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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆91 「ぼっち男と新魔王」



 勇者の話に入る前に、ギブンには気になる事があった。


「高い魔力がないとゲートをくぐれないと言うけど、バサラが研究していた物は、魔力の低い者でないと通れなかったんじゃあなかったか?」


「そうだ。そもそも魔王様が開くゲートは、魔王様並みの魔力がないと通れなかったが、それでは軍を送るなんて事はできない」


 魔王は魔力が低くても、強い肉体で通り抜けが可能だった魔物を多く、人間界に送り出したが、まとめ役の魔人がいなくては、軍として成り立たつものではなかった。


「ゲートを開けるというのは意外と簡単だった。けど魔人でも通れるように安定させるには、様々な工夫が必要だった。私の研究というのは、つまりそう言う事だ」


 弱い魔物を使ってゲートを維持し、そこを魔人が通れるように安定させるゲートを研究開発、完成にまでこぎ着けた。


「ダンジョンで見たゲートと、獣人国で通ってきたゲートが、全く違ったのはそういうことか」


 しかし待てよと、ギブンはエミリアとフリュイが通り抜けられたことに疑問を抱く。


「ブレリアさんが通れたのは獣人だからだろうけど、魔力も高くない人間の2人がなぜこっちに来られたんだ?」


「そんなのは私が聞きたい」


 バサラにこう言われては、今すぐ答えが出そうにないので勇者の話に戻す。


「勇者は勇者召喚によって現れる」


 神が勇者召喚の力を人間に与えたとラージは言う。


「勇者は魔王様のゲートを潜れるほどの魔力を持つようになる」


 しかしそれは旅の果て、成長を遂げた証のようなもの。


「最初から神様が、とんでもない魔力をくれるもんじゃないのか?」


「人間に? いきなりか? そんなことをすれば……」


 その人間は間違いなく廃人になるだろうと言う。


「だから神は人間に召喚魔術を託したのだ。無闇に力を与えすぎんようにな」


 ネフラージュ様はそんな風には言わなかった。


 陽気に登場して、気軽に多くの加護を与えてくれた。


「また話を折るが、人間界と魔界はやっぱり違う世界なのか?」


「その話か……、お前に理解できるかは分からんが、この世界はな、まあるい玉の上に乗っているんだ」


 そのバサラの説明に、反発したのはブレリアだった。


「地面が丸いだって!? 地面は平らじゃあないか。そんなの生まれたての子供だって、すぐに分かることだぞ」


「ああ、そうだな。だが魔族の中にはその世の理に疑問を抱いて、世界の果てを見つけようとしたものがいてな、巨大なワイバーンの上に、寝泊まりができるほどの大きな籠をつけて、旅をしたことがある」


 それは魔王城の書庫に、書記として残されている。


「星を読み、ひたすらに真っ直ぐ飛んだワイバーンはやがて出発地点に戻っていたと言う話だ」


 そして気付いた。大地は湾曲していて、その上を真っ直ぐに進めば、どの方向に飛んでも、元いた場所に戻るだろう事に。


「そいつは三度、同じ実験をして、同じ結果を得たというのだ」


 空から見た地平は、平らではなくかすかに湾曲している。と付け加えた。


「やっぱりね。私の仮説とも一致する。もっとも私のは机上の空論だけれど」


 エミリアが口を挟む。


 彼女もまた、空から世界を眺め、大地が歪んでいることに着目していた。


 今のバサラの説明なら、納得がいくのだ。


「それで? 大地が丸いと、人間界と魔界がどう繋がっていると、説明できるんだ?」


 ギブンは話の先を急ぐ。


「魔界は人間界の玉の世界の中にあるのさ。同じく丸い、けれど人間界よりも小さな玉の世界がな」


「おかしなことを言うわね」


 さっきまで感心していたエミリアが、バサラの次の言葉に噛みついた。


「じゃあ、そのあなたの言う玉の世界は、二重になっていて、魔界は人間界の地面の下にあるっていうの? ここにはちゃんと空があるじゃない」


「正確には同じ場所に違う大地が存在する。と言うべきか。夜の星の位置が、魔界と人間界とで完全に重なる。そしてその世界の大きさを比べると、魔界は人間界の中にある世界としか考えられないのさ」


 つまり座標を同じくする別世界、大きさは違えど、同じ星と言うことになるのだろうか。


「まさにファンタジーだな」


「ふぁんたじー?」


「なんでもないよバサラ。それで? バサラはまた、魔王軍に戻ったのか?」


「そ、それは、なんだ……」


 バサラはなんだか複雑な表情をしている。


「その事については私から話そう」


 四天王ラージが手を挙げた。


「バサラの今の姿をキミはどう思う?」


「どうって、俺との契約も解けて、彼女が無魔人になってしまった誓約からも解放されて、元の姿に戻れたんだよな。ちょっと複雑ではあるけど、よかったんじゃあないか?」


 ギブンは今も仲間だと思っているが、魔王軍に戻りたいというなら、止める権利はないと考えている。


「許されるなら、一緒にいて欲しいけどな」


「だ、そうだぞ。よかったな」


 ラージは満面の笑みで、バサラの背中を手の平で叩く。


「どうしたんだバサラ、顔が真っ赤だぞ。……って、顔が赤い? 顔が黒くない?」


 上位魔人の証である黒い顔、銀の髪、赤い瞳をしていない。


 彼女は白い肌をしていて、ほんのりと頬を朱に染まている、ギブンがよく知った緑の髪に黄色い目をした巨乳少女だ。


「魔法で化けていた。お前に従魔界へ入れられた時に、お前との契約は解けたが、その代わりに私もみんなのように、アードと強い絆で結ばれることができた」


 そのアードの魔力も借りて、黒魔人に化けていた。


「こいつと一緒なら、確かに私は魔族軍に戻れるだろう。けれど……」


 バサラはラージの顔を見た。


「さてギブン・ネフラとやら、私がキミに会いに来たのは、やってもらいたいことがあっての事だ」


 ここからの話はいくら仲間でも、ブレリア達に聞かせるわけにはいかないと言われ、場所を馬車に積んであるコンテナハウスに移動した。


「だからお前には聞かせられないと言っただろう」


 ブレリアとテンケはサルーアに残ってくれたのに、移動要塞の主がしれっと付いてきてしまった。


「私は人間代表よ。この話って、明らかに今後の両世界に重要な話でしょ。だったら人間の私にも聞く権利はあるはずよ」


「そう言う事なら、私は獣人代表だ」


「オイラは勇者ご一行代表ということで」


 分かってくれたのではなかったのか?


「なんだ、結局2人も来たのか。……彼女たちも一緒でいいかな、四天王ラージ」


「ふぅ、しょうがない。だが聞くのは構わないが、口出しはしないでもらう」


 ブレリア、エミリア、テンケには、言葉を失う呪詛付きマスクを掛けてもらう。


「私たちはこれから、他の四天王と戦わなくてはならないのだ」


 ラージが深い溜め息の後に言った。


「我らが魔王様は未だ顕現なされていない」


「何だって!?」


 そんなはずはない。


 人間界には勇者が現れた。


 テンケから教えてもらった勇者は、おそらく異世界人、しかも十中八九で日本人だ。


 魔王降臨は間違いないはずだ。出現周期が三分の一ではあるが、魔王が生まれたから勇者が召喚されたはずだ。


「魔王様はまだ降臨されていない。だがあの3バカ四天王は、新たな魔王様を捜し当てたと言って、バサラに連れてくるようにと命じたのだ」


「私がその命令に従ったのは、ラージ様からの指令だと、聞かされてだったのだけどな」


 ルグラブル・グーブル将軍、魔王軍の将にして最強の魔人。


 将軍の部下が、ラージの命令だと告げに来た時は、流石にバサラも怪しいと感じたが、逆らう事はできなかった。


「バサラが連れて行ったのは……ピシュなんだな?」


「ピシュが人間なのは間違いない。心臓が脈打つ音は将軍にも確認してもらった。なのに迷うことなく祭り上げたんだ。魔王様だと言って」


 ピシュの魔力と魔法のセンスがそう言わせた。将軍の声に四天王の獣魔神官エーゲブル・ベスターと大魔導士バンダブル・ベスターも賛同し、ピシュは魔界の王となった。


「無茶苦茶だ」


 以前観測された魔力嵐、その場にいたバサラとピシュが目撃されていたらしい。


「あの現場にいたと言う兵士が、お前との誓約が切れた私に接触してきた。お前に一言も入れずにピシュを連れてきた事は謝罪する。しかし連絡しようとしたけどできなかった事は信じてほしい」


「バサラが悪いわけでないことは理解した。それじゃあピシュは、その四天王達に捕まっていると言う事なのか?」


「そうではない。そんな簡単な話なら、我々だけでもなんとかなるだろうさ」


 ラージは腕を組んで眉間に皺を寄せ、溜め息を溢す。


「詳しい説明は省くぞ」


 バサラはピシュの変化について簡単に告げた。


 彼女は自らが魔王である事を、受け入れたのだと。

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