か所だけ立ち寄る場所がある」


 その場所は魔王城とは違う方角になると言うが、大きく迂回しなくてはならないほどではないと言う。


「ここから魔王城までの距離、更に迂回するとあってはこのデカブツでの移動は厳しいかな」


 快適生活空間を手放すのはおしい。できればこのままサルーアを利用したいものなのだが。


「我々はワイバーンを利用している。ハクウであれば付いてこられるだろうが、地面を這いつくばっていては、どれほど時間が掛かる事か」


 サルーアならギブンの異次元収納に入れることができる。


 何の心配もいらないと言う前に。


「問題ないわ」


「エミリア?」


 そうか、エミリアはフリュイから、ギブンの異次元収納について聞かされた居るはず。


「このサルーアの運転席で、膨大な魔力を供給してくれるこの人がいれば、移動要塞は宙に浮く事もできるのよ」


 それは初耳である。


 ワイバーン2、3匹で引っ張ってくれれば問題ないわと言われ、ラージも納得する。


「空中要塞……カッコいいな」


 中二心がそそられる。


「それでどこへ行くんだ?」


「竜の谷」


「竜退治でもするのか?」


「ふざけた事を言うな。竜を本気で怒らせたら、それこそ魔王様でなければ対処できない、未曾有の大惨事になるぞ」


 四天王ラージが会おうとしているのは龍人族だ。


「ラビアス・ドゥーアンの同族か」


 そう言えば、ブレリアに食ってかかってきた、龍人族の冒険者が王都にいた。


「ブレリア、人間界と魔界では龍人族の在り方は違うぞ」


 バサラが言うには、魔界では龍人族は獣人族よりも上位に位置づけられていて、竜の谷は黒魔人でも不用意に立ち入る事ができない場所なのだそうだ。


「キミの協力を得られたとは言え、我々の戦力不足は深刻だ」


「四天王ラージ、あんたの戦力とは?」


「ルグラブル将軍の軍勢の半分と言ったところだな」


 四天王ナンバー2とされるラージは、獣魔神官エーゲブル・ベスターに大魔導士バンダブル・ベスターの両軍合わせた数よりは多くの兵を預かっているが、3勢力を合わせられると、ざっと3倍近い差が出てしまう。


「私の兵は質に拘っているから、それなりには渡り合えるとは思うが、責めて戦力差は2倍程度にはしておきたい」


「獣人には協力を求めないのか?」


 日頃から虐げている獣人の協力を、ラージは得られなかった。


「それに獣人を徴用したところで、大きな戦力にはならないさ」


 バサラがそう言うとラージは深いため息をついた。


「彼らが我々に奴隷扱いされても大人しくしているのは、力の差を実感しているからなんだ」


「それは聞き捨てならないな。獣人が弱いと言いたいのか?」


 ラージの言葉に食って掛かるブレリア。今の彼女なら、黒魔人の隊長だって恐れることはない。


「獣人の弱さは心だ。人間界に行った獣人は知らんが、ここの連中は戦う以前に己を高める気合のある者がほとんどいない」


 そう思い込むようにしたのは、他ならぬ魔王軍なのだが、だからと言って全ての獣人から覇気を奪うことなんてできるのだろうか?


「もちろんお前のような気骨のあるヤツは当然いるさ」


 あの集落でも、バサラに食って掛かってきた者はいたと言うが。


「初代魔王の時代から圧力を掛け続けているからな、彼らは魔人を恐れているのさ。深層心理レベルでな」


 魔人の強さも獣人の強さも知るギブンには分かる。


 きっと獣人は一致団結して立ち向かえば、魔人の支配から逃れる事ができる。


 しかしそうさせないように魔王は暗示を刻んだのだ。魔王軍の助けになる事よりも、未来永劫邪魔をしない存在となるように。


「それを拒む気位の高い獣人が、人間界に居場所を移したのかもしれないな」


 人間は戦争となれば農民も徴用するが、絶対数の違う魔人はそういう訳にはいかない。


 獣人や無魔人は大切な労働力だ。下手に数を減らせば、畑を耕す者、狩りをする者がいなくなってしまう。


「軍人も畑を耕すことはできるだろうが、最初から上手くいくとは限らない。いずれは死が訪れるにしても、餓死だけはしたくない」


 バサラは冗談めかしているが、決して笑い話ではない。


「龍人となら共闘を望めるのか?」


「難しいだろうね。魔界で最強なのは魔王軍だろう。それは間違いない」


 一騎打ちでなら四天王ラージでも、かなり苦戦する龍人を何人も知っている。


「龍人は共闘が苦手なのだ」


 参謀管ラージは何度目かの嘆息を零す。


「ラビアス・ドゥーアンもそうだったかな?」


「あいつはちゃんと、仲間と力を合わせられる冒険者だよ」


 人間界にいる龍人は、獣人の国で生きている。


「もしかして、それも初代魔王の仕業なのか?」


「いいや、単に龍人が怠け者なだけだ。魔界での生活になんの不満もないのだろう? こちらからちょっかいさえ出さなければ、向こうからケンカを売ってくることもないしな」


 そんな連中、獣人や無魔人以上に、役に立たないのではないのか?


「やつらは頑丈な体をしているからな。肉壁にでもなってもらって、こちらの被害を減らせれば御の字だ」


 バサラが怖い顔で怖い事を言っている。


 そんな人手でも充てにしなくてはならない。切羽詰まった状態なのはわかる。


「それで? 俺が龍人に会ったところでどうなると言うんだ?」


「キミには戦って、勝ち続けてもらう。龍人たちの気が済むまで」


「はぁあ!?」


 ラージがまた時間がないのだよと繰り返す。話し合うのではなく、従わせる事で時短をするのだとギブンに説く。


「時間がないって、何をそんなに慌てているんだ?」


「ふむ、バサラの研究していたゲートを、大魔導士バンダブル・ベスターの部下が完成させたというのだ」


「つまりそのゲートを使って、人間界に打って出ようというのね」


 エミリアがラージに変わって答える。


「ゲートが完成し、ピシュを魔王に担ぎ上げ、全軍の士気も最高。全ては将軍の目論見通りにな」


 バサラの完成間近だった研究に、最後の一工夫を加えて成功を収めた者は、バサラをライバル視する女性だったと言う。


「よしよし」


「ブレリアお前、それで慰めているつもりか?」


 ギブンは2人を見て冷や汗を流す。


「見えたぞ。あそこが“竜の谷”の“龍人の里”だ」


 ラージが指差したのは断崖絶壁。


 人間界の龍人には使えない飛行スキルで、里を飛び交う龍人たち。


 ギブンは名乗りを上げた18人と戦い、その全てを叩きのめして、百の龍人兵を引き入れる事に成功した。

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