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転生ぼっち  作者: Penjamin名島
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STAGE☆89 「ぼっち男の大乱闘」



 砦内でもさほど広くない部屋の中、派手な魔法は使えない。


 それは魔人の方も同じなのだが、そうなると戦闘のメインは肉弾戦となり、身体能力も獣人以上の黒魔人の攻撃は警戒レベルMAX。しかも相手は4、5人が束になって襲いかかってくる。


 身体強化の魔法が使えれば!


 しかしギブンはまだ、魔法が使える程度には慣れてきてはいるが、本領を発揮できるほどではない。頼れるのは神が与えたもうた剣一本。


「もしかしたらこれは、この剣の使い方に慣れるチャンスかも」


 ソード・オブ・ゴッデスは切れ味はもちろん、どれだけ斬り続けても、刃こぼれしたり血糊で使い物になったりもしない。


 剣としても最高の一本だが、なにより驚きなのは、魔力を込めれば込めた分だけ、望んだ形で魔法を使用できるチートアイテムなのだ。


 ギブンはスキルや魔力量が人を超越しているから、今までは神剣を使いこなす必要もなかったが、こんな状況になるまで慣らしてこなかったのは、怠慢だったと言わざるを得ない。


「ピシュは……」


『ピントちゃんはね……』


 クーヌフガルーである九尾の狼は、ピシュの魔法の杖となって彼女の魔法を補助する。


『ものすごい大食らいなの。私が込めた魔力をドンドン吸収しちゃって、そこからイメージするんじゃ遅いんだよ。先にどんな魔法にするか決めてから魔力を注ぐの。そうするとちゃんと思った通りの魔法にしてくれるんだよ』


 ピシュは2度目のフビライ護衛を受けた時に、そう話していた。


「ブレリアさんは……」


『ハクウとあたしは一心同体……』


 ホワイトウイングタイガーを、全身スーツのように身に纏う彼女は。


『阿吽の呼吸ってヤツだな。あたしのしたい事をハクウが理解して、時にはハクウの動きたいようにあたしから合わる』


 武器だって息をしている。それは無機物でもそうだとブレリアは語っていた。


「バサラは……」


『魔力ってのはただ込めればいいってもんじゃあない。特に武器にするための魔力ってのは……』


 魔法で武器を産み出すには、魔力の調整が大事で、最も難しいと言っていた。


『私の武器は魔力その物だ。そんな効率の悪い戦い方は真似する者もいないが、利点は多い。どんな状況にも瞬時に対応できし、少ない魔力を最大限に活かせるのだ』


 力任せにではなく、繊細に魔力を扱えるようにならなければいけない。


「オリビアは……」


『集中力です。剣を振るうときに大事なのは……』


 非力さをカバーして、最高のキレ味を生むには、その一点に注ぎ込まれる集中力を大事にしろと教えてくれた。


『私がAランクまで登れたのも、この剣技を身につけたお陰です』


 出会って間もない頃から幾度となく、指南を受けてきたのに、この期に及んでの体たらく。本当に面目ない。


「マハーヌからも……」


 何か大事なモノを学んだ気がするギブンは、難しく考えるのではなく、これまでの経験を活かして、ソード・オブ・ゴッデスに向き合うことにする。


 黒魔人との戦闘でかなりのダメージを受けているギブンだが、それを悟られないようにと、瞬間再生を続けているが、魔力はまだまだ余裕がある。


「水を剣に、想像するんだ」


 水を分子レベルにまだ意識を乗せ、剣の周りを高速で振動するようにイメージする。高分子カッターは魔人を結界ごと一刀で真っ二つにした。


「想像以上だな。この生活にも慣れたけど、流石に……」


 思った以上の結果に、もっと集中力が必要なのだと考え、次のイメージを懸命に、瞬時に固める。


「よし! 次は火を……」


 火を使った剣技のイメージというのは、水よりも難しい。


 火魔法が一番得意なギブンだが、燃えるだけの剣なら、直接火球を飛ばす方が威力も上だろう。


「火をまとわり付かせるんじゃあない。芯を炎のように熱くするんだ」


 そのイメージを受け取ったのか? 剣が真っ赤に変色する。


 赤い剣が振れた魔人は、切り口から火を噴き出して燃え尽きた。


 ギブンは次をイメージしようとするが、風と土は得意と言えるほど使えてはいない。


「くっ!? 魔人の強さがハンパじゃあない。魔法をイメージする時間が……、そうだ、あれならば!」


 ギブンは異次元収納から一本の剣を取り出した。


 バスタードソードサイズの神々しい“ソード・オブ・ゴッデス”を右手だけで持ち、左手には神剣とは対照的な禍々しい剣を握る。


「これがこの剣の特性!? 魔力がドンドンと吸われていく」


 左手のそれは、テンケが持っていた呪われたアイテム。


 鎧の方は使いどころもなさそうだったので放置してきた。剣を持ってきたのは、アイテムとして面白そうと感じた。ただそれだけだった。


「名前通りに厄介だな。“悪喰の剣”」


 状態異常を無効化してしまえば、ギブンにとってはただの鉄の剣でしかないが、意図的に魔力を与えれば、お礼とばかりに力を貸してくれる。


「この剣、斬った相手の血を吸っているのか?」


 否、剣が吸っているのは、血の中に混じる純度の高い魔力そのもの。魔人にとっての命を吸っているのだ。よくこんな物を持っていて、テンケは生きていたモノだ。


「……そうか、あの鎧は確かに、テンケにとっては足枷でしかなかったが、その特性故に死を免れる事ができたってことか」


 放置した呪われた鎧は、“鋼鉄化の鎧”と表示されていた。


 身につけた者の魔力を内に封じて、体力も半減させる呪詛が掛けられた鎧だ。


「勇者はテンケを殺そうとしてたんだよな……」


 剣と鎧の重さでテンケを潰そうと、勇者は考えていたように思えたのだが、もしかして本当に彼の事を思って? 分からない。謎である。


 左手一本でグレートソードサイズの悪喰の剣を楽々振り回し、ギブンは上級魔人を薙ぎ払う。


「はずだったんだけどな」


 二刀流なんて思いつきが、しかしそんな簡単に通用するモノでもない。


 魔法主体だった魔人の攻撃が、剣を構えた兵士に取って代わり、接近戦の乱闘をしかけてきた。


「強力な武器を持っているようだが、剣の腕はお粗末だな」


 魔人が大振りの剣で力一杯打ち付けてきた。ギブンは悪喰の剣を落としてしまう。


「ははっ、こいつはいい。てめぇの剣であの世に行きな!」


 ギブンが落とした剣を拾う魔人だったが、突然倒れてしまい動かなくなった。


「なにやってんだお前。遊んでないで早く起きろよ!」


 後ろにいた仲間が倒れた魔人を立たせようとしながら、悪喰の剣にも手を伸ばす。


 二人目も動かなくなり、魔人達もようやく普通じゃない事に気付く。


「やばいのはこいつか? あの剣か?」


「そんなのお前、どっちもに決まってんだろ」


 人間だって魔力が尽きれば死ぬ場合もある。だが魔力がなくては生きられない魔人とは違う。


 剣の腕はそんなでもないが、魔法の力は本物、そしてどう見ても曰く有りの剣を、素知らぬ顔で振り回している男。


 仲間が倒れたのが魔力枯渇と気付いた1人が、ギブンの顔を見てたじろぐ。


「と、砦を破壊しても構わない。その男を殺せ! この場で確実に!!」


 敵の数は半数近く減った。


 倒した魔人はBランクくらいの実力者ばかり、残された18名は11人がAクラス。7人がS級以上だろう魔力を秘めている。


 しかし砦を破壊するつもりだというのなら、こちらも全力で極大魔法をぶつけるのも悪くない。


 ギブンは魔力の調整が上手くいかないだけで、全力が出せないわけじゃあない。いっそ全てを吹き飛ばすくらい思い切ってみようか。


「そ、そいつに魔力を練らせるな! 全力で斬り伏せるぞ!!」


 Sランクの黒魔人が5人突っ込んできた。ギブンの魔力上昇に気付いて、邪魔をしてくる。


 前衛がギブンを抑えている間、後ろにいるAランク魔人が詠唱を始める。


 このクラスの魔人であれば、呪文の詠唱なんてしなくても、強力な魔法攻撃も可能だろう。けれど人間でも魔人でも、魔法はちゃんと理を解いて魔力を練り上げなければ、強い力は発揮できない。


「呪文詠唱、それもあの人数で!?」


 得体のしれない人間を砦ごと吹き飛ばす。魔人たちは全ての魔力を注ぎ込んだ集団魔法を紡いでいく。


「くそ、こっちは、くっ! 詠唱なしの魔法を、使う間もないってのに」


 取り付く島もなく、5人の統制の取れた連続攻撃に為す術なく防戦一方のギブンは、奇跡の鎧がなければあっさりと、粉微塵になっていただろう攻撃を、なんとか凌いで反撃のチャンスを窺う。


「確かにお前は強いが、これだけの手勢の前によく頑張っているが、これまでだ!」


 2人のS級魔人が結界と防御魔法で味方を守っている。中途半端な攻撃は通用しない。


 こうなったら奥の手をと、従魔界に呼びかけようとした瞬間、砦の外で待機していた2人がギブンの前に姿を現した。


「それまでだ。もういい」


「ですが!?」


「全滅したいのか? あんたも、手を止めないってんなら、もう黙って見てられないよ」


 1人の黒魔人が声を掛けた途端、魔人達は攻撃の手を休めて膝を突いた。


 ギブンも剣を異次元収納に戻す。


「お前がS級冒険者をも凌駕する、U級と称えられる男か」


 向こうはこちらを知っているようだが、ギブンは魔人の顔に覚えがない。


 ギブンが知る黒魔人、それも女性となると記憶にあるのは唯1人だけ。


「こいつなんだろう? お前が世話になった男って言うのは?」


「はっ! 間違いありません。四天王ラージ様」


 四天王と呼ばれる、その女魔人の後ろに付き従っている顔には覚えがある。


 真っ黒な肌をしているが間違いない。


「その男の名はギブン・ネフラ。私に人間の従者と言う汚名を浴びせた大悪党です」


 間違いない、この魔人は黒い姿を取り戻したバサラ・ティラムーンだ。

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